補完代替医療・健康食品の中で真に効果があるのはどれか。どう利用すればよいか 補完代替医療・健康食品の真実
漢方薬は副作用対策で広く使われている
漢方薬は、アメリカではハーブの一種という扱いだが、日本では医薬品として使われているという特殊性がある。がんに関しては、治療の副作用予防や副作用対策として利用されていることが多い。
「消化管手術後の腸閉塞や腸管麻痺に対しては、大建中湯がよく使われています。これに関しては信頼できるデータがありますし、すでに広く使われていて、クリニカルパス(治療や検査の標準化された計画書)に入っているくらいです。もっとも、がん以外の消化管手術でも使われ、がん治療に限って使われているわけではありませんが」
そのほかには、抗がん剤の副作用を軽減するといわれている漢方薬がいくつかある。たとえば、カンプト、トポテシン(一般名イリノテカン)の副作用である下痢には半夏瀉心湯が効くとか、タキソール(一般名パクリタキセル)による筋肉痛や関節痛には芍薬甘草湯が効くといわれているのだ。
「そういう症例は報告されていますが、きちんとした臨床試験は行われていません。効かなかった症例がどのくらいあるかなどは、データとして明らかになっていないのです。うまく使えば、副作用軽減に役立つ可能性があるということでしょうね」
タキソールの副作用である抹消神経障害に対し、牛車腎気丸に軽減作用があるというデータもある。ただし、症例数が少ないなど、信頼性の点で十分なデータとはいえないようだ。
愁訴・合併症など | 漢方薬 |
---|---|
腸閉塞(癒着障害)、術後腸管運動麻痺 | 大建中湯(だいけんちゅうとう) |
リンパ浮腫 | 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん) |
胃がん術後の逆流性食道炎 | 六君子湯(りっくんしとう) |
抗がん剤(塩酸イリノテカン)による下痢 | 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) |
抗がん剤(パクリタキセル)による筋肉痛・関節痛 | 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) |
肝炎ウイルスによる肝硬変に対する肝細胞がん予防効果 | 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) |
進行胃がんの術後補助化学療法における 5-FU経口剤との併用による生存率改善 | 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) |
健康食品や漢方薬の副作用にも注目すべき
副作用あり (吐気、下痢、便秘、皮疹、肝機能異常など) | 5.0% |
副作用なし | 56.00% |
分からない | 29.00% |
無回答 | 10.00% |
健康食品や漢方薬を使用する場合には、それ自身に副作用があるということも忘れてはいけない。とかくこの点が見逃されがちだという。
「副作用が出るのは薬だけで、健康食品は“食品”なのだから副作用なんて出るはずがない、と思ってしまう人が多いようです。しかし、副作用を調べる臨床試験も行われていますが、実際には、思った以上に副作用が起こっています」
健康食品による有害事象については、たくさんの報告がある。たとえば、アガリクスなら「肝炎、肺炎、皮膚炎、腹部膨満」といった報告がある。プロポリスには「腎不全、皮膚炎」、サメ軟骨には「嘔吐、便秘、肝炎」が報告されている。
前述の厚生労働省研究班で行われたのは、アガリクスの安全性を調べる試験で、81名のがん患者が参加した。その結果、アレルギーや消化器症状、全身脱力感、皮疹などの副作用が6名(7.4パーセント)に出た。同時に評価したQOL調査では、アガリクス摂食後、男性では改善が見られなかったが、女性では改善されたという。
漢方薬に関しても、天然由来の成分なので副作用は心配ない、という誤解があるようだ。確かに漢方薬は、植物、動物、鉱物などの生薬を組み合わせたものだが、副作用が起こる可能性はもちろんある。また、抗がん剤との相互作用も心配だという。
「抗がん剤と漢方薬を一緒に用いることで、どういう相互作用が起きるかについては、臨床試験が行われていません。たとえば、漢方薬を用いることで、抗がん剤の血中濃度が80パーセントに下がってしまうということが、起こるかもしれません。逆に、ある時間で体内から排泄される薬が、もっと長く残ってしまうということが起こる可能性もあります」
こうしたリスクを回避するために、抗がん剤を投与した前後何日間は漢方薬を用いないという方法が取られることもあるという。安心して使うためには、やはり臨床試験が行われる必要があるようだ。
ハリ治療は海外で高い評価を得ている

日本では健康食品が補完代替医療の大部分を占めているが、海外では状況が違っていて、多様な治療法が行われている。
「アメリカではハリ治療の評価が非常に高いです。がんの痛みに対するハリ治療は、『がんの統合医療ガイドライン』で、強く勧められる治療と評価されていて、エビデンス(科学的根拠)の質は高いとされています」
抗がん剤による末梢神経障害に対するハリ治療の効果も出ています。詳細は別の記事を参照してください。
アロマテラピーに関する研究もある。これはエッセンシャルオイル(精油)の香りでリラックスさせ、それによって症状の改善をはかる治療法。がんの患者さんが持っている不安感を解消したり、化学療法や放射線療法の副作用を軽減したりする効果が期待されています。
「がんの患者さんを対象に、ただのマッサージとアロママッサージを比較したところ、アロママッサージのほうがより不安感が軽減されたというデータがあります。抗がん剤による吐き気に対しては、よかったというデータも、効果がなかったというデータもあるようです」
セラピューティック・タッチといって、手で患者さんに触れるだけの補完代替医療がある。
「10分間ほどタッチするだけですが、末期がんで緩和療法を受けている患者さんには、たったそれだけでも、不安感を取り除いたり、精神的に落ち着かせる効果が現れるのです」
健康食品以外にも、役に立ちそうな補完代替医療はいろいろあるようだ。
再発予防にも延命にも運動療法は効果あり
適度な運動を行うことが、がんの予防に有効なことは、多くの疫学調査で明らかになっている。最近では、がんの手術を受けた患者さんが、積極的に運動療法に取り組むことにより、がんの再発が抑制されたり、生存期間が延長したりすることが、臨床試験で明らかになっている。
「この試験に参加した患者さんが行った運動は、早足のウォーキングを1時間、週に4~5日実施するというものでした。それによって、大腸がんと乳がんに関しては、再発を防ぎ、生存期間を延長する効果があったというデータが出ています。現在、エビデンスがあるのは大腸がんと乳がんだけですが、これは他のがんで試験が行われていないからでしょう。試験を行えば、同じような結果が出るのではないかと考えられます」
これだけの運動を行うのは、健康な人でもなかなか大変そうだ。がんの手術を受けた人にとっては、続けるのが難しいかもしれない。また、手術を受けた後は、体力的に無理をしないほうがいいと考えている人もいるに違いない。だが、がんの患者さんにとって、運動を行うことは、好影響はあっても、悪影響は少ないはずだという。心配せずに早足でのウォーキングを心がけるといいだろう。
補完代替医療に関する今後の課題と展望
健康食品をはじめとする補完代替医療は、今後どのような方向に進んでいくのだろうか。
「健康食品の臨床試験が、ようやくしっかりした形で行われるようになってきました。ただ、ここまでに行われた試験は、ごく一部を調べたに過ぎません。前に紹介したAHCCの臨床試験にしても、前立腺がんで待機療法の患者さんだけを対象に、74人について調べたに過ぎません。それですべてがわかるような臨床試験ではないのです。これから行わなければならない臨床試験は、まだ山のように残されているといえます」
住吉さんが主任研究者を務めていた厚生労働省の助成金による研究班は、現在も引き継がれて研究を進めている。今後は健康食品に関する臨床試験を、精力的に推し進めていくことになりそうだ。もう1つの課題は、補完代替医療を利用する患者さんに対する正しい知識の普及だという。抗がん効果を証明するデータがないのに、がんの進行を抑えたり、がんを治したりする目的で健康食品を利用している人は多い。そういう状況がある以上、正しい知識を普及させる仕事もきわめて重要なのだ。
補完代替医療は手術・放射線・抗がん剤の治療がメインであり、それを補完するための医療である。さらに何を目的に利用するのかを意識する。これらのことを今後も繰り返し伝えていく必要がある、と住吉さんは考えている。
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