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医師と患者のコミュニケーション もっと上手にスムーズに!
「説明しても理解してもらえない」医師と、
「心情を理解してもらえない」患者さんの溝を埋めるには

医師はどのような場面で「患者さんとコミュニケーションがとりにくい」と感じているのでしょうか。
患者さんへの詳しい説明を心がけているという村上さんは、こう話します。「最近では、勉強されている患者さんが増えていますが、こちらの説明をなかなか理解していただけないこともあります。患者さんと奥様に、“内視鏡生検による顕微鏡診断で悪い細胞が見つかりました。病気の広がりを調べるとともに、手術を含めた治療が必要です”と数10分にわたってお話した後、帰り際に、“ところで、私の病気は悪性ですか?”と聞かれてガックリ」
言葉を尽くして説明しても、理解されないことに疲労感を感じることがあるそうです。
「好奇心旺盛で人間好き」という吉田さんは、「患者さんの自己決定権を尊重しながらリベラルに対応しているつもりですが、たまに手術などの標準治療は受けずに代替療法を受けている患者さんから、検査だけしてほしい、しなければ病院長に投書する、などと言われたことがあります。患者さんの自己決定権は尊重しますが、自分で決めた医療機関ですべての責任を負ってほしいと思います」
医学教育に詳しい箕輪さんは、「医師は概してプライドが高く、感情をはさまずに科学的、論理的に考えようとする傾向があります。患者さんが権利だけを振りかざし、感情的になることに抵抗がある人が多いのではないでしょうか」と感想をもらします。
患者さん側は医師とのコミュニケーションがとりにくい理由として、「医師が冷ややかでそっけない」「患者の心情への配慮が足りない」などの点を挙げているのに対して、医師の側は患者さんの理解の仕方や感情的な反応などが気になるようです。
このようなギャップを埋めるためには、「病気を抱えてつらい思いをしている患者さんの心情を医療者側に理解していただくのと同時に、患者側も感情をむきだしにせず、医師の話の理解に努めながら、自分の希望を的確に伝える必要がありますね」と、山口さん。どうしたら医師と患者のよりよい関係が生まれるのか考えてみました。
自分の病状を知り、予備知識を得ることが
医師の説明を理解し、質問をしやすくするカギ
初めてがんと診断された患者さんは、医学的な用語に慣れていない上にショックが大きく、「家族は?」「仕事は?」とさまざまなことが頭を駆け巡り、医師の説明が頭からすり抜けてしまうことが多いようです。
吉田さんは、がんが疑われたときからインターネットなどで予習しておくことを勧めます。
「世界標準となっている米国国立がん研究所の医学サイト“PDQ”( サイトを見る )の日本語版( サイトを見る )などを検索し、ある程度理論武装しておくと、情緒的にならずに医師と比較的近いレベルで話ができるのでは?自分のがんの種類とステージ、細胞の悪性度、リンパ節転移の有無など、病状を正確に知っておくことは、どの段階でも一番大切です。治療法の選択肢を提示したときに長所と短所は?などと質問してくださると、医師も話しやすいですね。また、初めて診断結果を聞く患者さんはパニックになって医師の説明をよく覚えていないことが多いので、ご家族か友人に同行してもらうとよいでしょう」(吉田さん)
医師の説明を聞き直せるように、テープレコーダーの使用を認める医療機関も出てきましたが、まだ少数です。
「僕自身はかまいませんが、訴訟を起こされた場合を考えて引いてしまう医師も多いはず」(吉田さん)
「後々、患者さんとの間で、“言った、言わない”というトラブルをなくすには、テープはお互いによい方法なのですが、あまりよい気持ちはしないものです。説明及び同意事項を、複写できる書面にする方法は間違いがなく、今後増えていくと思います」(村上さん)との意見が聞かれました。
胃がんと診断されたA子さんは、病期を図解した本を持参して、医師に「この中のどの段階ですか」と聞いたそうですが、吉田さんは「その医師の著書や論文ならよいのですが、ポリシーが違う医師の書いた本を示されるのは抵抗があるもの。私は自分で作成したパンフレットを渡しています」との見解です。
入院中、通院中は、遠慮せずに医師に質問しよう。
質問事項をメモしておくと、聞き忘れがない
入院中は回診時に質問を
大名行列のような教授回診の風習が残っている大学病院もあるようですが、入院中にはいつ質問すればよいのでしょうか。
「僕の部長回診のときは、患者さんにとって最も利益のある選択肢についてスタッフの意見を聞きながら回り、患者さんの質問にも答えています」と吉田さん。
村上さんは、「朝、昼、夕の病棟回診で、診察、検査結果の説明、今後の予定を説明していますが、回診時に質問していただくのがいいと思います。質問事項を事前にメモしておいていただけば、聞き忘れがなくスムーズでしょう」と話します。 急ぎ足で回るドクターに要領よく質問するのは難しいもの。後から質問を思い出したとき、ドクターを呼び止めるのは迷惑なものでしょうか。
「ほかに質問はありませんか、と伺わずに次の患者さんのところに移動するドクターが多いので、背後から呼び止める形になってしまいますね。回診時に検査データが届いていなかったり、説明を忘れていたりする場合もあり、我々の確認にもなるので、呼び止めて聞いていただきたいと思います」(村上さん)
- 「私の正しい病名、病期、状態は?」
「その原因は何ですか?」 - 「なぜ、この治療が必要なのですか?」
「どのような内容の治療ですか?」 - 「その治療によってどのような危険がどの程度の頻度で起こりますか?」
「その治療を受けた場合、どのような効果がありますか?」 - 「その治療に代わりうる治療はありますか?」
「その治療と代替的治療を比較した場合の長所と短所は何ですか?」 - 「治療を受けなかった場合、どのような予後(経過)が予想されますか?」
家族の代表者を決めておく
患者さんのご家族が説明を聞く場合、急変時を除いては日時の約束をするとよいそうです。
「夜、家に着いたらポケットベルが鳴り、少し前に病状説明をした同じ患者さんの別の親族の方が説明を希望されている、ということがよくあります。守秘義務の点からも、医療者と患者さんとの窓口になる代表者を決めて質問していただけるといいですね」(同)
質問に優先順位をつけて
外来で医師がパソコンやカルテを見ながら難しい顔をしていると、気軽に聞けるという雰囲気ではありません。短い診療時間に合理的に質問するには?
「疑問点や問題点はメモをして、最初に言っていただけると助かります。診察後患者さんが服を着て、医師が手を洗った後で“実はお尻も痛いんですが”となりますと仕切り直しになってしまいます。着衣や手荷物は、診察を受けやすいように準備していただくとよいでしょう」(同)
質問事項に優先順位をつけておくと、外来で大勢の患者さんが待っていたり、カルテがどんどん積み上がっていくようなときには重要なことに絞るなど、状況を見ながら調節できます。
疑問点は自分の言葉で確認
前出のCOML事務局長の山口さんは、「患者さんが理解したつもりでも、医師のイメージとは違う受け取り方をしていることがあります。難しい用語やあいまいなところは、自分が理解した言葉に置き換えて“こういうことですか”と確認するといいですね」とアドバイスします。
たとえば、「この抗がん剤は効果があります」「エビデンスがあります」と医師が言ったとき、医療側は「治療を受けた人の2~3割はがんが縮小、または不変の状態が4カ月以上持続する可能性がある」という意味で使っていても、患者さん側は「これを使えばがんが消える」と思ってしまう、などというのはその一例です。
「“医師は抗がん剤が効くと言ったのに、副作用ばかり強くてがんの大きさは変わらない、実験台だったのか”と電話してくる患者さんがいらっしゃいますが、治療を受ける前に、目的は根治なのか、延命なのか、どの程度消えるのか、効き目がない人もいるのか、などを確認することが大切ですね」(同)
急に質問しようとしても緊張するので、日常生活の中で練習しておくとよいそうです。
「レストランのメニューに知らない料理があると避けて選びがちですが、“これはどんな料理ですか”と聞いてみる。日頃から心がけていれば、医師にも自然に質問できるようになります」(同)