西洋医学でコントロールしきれない つらい症状を緩和する鍼灸治療

監修●里見絵理子 国立がん研究センター中央病院緩和医療科科長
監修●佐々木久子 国立がん研究センター中央病院緩和医療科鍼灸スタッフ
取材・文●池内加寿子
発行:2016年4月
更新:2019年7月


ツボは生きていて 微妙に変化するもの

緩和医療科外来で鍼灸適応と判断された患者には、週1回、3カ月程度を目安に施術して、その効果を確認する他、患者にセルフケアの方法を伝えている。

「体の中には〝経絡けいらく〟という生命のエネルギーの流れがあり、その流れが滞ったときに痛みは生じるという〝不通即痛ふつうそくつう〟の考え方があります。鍼や灸は滞った流れを改善する働きがあります。同じ症状でも患者さんによって、使う経絡もツボも異なるので、まず、脈診によって5臓(肝、心、脾、肺、腎)の虚実を探り、全体の陰陽バランスを整えるための施術を行います」(佐々木さん)

国際的に標準化された経穴けいけつ(ツボ)部位があるが、ツボは生きており、患者さんによって、また、病気やそのときの状態によってリアルタイムに微妙に変化するため、施術のメニューも変わるという。まさに、「オーダーメイドの治療」ということになる。

リリカ=一般名プレカバリン

鍼を刺さない接触鍼と温灸をメインに

日本で行われている鍼灸は、❶やや強めの刺激が特徴の「現代中医学鍼灸」、❷現代生理学に基づく「現代医学的鍼灸」、❸刺激の柔らかな「日本伝統鍼灸」の3つに大別できるという。同センターでは伝統的に、❸の「日本伝統鍼灸」が用いられてきた。

「鍼を2~5㎝とやや深めに刺す中国鍼灸と異なり、日本伝統鍼灸では、鍼を刺さない接触鍼、鍼を刺す場合でも2~3㎜程度にごく浅く刺す方法や、もぐさを用いた知熱灸などマイルドな施術を行うのが特徴です」(佐々木さん)

接触鍼によく使われるのが「長柄鍼ちょうへいしん」と呼ばれる直径0.14㎜ほどの毛髪のように細く長い鍼だ。皮膚上の経絡に沿って30度の角度で鍼の先を接触させ、爪で軽くはじきながら圧をかけて使う。骨髄移植後や血小板の減少時、浮腫が強い場合などにも安全に使��ことができる。

また、先端に丸みをもたせた太く短い「鍉鍼ていしん」も刺さない鍼として、長期仰臥によるこりや不眠時の首、肩の筋緊張緩和によく使われている。金または銀で作られおり、症状により使い分ける(写真3)。

写真3 使用する鍼や灸

「がんの患者さんは、治療などの影響で血小板減少が生じ、出血しやすかったり、免疫力が落ち、感染しやすかったりするので、侵襲の少ない、〝刺さない鍼〟が向いていると思います」(佐々木さん)

このほか、もぐさを燃やして、薬効を得ながらツボを温める知熱灸ちねつきゅう棒灸ぼうきゅう台座灸だいざきゅうなどの温灸に加え、鍼と灸の相乗効果が期待される灸頭鍼きゅうとうしんもよく用いられる。

「鍼では痛みを感じやすい足の裏や、冷えを伴う場合は温灸を使います。温灸は、創傷部の跡の痛みを取るのにもよいですね。家庭でもセルフケアできるように、その方のツボと市販の台座灸の使い方をお伝えしています」

台座灸はネットや薬局などで入手できる。また、同センターで指導を受けた後、地元で適切な鍼灸治療院を探して続けている人も多い。

「近い将来、どこでも医師と鍼灸師が協同して症状緩和ができるようになると、患者さんにとっても大きなプラスになると思います」(里見さん)

がんに伴う苦痛に悩む人のために、鍼灸に秘められたパワーを活用できる道が広がることが望まれる。

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