手術をより確かなものにする、膵がんの術前術後補助化学療法

監修●中郡聡夫 東海大学医学部消化器外科教授
取材・文●町口 充
発行:2014年12月
更新:2015年2月


腫瘍縮小は2割。中には劇的縮小例も

具体的な投与法は一般的に行われている方法と同じで、ジェムザールとTS-1を併用するGS療法。ジェムザールは「1日目と8日目に投与し、次の週は休薬」。3週間を1コースとし、これを2コース行う。同時に、TS-1は、「2週間服用、1週間休み」。これを2コース行う。ジェムザールの1回の投与量は1,000㎎/㎡で点滴静注する。TS-1は1日量80~100㎎を朝夕に分けて服用する(図3)。

図3 術前補助化学療法の治療スケジュール

「投与期間は1カ月ちょっと。その後、手術まで3週間ぐらいは休んでもらうので、化学療法の開始から手術までの期間はトータルで2カ月ほどです」

現在、50例を目標に試験を行っており、1年後には結果が出るという。

したがって術前補助化学療法がどれだけ効果があるかはまだ不明。しかし、臨床の現場での中郡さんの感触では、術前の化学療法によってがんが縮小した人は2割弱ほど。逆にがんが大きくなった人が1割ほどいて、大きさが変わらなかったのは7割ほど。中には劇的に縮小した人もいるという。

ボーダーライン膵がんの場合、術前補助化学療法で手術まで持っていける人はどのくらいいるのだろうか。

「動脈に接触するボーダーライン膵がんでは、手術できる人は半分くらいです。その結果、完全切除できた人はそのまた半分くらい。残りの半分の人は、完全に取り切ったと思っても、あとで調べると断端(手術で切除した組織の切り口や辺縁)にがんが残った状態で、すぐに再発してしまいます」

ボーダーライン膵がんに術前補助化学療法を行うと切除率は確かに上がるものの、再発は比較的早く、予後の改善はなかなか認められないのが現状のようだ。ただし、「術前補助化学療法を行うと、再発・転移を起こしやすいかどうかがあらかじめわかる、というメリットはある」と中郡さんはいう。

「術前補助化学療法を1カ月とか2カ月行っているうちに、すでに小さな転移がある人はそれまで見つからなかったものが見える大きさにまでなって、手術前の再評価の時点で遠隔転移の有無を含め、手術可能かどうかをチェックできます。何もしないで手術をすると、そういう人まで手術してしまうので、痛い思いをして手術しても、術後2、3カ月で再発・転移するようなことになってしまいます」

放射線療法はエビデンスがないという問題が

��前補助化学療法単独ではなく、放射線を加えた術前化学放射線療法はどうだろうか。

中郡さんによると、全国的にみると術前化学放射線療法を行っている施設は化学療法単独の施設より多いという。しかし、化学放射線療法の問題点は、術前・術後にかかわらず、生存期間の延長効果などのメリットにエビデンスが得られていないことだ。術前補助療法の場合、化学療法単独も、放射線単独あるいは化学放射線療法も今のところいずれもエビデンスはない。これに対し、術後に関しては化学療法のエビデンスは得られ、標準治療になっているが、放射線療法、化学放射線療法のエビデンスはない。

世界的にみても、膵がんに対する化学放射線療法の臨床試験は様々な形で施行されているが、高い抗腫瘍効果が期待される一方で、正常組織への毒性が高い確率で発生することが問題になっている。中郡さんも次のように語る。

「術後の化学療法も大事なので、術前であまりにヘビーな治療をしてしまうと、体力低下などにより術後の化学療法で薬が入らなくなることもあります。このため、最近は術前に補助化学療法(GS療法)だけを行い、術後も補助化学療法(TS-1単独療法)を行う施設がかなり増えています」

FOLFIRINOX、アブラキサンに期待

今後注目されるのは新しい薬剤の登場だ。現在、術前補助化学療法で使われている薬はジェムザールとTS-1だが、前述したように、それでがんが縮小した人は2割ほどでしかない。それなら、もっと効果の大きい薬はないものなのかと、ジェムザール、TS-1に代わるものとして期待されている薬がある。それは、FOLFIRINOXとアブラキサンだ。中郡さんもこう述べる。

「術後補助化学療法でエビデンスがあるTS-1は、術前で使うのには効果が弱いので、TS-1+ジェムザールの2剤併用のGS療法を行いますが、今後はさらにFOLFIRINOXやアブラキサンが加わってくる可能性があります」

今後、術前のGS療法の臨床試験が終わって有効性が証明されれば、他の薬剤を使った術前補助化学療法にも道を開くことになる。

海外ではすでに、FOLFIRINOXを術前補助化学療法で使う臨床試験が行われており、その結果も待たれるところだ。

FOLFIRINOX=5-FU(一般名フルオロウラシル)+レボホリナートカルシウム(商品名ロイコボリン/アイソボリン)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル

1 2

同じカテゴリーの最新記事