相互作用を見極めるためサプリメントは1種類を慎重に

監修●伊藤壽記 大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座特任教授/千里金蘭大学看護学部教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年4月
更新:2016年6月


薬とサプリメントの相互作用に注意が必要

がん患者がサプリメントを用いるときには、治療のために使われている他の薬剤との相互作用に注意する必要がある。組み合わせによっては、作用が増強されて危険なことがあるし、サプリメントを加えることで、治療で使われている薬の効果が減弱することもある(図3)。

図3 抗がん薬の効果が阻害されるときと、促進されるとき

「サプリメントも薬剤も体内で分解される際、多くは肝臓にあるCYPという酵素で分解されます。CYPにはいくつもの種類があり、それぞれが結合できる物質を分解します。同じCYPで分解されるサプリメントと薬剤を服用すると、サプリメントが優先的にCYPに結合し、薬剤が分解されないまま残ってしまうことがあります。このような場合に、作用が増強するという現象が起きるのです。薬が効き過ぎるのですから、これは非常に危険です」

例えば、イチョウ葉エキスのサプリメントは、消炎鎮痛薬のアスピリン、抗凝固薬のワルファリン、降圧薬のカルシウム拮抗薬などと併用すると、相互作用により薬の効果が増強(出血傾向が出たり、血圧が下がりすぎるなど)されるという。

「薬剤の効果を減弱させるサプリメントとして、セントジョーンズワートがよく知られています。このサプリメントを服用していると、肝臓である種のCYPが増えることがわかっています。したがって、そのCYPで分解される薬剤はすぐに分解されるので、効果が減弱してしまうのです」

こうした理由から、薬剤投与を受けている患者は、セントジョーンズワートの使用を避ける必要がある。

アスピリン=消炎鎮痛薬(商品名アスピリン、バイアスピリンなど) ワルファリン=抗凝固薬(商品名ワーファリン、ワーリンなど)

分解過程が未解明なものも多いので サプリメントの開始は1種類から

薬剤については、どのCYPで分解されるかということがすべて明らかになっている。しかし、サプリメントについては、わかっているものもあるが、まだ明らかになっていないものも多いという(表4)。

表4 化学療法時に使用を避けるべき植物・植物薬

(Abrams, D . Weil, A: 伊藤壽記・上島悦子監訳:がんの統合医療, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2010, p.195)

「サプリメントを使い始めるときに、同時に何種類も使うのは危険です。よくない症状が現れた場合に、何が問題を引き起こしているのかわからないからです。必ず1種類から始めるようにします。2種類使う場合には、しばらく様子を見て、問題がないことを確かめてから2種類目を加えます。何種類ものサプリメントを服用する人がいますが、多くとも2種類にとどめておくべきでしょう」

種類が多くなるほど、相互作用が起きる可能性が高まる。むやみに組み合わせないことが、安全に使用するコツといえそうだ。

人気の抗酸化サプリメントは 治療状況により取り方に配慮を

サプリメントの中には、抗酸化物質を主成分とするものが多い。抗酸化物質には、ビタミンE、ビタミンC、β-カロテン、ルチン、カテキン、アスタキサンチン、セサミンなど多くの種類がある。体内で生じる活性酸素による酸化ストレスを抑えることで、様々な健康効果のあることが明らかになっている。「体が錆びるのを防ぐ」として人気のサプリメントである。

この抗酸化サプリメントには、ある種の抗がん薬や放射線治療の副作用を軽減する効果が期待できるかもしれない。ある種の抗がん薬とは、アントラサイクリン系(アドリアシンなど)、アルキル化剤(エンドキサンなど)、白金(プラチナ)製剤(シスプラチンなど)、イリノテカン、エトポシドなどである。

「これらの抗がん薬や放射線療法は、体内に活性酸素を作り出し、その酸化ストレスでがんを攻撃します。したがって抗酸化サプリメントで副作用が軽減する可能性があるわけです。しかし、活性酸素の作用が抑えられると、副作用だけでなく、治療のために期待される主たる作用も弱められてしまう可能性もあります」

このため、先にあげた抗がん薬治療や放射線治療を受けている人が、抗酸化サプリメントを使用することに関しては、世界中でいろいろな研究が行われてきた。伊藤さんの教室で、その中の信頼できる49の臨床試験結果を調べたところ、明らかに生存率を低下させていたのは1つの組み合わせだけだった 1)

頭頸部がんで放射線治療を受けている「喫煙者」が、ビタミンEとβ-カロテンを使用した場合がそれである。それ以外には、有意に生存率を低下させたという結果は出ていなかった。

「しかしながら、明らかにはなっていないわけですが、前にあげた抗がん薬の治療を受けるときや放射線治療を受けるときには、抗酸化サプリメントの取り方には注意したほうがいいでしょう。抗がん薬と同時に使うのは止め、抗がん薬が数週おきの投与ならば投与のない週にサプリメントを服用するといった工夫も考えられます」

がん治療中の患者や治療を終えた患者にとって、サプリメントはQOL(生活の質)の向上に役立つことも多い。正確な情報を得て、安全に使用したいものである。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン エンドキサン=一般名シクロホスファミド シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン エトポシド=商品名ベプシド/ラステット 1)Yasueda A, Urushima H, and Ito T: Integr Cancer Ther, 2015 October 26. pill:1534735415610427

「統合医療」情報発信サイト:厚生労働省「『統合医療』に係る情報発信等推進事業」
がんの補完代替医療ガイドブック第3版:厚生労働省がん研究助成金「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班・独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班編集・制作

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