非小細胞肺がんⅢ(III)期は治療選択が多く 正確な診断が重要

監修●中島崇裕 千葉大学大学院医学研究院呼吸器病態外科学助教
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年3月
更新:2016年5月


Ⅲ(III)A期は判断が難しく 治療選択肢は多岐にわたる

次にⅢ(III)A期だが、Ⅲ(III)A期にはT3N1の場合と、Tに関わらずN2の場合などがある。

「T3N1で比較的多いのは、肺尖部(肺の最も上の部分)のがんです。これに対しては、まず放射線化学療法を先に行い、その結果を見て手術を行うかどうか判断します」

このように、手術の前に行う放射線化学療法、あるいは化学療法、放射線療法を導入療法と呼んでいる。

「たとえ手術をしたとしても、取り残してしまったら何の意味もありません。導入療法とは、腫瘍を切除する範囲内で留めおくために行う治療ということになります」

Ⅲ(III)A期の中でもN2の患者さんの治療は、最も判断が難しい。

「まず、N2という診断が正確であることが大切です。N1でも、N3でも、治療方針が変わってきますから、EBUS-TBNAを駆使して、正確に診断することが必要です」

N2であれば、手術が単独で行われることはない。基本的には放射線化学療法といった集学的治療が行われるが、そこに手術を加えるかどうかについて、同病院では、前述したように呼吸器外科医、呼吸器内科医、腫瘍内科医、放射線科医がカンファレンスを開き、治療方針を検討している。

「患者さん1人ひとりについて、個別に判断します。呼吸機能はどうか、手術で取れやすい腫瘍かどうか、多発か単発かなど、様々な点から考えていきます。例えば、縦隔に染み入っているように広がっている腫瘍だと外科切除は難しいので、最初から根治的放射線化学療法が選択肢として考えられます。その一方で、境界がはっきりしていて外科切除が可能だと判断した場合には、導入療法として放射線化学療法を行ってから手術をすることなどが考えられます」

ガイドラインでは、「導入療法後に外科切除を行うことを考慮しても良い」となっているが、どのような導入療法が良いかについては記載がない。この点については多くの臨床試験が進行中で、現在確立したエビデンス(科学的根拠)はないのだという。

独自の導入放射線化学療法を施行

千葉大学医学部附属病院では、独自の導入療法として、シスプラチン+TS-1併用療法と、45Gy(グレイ)の放射線療法を組み合わせた導入放射線化学療��を行い、その後に手術するという治療も行っている(図4)。

図4 千葉大学医学部附属病院における導入放射線化学療法の進め方
図5 非小細胞肺がんⅢ(III)期に対する
導入放射線化学療法+手術の治療成績

「これまで行ってきた20例(Ⅲ(III)A期:17人、Ⅲ(III)B期:3人)の治療成績がまとまっています。対象は、EBUS-TBNAで診断し、N2が確認されている患者さんです。治療成績は、3年生存率が72.5%、5年生存率が62.1%となっています」(図5)

まだ症例数は少ないものの、良好な成績と言えそうだ。1990~07年に同病院で行われたⅢ(III)期の治療成績を見ると、Ⅲ(III)A期でも3年生存率が49.7%、5年生存率が39.9%で、これを大きく上回っている。

「導入療法後、手術を行う前にも、画像診断に加えて、EBUS-TBNAなどを駆使した質的診断を行っています。また、術後の経過観察でも、高度な診断技術を用いたきめ細かいフォローを行っています」

こうした正確な診断・評価も治療成績に関係している可能性がありそうだ。

「ひと口にⅢ(III)期といっても病状は様々で、治療法の選択は多岐にわたっています。例えばⅢ(III)期でも全身状態が悪い人では、積極的治療はせず、最初から緩和的な治療を行うこともありますし、根治的放射線化学療法、もしくは導入療法後に手術を加えた治療の選択肢もあります。そういった意味でも、診療科の枠を越えてカンファレンスを行い、患者さんの治療方針を決定することが非常に重要だと思います」(図6)

図6 多岐にわたる非小細胞肺がんⅢ(III)期の治療選択

シスプラチン=プラチナ(白金)を含む抗悪性腫瘍薬、がん細胞内のDNAとの結合により、がん細胞の分裂を止める作用を示す TS-1=テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムの経口配合薬でDNA生成を阻害する作用がある PS=パフォーマンスステータスの略で、全身状態を表す指標の1つ。0~4までわかれており、3(限られた自分の身の周りのことしかできない)、4(全く動けない)の状態を指す

1 2

同じカテゴリーの最新記事