腫瘍を小さくし手術につなげる 切除不能局所進行胆道がんの術前化学療法

監修●加藤 厚 千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学講師
取材・文●町口 充
発行:2015年10月
更新:2015年12月


GC療法で25.6%が手術可能に

加藤さんら千葉大学の研究グループは、2004年から臨床研究を開始した。研究では、遠隔転移のない切除不能局所進行胆道がんを対象に、手術に持ち込むため、まず化学療法を実施した。

04年から11年まではジェムザール単独投与を行い、11年からは、その後承認されたシスプラチンを加えたジェムザール+シスプラチン併用療法(GC療法)を行っている。

放射線との併用は、効果を証明するエビデンス(科学的根拠)がまだないのと、手術に与える影響が不確定なため、加藤さんの施設では行っていない。「化学療法を行った結果、腫瘍が小さくなって、『血管浸潤の所見が改善する』、『胆管の浸潤範囲が狭くなる』、『術後に一定の残肝量が見込める』となれば、手術します」

11年から現在までにGC療法を行った結果では、対象患者39例に実施して2カ月ごとに造影CTで手術の適否を検討したところ、39例中18例(46%)で腫瘍が縮小した。そのうち30%以上縮小したのは9例(23%)で、結果として39例中10例(26%)について手術を行うことができた(表3)。

表3 局所進行切除不能胆道がんの内訳

(単位:人)
図4 局所進行切除不能胆道がんの化学療法後の生存率

10例の疾患の内訳は肝内胆管がん5人、肝外胆管がん3例、胆のうがん2例。化学療法開始から切除までの期間は5.9カ月で、約半年だ。

GC療法が始まったのは11年からであるため5年生存率はまだ算出できないが、現在までのところ、切除不能に終わった症例に比較して有意に生存期間の延長を認めている。とくに肝内胆管がん、胆のうがんで成績がよかったという。

なお、04年から11年まで行われたジェムザール単独投与では、24例に化学療法を実施して切除可能になった症例は9例(38%)で、こちらも切除不能のままの症例より有意に生存期間が延長し、5年生存した患者さんが2人いた(図4)。

「最初に切除不能と診断された方でも、化学療法後に切除できれば、通常の胆道がんの切除後の予後とほぼ同等の結果が出ています。ここまでよい成績が出せるのも、薬による治療の進歩と、我々医療者側の技術の進歩も見逃せません。麻酔を含め手術前後の周術期管理を向上させた集学的治療の成果だと言えます」

ジェムザール=一般名ゲムシタビン シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ

手術から2年7カ月、再発もなく

図5 術前化学療法後に手術した例(80代男性)

80代の男性Aさんは、肝内胆管がんで肝臓に大きな腫瘍を形成し、右肝静脈にがんが絡みつき、当初は切除困難と考えられていた(図5)。GC療法を行ったところ腫瘍が縮小し、十分な肝臓を残して切除できると判断され、手術に踏み切った。

Aさんの場合は門脈塞栓術も併用しており、化学療法の結果、腫瘍縮小率が48%と約半分にまで小さくなったのと、なおかつ、門脈塞栓術により、治療を始める前は残肝率が28.1%だったのが、53.3%に増加した(前掲図2)。

また、Aさんは右肝静脈に腫瘍の浸潤があった。この血管を残せないと肝臓のその部分が壊死してしまうため、それも当初、切除不能の理由になっていたが、化学療法により腫瘍が縮小して浸潤が解消された。

手術までの期間は126日、約4カ月。手術後の経過は順調で、2年7カ月(2015年8月現在)を再発もなく元気に暮らしている。もし切除不能のままだったら、余命はおそらく半年ぐらいだったろうという。

ハイボリュームセンターでの治療確立

さらに成績を上げるため、今後期待されているのは新たな薬の開発だ。現在のところ、胆道がんへの効果が確認され日本で承認されている薬は、ジェムザールとシスプラチン、TS-1の3種類しかない。

「薬の新しい組み合わせを用いて化学療法がよく効けば、予後が延長すると言われています。加えて、切除率も向上し、予後のさらなる向上にもつながると思います」

術前化学療法の確立に向けての課題は、切除可能・不可能の判断が施設ごとに異なっているという問題だ。とくに判断の難しい症例については、ある施設では切除可能と判定されても、別の施設では「リスクが大きい」と切除不能と判定される、ということが起こってしまう。まずは、どこまでが可能でどこからが不可能かの判断について、コンセンサスを得る努力が必要、と加藤さんは指摘する。

治療を行う施設の技術の向上も求められる。ほかのがんと比べても手術の難易度が高いのが胆道がんという。手術に当たっては正確な診断と手術前後の管理が重要で、外科医や内科医、麻酔科医、病棟スタッフなどがチームとして取り組む必要がある。

「施設によって手術可能か不可能かの判断が異なるのは、施設間での技術やマンパワーの違いがあるため、当然のことだとも言えます」

その点では、「マンパワーがあり、症例数の多いハイボリュームセンターでの加療が勧められる」と加藤さんは語る。事実、ほかの施設で手術不能とされたものの、加藤さんのところでCTなどを見直したところ、切除可能と判定されて手術に至ったケースもあるという。

今後、この治療法がエビデンスのある治療法として確立され、全国に広がることを期待したい。

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

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