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日米がん看護座談会 がん対策基本法施行で新たながん看護の時代へ 患者さんに対するサポーティブケアが看護師の大切な役割
看護師による患者さんへの情報提供システム
柳澤 ところで情報提供についていえば、川上さんはキャンサーネット・ジャパンの一員として、Eメールなどで患者さんのさまざまな疑問にエビデンスに基づいて答えておられます。こうした情報提供システムはどのように機能していますか。
川上 看護師のなかでも意識の高い人は、積極的に情報提供に取り組みたいと考えています。しかし看護師の就業状況は率直にいってハードそのもので、なかなかそこまでの余裕が持てないでいるのが実情ではないでしょうか。私自身、3交代で勤務していたときは、家に帰るとぐったりした状態で、研修会に出かける気力も持てないし、新聞を読む元気さえ持てないときもありましたからね。
私の場合は、病棟勤務の一方でボランティアとしてキャンサーネット・ジャパンに関わり、エビデンスという言葉を理解していましたし、活動を通してエビデンスに基づく情報を検索し読み解く方法についても学びました。けれども仕事に追われるほとんどの看護師は、その言葉にふれる機会があまりなかったのではないでしょうか。
キャロル 米国では看護師のためのニュースレターがあります。たとえばオンコファックスなどは全米レベルでもよく知られています。そうしたニュースレターは多くの場合、週単位で発行されており、今週は乳がん、次の週は大腸がんといった具合に、最新の研究論文が特集されているんです。日本でも製薬会社と提携すれば、そうした情報伝達が可能なのではないでしょうか。
トレイシー 米国では、それ以外にも病院内ではたとえばアップ・トゥ・デートなどコンピュータによる情報検索システムが利用されていますね。
キャロル 私がお勧めしたいのはキャンサー・ケアという患者支援組織が運営しているテレ・カンファレンスという情報提供システムですね。これは一種の電話会議システムで2週間に1回開催されるのですが、それこそ世界中から800~1000人もの患者さんが参加されるのですが、その人からの質問に各分野の権威として知られるドクターが答えているんです。
口に出さないタイプの人に細心の注意が必要
柳澤 話をちょっと戻させていただきますが、米国では90パーセント以上の患者さんが外来で化学療法を受けていますね。この場合には副作用のマネジメントがより重要な意味を持つと思います。そこでの看護師の役割はどんなものなのでしょう。
キャロル 外来治療では専門性の高い看護師が存在することがより重要な意味を持っています。高い専門知識を持つものがいなければ、薬剤による副作用の症状も的確には、判断できませんからね。
柳澤 もっとも注意されている副作用の症状にはどんなものがありますか。
トレイシー 吐き気、嘔吐、脱水症状、それに皮膚や呼吸器に現われる症状については、とくに注意を払っています。それに副作用についていうと、患者さんのタイプを見きわめることも大切ですね。症状があっても口に出さないタイプの人たちには、より細心の注意が必要でしょう。
キャロル 米国ではトリアージという一種の電話相談システムがあるんです。そこでは看護師が患者さんから、その時々の症状をたずね、対処の仕方をアドバイスしています。患者さんの言葉から、看護師が症状を的確に判断し、必要な場合には、病院のどの科を訪ねればいいか情報を伝えているんです。もちろんこのトリアージを担当できるのも、専門性が高く、しかも経験が豊富な看護師に限られます。薬剤による副作用や合併症について正確に判断しなければなりませんからね。
告知から始まるがんサバイバー人生
柳澤 話が変わりますが、最近になってがんサバイバーシップに基づいた看護のあり方が求められ始めています。がんサバイバーシップというのは、がん患者さんが告知を受けた後、どのように生を全うしていくか、その過程を重視する考え方ですね。 このことについてはどうお考えですか。
川上 私自身はがんの告知を受けた時点で、その人はがんサバイバーの一員だと考えています。私たち看護師はその告知に対する意思決定の段階から、一貫して患者さんにかかわり続ける必要があるでしょう。現実的にいえば、ひと通りの治療を終えて社会復帰を果たされた患者さんにどう接していくか、どう支援していくかということを、もっと考える必要があると思っています。
トレイシー スーザン・リーという方も川上さんと同じように、告知を受けた時点でがんサバイバーとしての人生がスタートすると言っています。私たちがサバイバーを支援するうえでもっとも大切なことは、やはり的確な治療を提供することでしょう。その治療の後は病院で身体的な側面でのフォローアップが1年ごとに行われ、家庭、サポートグループで精神面あるいはスピリチュアルな側面でのフォーローアップが実施されることになります。
やっかいなのは一生、つきまとうことになる副作用のマネジメントです。とくに小児がん患者の場合は、副作用の問題が深刻で、米国にはそのための専門クリニックも見られます。そうした治療とは別に、米国の病院では、企画セクションが中心になって年に1度サバイバーシップを祝うパーティが催されることも少なくありませんね。そうして患者さん同士、あるいは患者さんと医療スタッフの交流が自然な形で維持されていくわけです。
退院後も看護師は患者さんとの交流維持

青谷 川上さんも言っておられたことですが、日本では、ナーシングの対象になるのは入院されている患者さんや外来で治療を受けている患者さんにほぼ限定されてしまいます。社会復帰を果たした患者さんをサポートするには、看護師の側からかなり積極的にサポートグループなどにアプローチしなければなりません。その点、アメリカではどうなのですか。すでに治療を終えた患者さんにどのように接し、どんなサポートを行っているのでしょうか。
トレイシー 患者さんの多くは治療を終えた後も、最初の半年間くらいは週に1度くらいのペースで病院を訪れます。しかし、それ以降になると、どうしても患者さんの病院への足は遠のきます。そこで外来担当の看護師が、患者さんとの交流維持に努めるようになるんです。パーティへの招待などもその方策の1つですね。
病院から離れても、患者さんは再発不安など、さまざまな問題を抱えています。そうした問題を解消するうえで、こうした交流の場はとても重要な意味を持っています。また副作用などの初期症状を発見するうえでも、患者さんと直接、対面することはとても大切ですね。日本の病院でも患者さんの連絡先は把握されているのですから、こうした試みは簡単に行えるのではないでしょうか。
もうひとつ付け加えると、不幸にして患者さんが亡くなったときには、お悔やみの手紙を送ることも大切でしょう。それが遺族の癒しにつながることもあるでしょう。私の場合には、患者さんが亡くなった後20年以上も交友を続けているご遺族もあるほどです。
柳澤 なるほど。アメリカでは患者側と医療側の間で、より密度の高い関係が保たれているようですね。その1つの背景として、がんという病気の捉え方ということもあるのではないでしょうか。日本ではがんになると、離婚や離職を余儀なくされる人が少なくないことでもわかるように、がんという病気そのものや、がん患者に対する誤解や偏見がまだ残っているように思います。アメリカではその点はどうでしょう。
キャロル アメリカでも以前はがん患者に対する偏見がありました。しかし、現在ではほとんど払拭されています。アメリカでは障害者を保護するための法律があり、がん患者もその法律によって守られています。ですので、がんになったから退職を迫られるといったことは一切ありません。
青谷 残念ながら日本ではそうはなっていませんね。実際私が患者さんから受ける相談も、半数以上がこうした社会的な事柄に関する問題です。そうした問題を解消していくためにも、がんサバイバーシップがより広く社会に浸透していくことを期待しています。
(構成/常蔭純一)
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