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敷地内に連携ホテルオープン、2030年には新病院完成予定! 最高の治療と創薬などを目指す国立がん研究センター東病院
トップ研究機関が集まる「柏の葉スマートシティ」の立地を生かして
敷地内にホテルを誘致したのは、もう1つ大きな理由があったそうです。
「私たちの第1のミッションは国立のがん研究センターとして最高のがん医療を提供することですが、ミッションはもう1つあります。先端医療開発センターという研究機関が病院と併設されていて、新しいがん治療法や新薬、医療機器の開発を進めています。そのためには国際的であることが不可欠です。各国から専門家や治験を受ける患者さんが絶えず来るような病院でなければなりません。実際、今日のがん治療開発や治験が1カ国で行われることはありませんから」
治験を受ける患者さんの滞在場所として、連携型ホテルは欠かせませんが、このホテルは居心地のいいシティホテルでもあり、海外からの研究者や創薬企業からのゲストなどにとっても便利な拠点となります。
第2のミッションをクリアするために意外に大きな要素となっているのは、柏の葉という立地。この地域はもともと東大、千葉大などのキャンパスがあり、2008年には「柏の葉国際キャンパスタウン構想」が策定され、2020年代に導入が計画された都市計画(*スマートシティ)のモデル事業地として選ばれ、現在、同事業が展開されています。
「東大や千葉大は文科省、我々は厚労省、柏の葉キャンパス駅の近くには経産省管轄の産業技術総合研究所もあるなど、柏の葉は研究のトップ機関が省庁を超えて集まっている場所です。私たちも産総究や東大、企業などととさまざまな共同研究を行っています」と大津さん。
実は、ホテル開業に先立つ2022年2月にオープンした施設(第1号棟)に、「三井リンクラボ柏の葉1」があります。ホテルと同じ三井不動産が手掛けたもので、前述の高見さんによれば、「東病院に隣接した研究ラボで、さまざまな企業に入っていただき、東病院や東大などと共同研究や連携ができるフィールドをつくるのが目的です。『ドライラボ』ではなく、薬品を使用できる『ウェットラボ』であり、実験も行えます」

大津さんはさらに、「当院は、三井リンクラボに入居している企業とも開発を進めています。我々は新しい医療機器や薬の開発はできても、製造・販売することはできませんから、企業と連携していくことが必要です」
実際に最近、こうした連携については大きなトピックがありました。再生医療などの製品の研究・開発から、事業計画策定、商用生産までの過程を*ワンストップで実現する「再生医療プラットフォーム」を、柏の葉スマートシティに共同で構築する契約を、東病院、三井不���産、帝人(株)、(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの4者が締結し、*シーズ保有者への支援を開始したというもの(2022年9月27日発表)。とくに、がんに関する再生医療製品などの事業化を加速し、日本初の革新的な治療法の提供を目指すとのこと。
「再生医療には外科的な再生医療もありますし、特定の遺伝子を細胞に届けるためのツールとしてウイルスベクターを用いて、患者さんのT細胞を利用してがん細胞を攻撃するCAR-T細胞療法などの再生細胞医療もあります。しかし、その開発基盤は日本は非常に脆弱で、これらの治療に使う薬剤を製造できる企業がないことが問題になっています。今後その病院隣接ラボに再生医療の製造企業も入りますが、このプラットフォームができたのは、国内のこの領域の開発において非常に喜ばしいことだと思います」
*スマートシティ=ICT(情報通信技術)などの新技術を活かして各種の課題を解決し、新たな価値を創出し続ける、持続可能な住みやすい都市をつくること
*ワンストップ=複数の部署や機関に股がる行政手続きを一度にまとめて行えるようにすること
*シーズ=元は「種」との意味。商品やサービス開発の素となる技術やノウハウなどを指す
世界の創薬の中心地ボストンのような場所をめざして
こうした最先端新事業の誘致を、現在ほかの薬剤や治療法に関しても進めているとのこと。例えば、放射性医薬品。腫瘍に発現している受容体を選んで結合する化合物に、放射性物質(この場合はルテチウム)を標識して患者さんに投与し、体内からがん細胞に放射線を照射する治療法で、2021年、ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍に対し、ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT療法)の治療薬ルタテラ(商品名)が保険承認されました。
「ニーズはかなり増えているのですが、まだ日本では治療を行える施設が限られています。当院ではルタテラの投与を開始していますが、新しい放射性医薬品の開発治験を実施できる病棟も来年春にできる予定です」
「例えば、現在脚光を浴びている薬にエンハーツ(一般名トラスツズマブ デルクステカン)があります。HER2タンパク陽性に対するブロックバスター(画期的薬効を持つ新薬)ですが、胃がんについてヒトに世界初投与(ファースト・イン・ヒューマン:FIH)したのは当院でした。その後、胃がんでの論文が『The New England Journal of Medicine』に掲載され、そのデータをもとに米国でも承認されました。FDAが米国人のデータなしで承認したのはこれが初めてだと思います。FIHに対応できる*施設は日本には少ないので、そこに対応できることは高く評価されます」
そうした観点から大津さんがめざすのは、がん治療の一大拠点であるMDアンダーソンより、むしろボストンなのだそうです。
「今、世界の創薬の中心はボストンです。ボストンにはノーベル賞研究者を輩出するハーバード大学やマサチューセッツ工科大学があり、世界中の製薬企業研究所のほとんどが集まっています。新しい薬の開発に関しては、ボストンが他を圧倒しています。そして、ボストンには、サイエンス・レベルが高く企業と創薬も行っているダナ・ファーバーがんセンターなどがあるのですが、私たちがめざしているのは、こうしたがんセンターなのです」
*日本には臨床検査センターや研究機関など約30のCAP(米国臨床病理医協会)認定施設がある。東病院は、病院内施設としては国内では現在唯一のCAP認定取得病院
データの集積は患者さんにもメリットが還元される
そうした施設であれば、治験もたくさん行われそうです。
「そうですね。国立がん研究センター東病院が最も強いのは、薬事承認を取得する前のところです。当院は、SCRUM-Japan(スクラム ジャパン)という世界最大規模のがんゲノムスクリーニング・プロジェクトを立ち上げました。これは今、215の医療機関などが参加するプロジェクトとなっています。
それが評価され、米国の企業が開発した最先端のリキッド・バイオプシー(血液や尿などの体液を用いてゲノム解析を行う検査)をスクラムが使うことになりました。世界で初めてこの解析を日本の患者さんが使うのです」
「こうした解析によるデータの集積は非常に意義が大きく、これに基づいた共同研究をいくつも行っています。今日、GAFAと呼ばれる情報のプラットフォーム(グーグル、アップル、メタ、アマゾンなど)に多くの産業が左右されています。例えば、車の自動運転を実現するのは自動車企業のテクノロジーよりグーグルの位置情報だったりしますが、医療においてもそうした情報のプラットフォームは強い。データがあれば、新たな創薬も個別化治療もかなりの精度でできるようになってきているのです」
連携ホテルにもつながっている、東病院の研究開発計画。その恩恵は患者さんにもありますか?
「もちろんです。我々としては治験段階のものを含めて、できるだけ最新、最先端、かつ最高レベルの医療を提供したいと考えています。とくに今、がん治療は非常に大きく変わっています。世界の治験に入ることで、劇的に効果が得られる可能性もあります」
「例えば、免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(一般名ニボルマブ)。10年ほど前、私の知人が腎がんでかなり厳しい状況になったのですが、オプジーボが腎がんにもよさそうだとの情報を得て、治験を勧めました。その結果、あと数カ月の余命と言われた彼ですが、今も元気に仕事を続けています。
また、オプジーボやキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)は2022年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で肺がんと乳がんに対し、併用療法で効果が上乗せになるという報告がありました。これまでは進行がんが対象だったが、今度は1次治療の術後の患者さんが対象になります。免疫チェックポイント阻害薬1剤で、がん治療成績全体を押し上げたことはいまだかつてないと思います」
「今お話ししたリキッド・バイオプシーで我々もびっくりしたのですが、Ⅰ期の早期がんでも血液中にはがんのDNAが確認されます。『術後の再発も予測がつく』という我々の論文も近々『Nature Medicine』に出ます。
例えば、大腸がんの手術をしてⅡ期とかⅢ期だったら、全員に術後抗がん薬治療を行います。実際には投与が必要な人は1割~2割です。その選別が今のリキッド・バイオプシーできるようになり、これまで副作用に苦しみながら行っていた抗がん薬治療を本当に必要な人だけに絞れることになります。また、免疫チェックポイント阻害薬なども選別がつくようになると感じています。
しかし、こうした情報が一般病院に広まるには5年くらいかかりますから、そこが我々の強みです。患者さんにはチャンスをできるだけ提供したいと考えていますので、あきらめずに来て欲しいですね」
快適なシティホテルに滞在しながら、最先端のがん治療を安心して受けられる。日本のがん医療の牽引役国立がん研究センター東病院の取り組みが、がん患者さんの希望とつながっている。
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