補完代替医療・健康食品の中で真に効果があるのはどれか。どう利用すればよいか 補完代替医療・健康食品の真実
AHCCを対象とした新たな臨床試験

(写真提供:株式会社アミノアップ化学)
住吉さんが主任研究者であった厚生労働省の研究班では、健康食品の臨床試験も行ってきた。最も新しいのはAHCCを対象とした試験で、ようやくデータがまとまったところだという。がんと健康食品について公的な助成金を使って研究が行われたのは、これが最初のことだ。どのような研究だったのか、その概略を説明してもらった。
「健康食品は抗がん剤と同じような臨床試験を組むことができるので、そのような形で試験を行いました。対象としたのは、前立腺がんで待機療法の患者さん。前立腺がんと診断されているものの、病状が安定しているので積極的には治療を行わず、様子を見ている患者さんです。この人たちに6カ月間AHCCを使ってもらい、その結果どうなったかを、抗がん剤の臨床試験と同じ判定基準で評価しました」
AHCCの量は1日に4.5グラムで、これを3回に分け、食前に摂取。効果判定には、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)が使われた。治療前の測定値に比べ、50パーセント以下の値に下がる人がどれだけいるかが調べられた。
「結果は74人中1人でした。アメリカでも同じようにAHCCを前立腺がん患者さんに使った臨床試験が行われていて、そこではゼロだったようです。しかしながら、通常はがんの進行に合わせてPSAは右肩上がりに上昇していくわけですが、その上がり方が非常にゆっくりになっていました。このことは、アメリカでの試験結果と同じでした。
こうした結果に比べ、よりはっきりした結果が得られたのが、不安感を軽減する効果だったという。がんの患者さんには不安感を持っている人が多いが、AHCCによって、不安が軽減するという結果が現れたのだ。
「不安のある人、とくに不安が強かった人が、6カ月後には不安が軽減されているという結果が出ました。統計学的に有意な差を認め、興味ある結果と考えます」
また、抗がん剤などに比べるとコンプライアンス(※3)は非常に優れていた。決められた通りにとり続���ることができるかを調べた結果、継続できなくなった人は、74人中わずか3人。そのうち副作用で中断を余儀なくされたのは1人だけだった。
AHCCに関しては、大阪大学の生体機能補完代替医学講座でも、がんの化学療法の副作用を軽減する効果について、臨床試験が行われている。
「抗がん剤による治療では、抗がん剤の種類によっては、肝機能障害が出てくることがあります。GOT(※4)やGPT(※5)といった検査値が高くなるのですが、AHCCによって、それが有意に軽減できたと報告されています。ただ、この研究は症例数が17例と少なく、まだ現在進行中です。現在の段階で言えるのは、抗がん剤の副作用を軽減する可能性がある、ということでしょう」
健康食品に関する最近の臨床試験でわかっているのは、こうした内容である。
※3 コンプライアンス=処方どおりに服薬すること
※4 GOT=(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ=AST)アミノ酸をつくる酵素の1つ。肝機能の異常を知る指標とされる
※5 GPT= (グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ=ALT) アミノ酸をつくる酵素の1つ。肝機能の異常を知る指標とされる
臨床試験の報告はきわめて少ない

(写真提供:株式会社エス・エス・アイ)
健康食品に関する臨床試験は、外国でも行われているが、国内外ともにその論文報告は非常に少ない。
報告があるのは、アガリクス、AHCC、サメ軟骨くらいで、他の健康食品に関しては、国内の研究はもちろん、海外でも報告はない。
「アガリクスに関してポジティブな試験データを発表したのは韓国の研究者たちでした。抗がん剤の副作用を軽減するという内容で、信頼できる医学雑誌に載っています。症例数も100例程度で、決して少なくはありません」
アガリクスは、学名を「アガリクス・ブラゼイ・ムリル」、和名を「ヒメマツタケ」、「カワラタケ」といい、ブラジルが原産の、マッシュルームに似たキノコである。
その韓国の試験とは、2004年に発表された無作為化比較試験の報告だ。抗がん剤治療を受けている子宮がん、卵巣がんの患者100名を、アガリクスとプラセボ(偽薬)を摂取する2群に分け、免疫機能やQOL(生活の質)への影響を検討したものだ。その結果、アガリクスを摂取したほうがNK細胞(※6)を活性化したり、食欲不振、脱毛、全身脱力感などの副作用を軽減する効果が認められた。
アガリクスは韓国での報告が最初だったが、その韓国ではあまり使われていないという。なぜか日本だけで広く使われてきた健康食品なのだ。
「サメ軟骨に関しては、腎細胞がんに効いたという報告がかなり以前にあるのですが、その後に行われた臨床試験では、効果がなかったという報告が多いですね。抗がん剤の副作用軽減に関しても、効果がなかったという結果が出ています」
現在のところ、再発率が減少し、生存期間を延長したという信頼できるデータが出ているのは、肝臓がんの手術後の再発予防目的に対するAHCCだけのようだ。
「その臨床試験は症例数も222例と多く、ジャーナル・オブ・ヘパトロジー(37巻78頁)に掲載されていますので、評価できます。同様な結果が他の試験でも出ており、他のがんに関してはわかりませんが、肝臓がんの術後再発予防に関しては期待できる可能性があります」
プロポリス、キチン・キトサン、メシマコブ、クロレラ、ウコンなどについては、臨床試験の論文報告はない。ウコンは飲酒前の利用で悪酔いを防ぐというデータはあるそうだが、がんに関する臨床試験は行われていない。
「健康食品ではありませんが、最近のトピックスと言えるのはビタミンCの大量療法でしょう。錠剤として経口摂取する方法では効果がないことは明らかになっていますが、点滴する方法だと有効であるとの報告があります。これを検証するために、アメリカでは臨床試験が始まっているようです。それから、プロバイオティックスである乳酸菌が膀胱がんの再発予防に効果があったということが、日本の研究で明らかになりました」
乳酸菌では感染予防などのデータはよくあるが、がんに関してはこれだけだという。
※6 NK細胞=ナチュラルキラー細胞。がん細胞やウイルス感染細胞などを攻撃するリンパ球
内容 | アガリクス | プロポリス | AHCC | キチン・キトサン | サメ軟骨 |
---|---|---|---|---|---|
がん患者の生活の 質を改善するか? | 報告あり | 報告なし | 報告あり (肝細胞がん) | 報告なし | 報告なし |
手術・抗がん剤・ 放射線治療の 副作用を軽減するか? | 報告あり (婦人科がん) | 報告なし | 報告なし | 報告なし | 報告なし |
再発を予防したり、 生存期間を 延長したりするか? | 報告なし | 報告なし | 報告あり (肝細胞がん) | 報告なし | 報告あり (腎細胞がん) |
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