動脈塞栓で温度を高めるというユニークな方法で効果を上げる 肝臓がんに対する温熱化学塞栓療法の効果
肝臓がんは自信がある

ここで、肝臓がんに対する温熱化学塞栓療法の結果をまとめると、小さながんでは先に行った化学塞栓療法と、それに温熱を加えた療法とで効果に差がなかった。しかし、7センチを超える大きながんでは、前に述べたように、化学塞栓療法では効果が見られなかったが、温熱化学塞栓療法では十分な縮小効果が現れたのである。
生存率はどうか。化学塞栓療法とそれに温熱を加えた療法を比較してみると、初めのうちは温熱を加えた療法のほうがいいが、3年目になると化学塞栓療法群と交差して変わらなくなり、これには近藤さんも「がっかりした」という。やはり現在のがん治療では、再発にはなかなか勝てないという事実を物語っているようだ。
しかし、生存で差がなくても、「その間の患者のQOL(生活の質)がすばらしくいいというのが温熱療法の特徴です」と近藤さんは言う。温熱療法を受けた患者の多くは、副作用で苦しむことがなく、生き生きと前向きに生活を楽しんでいるという。
ただ、以上の結果は、きちんとした臨床試験に則った比較ではない。だから本当の意味で客観的な評価にはならない。
温熱療法に関してきちんとした無作為化比較試験も1993年に小規模だが実施されている。ただ、このときはまだ塞栓剤のDSMが認可されていなかったため、化学塞栓療法が行えず、動注化学療法との比較になっている。抗がん剤にはエピルビシン、マイトマイシン、5-FUを使い、それを動注で入れ、それに温熱療法を追加した療法とを比較したものである。
結果は、原発性肝臓がんでは動注群での奏効率は0パーセントに対して温熱併用群で63パーセント、転移性肝臓がんでは動注群0パーセントに対し温熱併用群38パーセントと、いずれも温熱療法を加えたほうが効果が上回っている。 こうしたことから近藤さんは、「肝臓がんに対しては自信がある」と力説する。



乳がんの胸腔、肺転移にも効果
では、肝臓がん以外のがんでは温熱療法の威力はどうなのだろうか。
近藤さんは、5年前、藍野病院の院長になったとき、この病院の売り物にするため、温熱療法のための加温装置「サーモトロン-RF8」をいの1番に導入している。その導入して間もない頃、39歳の乳がんの患者が「緩和医療をしてほしい」と藍野病院へやってきた。
8年前に乳がんになり手術を受けたが、2年前にリンパ節に再発が起こり、手術、放射線、抗がん剤をしたが、副作用が強く出たため、「もう強い治療は嫌。安らかに死にたい」と希望して来たのだ。
すでにがんは胸腔内に広がり、肺の中にも浸潤し、本人は胸が痛く、呼吸困難で、食事もできない、貧血にもなっているという状態だった(下の写真参照)。




斜線部分が転移巣。温熱療法の回を重ねるごとに転移巣が縮小し、26回目では、かなり消えかかっていた
近藤さんが副作用のない温熱療法のことを話すと「それならやってみたい」というので、温熱療法だけの治療を週1回の割合で開始した。
10回すると、胸腔を覆っていたがんが心持ち小さくなった。本人は元気になり、胸の痛みも消え、血色もよく、「いたって調子がいい」という。外泊許可を出すと、博多へ行きディスコで踊ってきたともいう。20回目のCTでは、さらに胸腔の病巣が小さくなり、この調子でいけば「消えるのではないか」と思っていたら、新たに骨盤のほうに転移が出た。結局、40回まで温熱療法をし、2年半生き延びたが、亡くなった。
この経験で近藤さんは、「肝臓がん以外のがんでもいける」と温熱療法に自信を持った。
大阪医大から紹介されて来た中咽頭がんの56歳の男性の場合は、抗がん剤が効かず、嚥下障害があり、声も出ない状態だった。しかし、近藤さんは、医大での処方と同じ抗がん剤に温熱療法を併用した治療を3カ月半施したところ、がんが小さくなり、喋れるようになった(下の写真参照)。
近藤さんは温熱療法のよさをこう語る。
「温熱療法は副作用がほとんどない。抗がん剤も少ない量で効果を高められる。こうした実体を医者も患者さんもよく知らない。温熱療法はヤケドして危険ぐらいの認識しかない。もっと正しく知ってほしいですね」

温熱療法施行前

抗がん剤投与+温熱療法施行3.5ヵ月後。
がんが縮小
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