冷静な判断と、医師に相談する勇気を持って 補完代替医療との後悔しない上手な付き合い方

監修:内布敦子 兵庫県立大学看護学部看護学研究科教授
取材・文:増山育子
発行:2009年8月
更新:2013年4月

きちんとした確認を

まずその療法に関心を持った時点で確認しておきたいことを、ガイドブックをもとにまとめると以下のようになる。

●その補完代替医療を受けるということは、自分の選択に対して責任を負う(身体的、金銭的に)ことである

●その補完代替医療に関心があることを医師や看護師に伝え、医療者と話し合う機会を持つ。その上で、今受けている治療と併用が可能なのか、自分の状態を把握してくれている医療従事者に次のことを相談する

  1. その療法で症状や治療の副作用を軽減できるか?
  2. その療法を受けることで副作用やリスクはあるか?
  3. その療法を受けることで今受けている治療に影響があるか?
  4. その療法の安全性や効果は検証されているのか?
  5. その療法は保険がきくのか?(必要があれば、今受けている治療と調整をはかってもらえ、両方を安全に続けることができる)

●関心をもった補完代替医療について十分な情報を集めること(補完代替医療に関する参考資料参照)

[補完代替医療に関する参考資料参照]

    ●がんの補完代替医療ガイドブック
    編集:厚生労働省がん研究助成金「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班
    監修:日本補完代替医療学会
    ●代替・補完療法とどうつきあうか
    編集者:兵庫県立大学大学院看護学研究科21世紀COEプログラム「ユビキタス社会における災害看護拠点の形成」
    看護ケア方略研究部門 がん看護ケア方法の開発プロジェクト
    ●がん補完代替医療ガイドライン 第1版
    作成:日本緩和医療学会「緩和医療ガイドライン作成委員会 補完代替医療ガイドライン作業部会」
    厚生労働省がん研究助成金「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」班「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班

試みる前にこれだけは調べる!!

関心をもった補完代替医療について医師や看護師に相談後、その療法を始めようとする前には次のことを調��ておく。

●その療法はどのような研究がされているか? またその研究は論文として発表されているか?

●施療者はどのような訓練を受けているのか? また免許など知識や技術を保証するものをもっているのか?

●その療法にかかる費用は?

いつでも止めていい

そしていよいよその療法を取り入れることに決めたら、施療者に直接聞いて確かめたいことや相談したいことを用意しておく(リスト参照)。医療者への質問と重複する部分もあるが、立場が違うので異なる意見を聞くことができる。

また施療者に自分の病歴(病名、診断された年月日、受けてきた治療方法と経過)をたずねられたら答えられるようまとめておき、初めての施療日には家族や友人に一緒に行ってくれるよう頼んでおくと心強い。その日に契約することは避け、帰宅してから再度、次のことを点検してみる。

●その療法は自分に合っていると思えるか?(効果の説明は納得できたか? 受け入れやすいか? 心地よさは? それをすると楽になると思えるか? 施療時間は適当か? 通院や予約にかかる手間はどうか?)

●施療者は信頼できるか?
(話しやすさ、質問しやすさはどうか? 疑問に適切に答えてくれたか? 医学的治療への態度は? 標準的ながん治療法をサポートしてくれるか? 自分の状態を丁寧にわかろうとしていたか? 自分と同じような患者の扱いに慣れているか?)

●施療者や施設に不快な感じはなかったか?

内布さんに持ちかけられたある相談の例では、患者本人は知人に強く勧められたものをやっていいか迷っていた。ガイドブックに沿って施療にかかる値段はどうか、どのように研究されたのかとチェックしていくと、ほとんど「わからない」との答えだったという。

内布さんが時間をかけて「ご自身としては快適なのですか? どう思われるのですか?」と聞いていくと、本人の口から「紹介してくれた人に申し訳ないから、乗り気でないが施療を受けている」という言葉が出るようになった。

「施療者と価値観があわなかったようです。施療者の言うことに素直にうなずけないと。それを伝えるのが難しいとおっしゃるので、相手に失礼のないような伝え方を一緒に考えました。合わないという自分の感覚は大切になさって判断していただきたいし、決めたことを変更しても構わないのです」と内布さんはアドバイスする。

[施療者への質問リスト]

  • この補完代替医療は、どのように効果を発揮するのですか?
  • 私のような症状に使って効果があったという科学的な根拠(発表されている論文など)はありますか?
  • この補完代替医療に関する情報やデータを提供してもらえますか?
  • この補完代替医療の危険性や副作用は何ですか?
  • この補完代替医療は、現在受けているがんの治療に何か影響がありますか?
  • この補完代替医療をやってはいけないのは、どのような状態(または病気)のときですか?
  • この補完代替医療は、どれくらい長く続ける必要がありますか?
  • この補完代替医療で、何か機材やものを買う必要がありますか?
  • この補完代替医療の費用はいくらですか?
出典:「がんの補完代替医療ガイドブック」

医師に勇気を出して相談を

補完代替医療の利用について医師と話さない患者が多いことは前述した。

「先生に言ったら無視された」「聞く耳を持ってもらえない」はたまた、「怒られた」という経験を、患者は多かれ少なかれもっているので相談するのをためらう。

「医師は科学的根拠を重要視しますので、それがなされていない補完代替医療を勧めることはないでしょう。その療法が治療にどう影響するのかわかりませんから、正確に治療効果を見たい医師にとっては、拒絶的な態度として現れるのでしょう」

それでも患者は医療者に伝えるべきだと内布さんは訴える。

「患者さんがそういうことをどんどん言い出すと医師も対応せざるを得なくなるわけです。なんといっても医師を教育するのは患者さん。がん医療は患者さんの力で変わってきたのです。国ががん対策に力を入れている今、がん医療に携わる医療者たちの研修も進められており、緩和医療のプログラムには補完代替医療についても含まれています。患者さんにとっては追い風になっているといえるでしょう」

補完代替医療をうまく利用することによって、痛みの軽減、副作用の症状緩和などがもたらされることがわかってきている。だからこそ、冷静な判断、そして医師との十分な話し合いのもと、自分にあった補完代替医療を選びたいものだ。

[症状や副作用を緩和することを目的とした補完代替医療]

治療法 判定基準 注意事項
化学療法による悪心・嘔吐
に対する鍼灸
容認
(場合により推奨)して経過観察
血小板が減少している患者、抗凝固薬を飲んでいる患者は避ける
慢性疼痛に対する鍼灸 容認して経過観察 同上
不安に対するマッサージ 容認
(場合により推奨)して経過観察
血小板が減少している患者、抗凝固薬を飲んでいる患者は避ける
がん細胞の転移が予測される部位のマッサージは避ける
骨の転移がある場合は骨折に注意
疼痛に対するマッサージ 容認して経過観察 同上
悪心(自家骨髄移植による)
に対するマッサージ
容認
(場合により推奨)して経過観察
同上
リンパ浮腫に対するマッサージ
(弾性包帯に対する補助手段として)
容認
(場合により推奨)して経過観察
同上
通常医療を受けている患者の
身体機能や精神・身体的症状改善
に対する運動療法
容認
(場合により推奨)して経過観察
血小板が減少している患者、抗凝固薬を飲んでいる患者は内出血に注意
骨の転移がある場合は骨折に注意
発熱、脱水、電解質異常がある場合は避ける
出典:「がんの補完代替医療ガイドブック」
「容認、場合により推奨」:有効性と安全性の双方を支持する科学的根拠がある
 「容認」:有効性に関する科学的根拠は不十分だが、安全性を支持する科学的根拠がある
上記は、米国の内科学の専門誌「Annals of Internal Medicine」に2002年に掲載された論文をもとにまとめられたもの。
 その後に行われた臨床試験の結果によって、一部の治療法に関しては、評価判定が変わっている可能性がある

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