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確かな情報をつかむために、患者とその家族はどう対処すべきか 対談 埴岡健一VSまつばらけい
セカンドオピニオンがファーストオピニオンの「コピー」?

――先ほどまつばらさんのほうからセカンドオピニオンの話が出ましたが、埴岡さんはボランティアで「がんのセカンドオピニオンを上手にとるコツ」という小冊子を出されていますよね。
埴岡 セカンドオピニオン・ネットワークというボランティアグループを作って、仲間と一緒に出しました。これにはきっかけがありまして、納得して医療を選ぶ会が主催したセカンドオピニオンに関するシンポジムで、私と南雲吉則さんが講演をした。Q&Aの時間に、地方にお住まいの高齢者の方から、「どういう心構えでいるべきかといった話は分かった。だけど、私の地元で実際にどこに聞きにいけばいいか分からない。具体的には、どこへ行けばいいの?」と質問されたのです。確かにその方のおっしゃるとおり、セカンドオピニオンの「べき論」や「能書き」だけ聞いても、それだけでは何の救いにもならない。セカンドオピニオンを引き受けてくれる具体的な医療機関や医師のリストが必要なんです。
シンポジウムの打ち上げで反省会をしているとき、この話になって、南雲さんと「そうだよね。医師リストがあるといいね」という話になった。骨髄バンクの事務局長をしているときに白血病に関するセカンドオピニオン医師リストというのは作ったことがあったので、あらゆるがんに関してこうしたものがあるといいなあとは思っていました。「あるといいね」ということで終わりそうだったのですが、納得して医療を選ぶ会の方が、「言いっぱなしでなくて作ろうよ。さっそく打ち合わせをするから逃げないように」ということになって、このプロジェクトがスタートしたのです。セカンドオピニオンについての小冊子と「*セカンドオピニオン協力医リスト」がこのプロジェクトの柱です。冊子でも強調しましたが、ファーストオピニオンができていないところにセカンドオピニオンはなかなか成り立たない、というまつばらさんのご意見には同感です。
まつばら 2001年にNHK「ETV2001」に協力して女性がん患者571名を対象に行った「がん患者に学ぶアンケート調査」で、約8割の人が治療法の選択肢を提示されず、約4割の人が後遺症や副作用について十分な説明を受けていない、という結果が出ました。婦人科がん医療に「満足している」と回答した人はわずか6.7パーセントでした。
埴岡 アメリカではチーム医療が当たり前ですから、初診のときには外科医と内科医と放射線医が同席して、カンファレンス(治療方針検討会)をします。たとえすんなり外科手術に決まっても、チェック機能は働くわけです。ところが日本の場合は、たまたま行った先でバイアス(偏り、偏向)のかかった治療選択をさせられてしまう。��うした問題点を補うのがセカンドオピニオンの本来の機能であるべきなのですが、ここにまた問題が横たわっている。セカンドオピニオンが往々にしてファーストオピニオンの「コピー」になってしまうことがあるんです。どういうことかということ。初診で外科に診てもらったあと同じ医局出身の外科医に診てもらっても結果は大同小異。最初に蕎麦屋に行ってまた別の蕎麦屋に行くのではなく、洋食をとったら次は和食にしましょう、ということなんです。外科に行ったら次は放射線専門医の意見も聞いてみましょう、ということです。
まつばら 科を変えても、同じ病院内だと、セカンドオピニオンにならないことも多々あります。独自の外来や病棟を持たず、外科系の医師から回される患者の治療に携わることが多い放射線科医は立場が弱く、遠慮して、外科医の医師の意見に同意することが多いです。婦人科がん医療の問題の1つは、子宮頸がんの1b期~2期は広汎子宮全摘出術と放射線治療は、治療成績が同じなのですが、公平な説明が行われず、ほとんど手術が実施されていることです。放射線治療は閉経するので、若年で、卵巣を残せる人の場合は、手術のほうが良い場合もありますが、卵巣のことを除けば、手術のほうが排尿・排便障害、リンパ浮腫など、QOLが劣ることが明らかになっています。しかし、日本の場合、がんを発見するのも治療法を説明するのも外科系の婦人科医。ほとんどの場合、手術を第1選択肢として、往々にして「手術のメリットを強調しデメリットは割引き、放射線治療のメリットは割引きデメリットは強調する」という、手術へ誘導的な説明が行われています。放射線治療の選択肢があることをまったく示さない場合もあります。ですから、1b~2期の子宮頸がんの患者が、放射線治療へたどり着くのはなかなか大変です。自ら情報を集め、放射線科医を受診しないと。
――現状に対する官と民との医療改革に対する取り組みはどうなんでしょう?
埴岡 信頼できる成績情報を集計して開示するには、要は、がん病院では必ず院内がん登録という仕組みを実行して、各病院の成績を開示するようにすればいいんです。
院内がん登録という仕組みは多くの先進国がすでにやっていることですから、やらなきゃいけないことははっきりしていて、やり方も分かっています。ただ、日本ではそれをやる義務や、やる主体や、そのための人員やお金がはっきりしていません。実行のための道筋をつけてあげることが必要ですね。
患者にとっては治療成績に限らない、多様な病院情報を探し出せる場があることが大切です。米国では、全米がん協会が一般向けのがん情報サイトを持って、治療ガイドラインや臨床試験などの情報を提供しています。それに比べれば日本の国立がん研究センターのウエブサイトの内容は見劣りします。ただ、遅ればせながら国立がん研究センターも「がん情報センター」を作ろうという方針を打ち出しました。しかしどれだけ患者の視線で患者の望む情報を提供できるか……。
まつばら 患者自身の動きは?
埴岡 がん患者からの情報センター構想も打ち出されています。大阪のがん患者である三浦捷一医師が、がん患者によるがん患者のための「日本がん情報センター」を作ろうと提唱していますね。患者が必要とする情報が、患者が得られやすい形で提供される仕組みという発想は素晴らしいと思います。マスコミも、病院ランキングをやることで、治療成績や病院の医療体制、設備などの情報を増やすことに貢献をしていると思います。
一方、行政もようやく本格的ながん対策に動きはじめました。昨年9月、坂口力前厚生労働大臣がみずからリーダーシップを取って立ち上げた「がん医療水準均てん化(全国どこでも質の高い医療を受けられるようにすること)推進に関する検討会」が設置されて、日本のがん病院の診療格差を解消する方法を検討し、3月末に報告書を作成しました。尾辻秀久現大臣も、「対がん戦略には真剣に取り組んでいく」と力を入れていくことを言明していますね。地域がん診療拠点病院(以下、がん拠点病院)を全国的に配置して整備することは、今の対がん戦略のなかでも柱となる政策ですが、これから、がん拠点病院の見直しも行われます。
これまでは、がん病院として大した実力がなくてもがん拠点病院になれましたが、条件が厳しくなっていきます。充実した患者相談窓口を持ち、がん登録に基づいた成績開示を行うことは必須となっていくでしょう。その代わりに、しっかりしたがん拠点病院には診療報酬を優遇することが検討されています。今年2月24日、がん患者13団体が集ってがん対策の強化を厚生労働省に申し入れました。そこで、優れたがん病院には診療報酬の加算をしろ、という要望もされていました。簡単に言うと、「努力すれば報酬は弾むよ、患者も支援しているよ、ただし高いバーを越えないとダメだけど」と、がん拠点病院に呼びかけているわけです。いい動きだと思います。
まつばら これまで医療情報のほとんどが医師から一方的に発信されてきましたが、ここ数年、患者の視点、患者の言葉による病気・医療の情報が生み出されてきています。患者の視点の重要性は、一部の医師の方々も認識して下さっているようです。私事で恐縮ですが、2003年に、私が大島寿美子さんとの共著で『子宮・卵巣がんと告げられたとき』(岩波書店)を出版したところ、あるがん専門病院の医師は「この本は臨床医にこそ読んでもらいたい。特に後遺症や退院後の暮らしについては患者さんでないとわからない」とおっしゃってくださったんです。私たち患者自身も日本のがん医療をよくするために、できることを地道にしていきたいですね。
*セカンドオピニオン協力医リスト=このリストは、セカンドオピニオン・ネットワークのホームページ(ホームページを見る)から無料でダウンロードできる。
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