切除不能または術後再発胆道がん 「切れ味の良い」FOLFIRINOXの臨床試験開始へ
4剤併用への挑戦
化学療法の進化に対して、伊佐山さんはさらなる挑戦を行っている。
「どう工夫しても抗がん薬が3剤しかないということが課題でした。新しい治療を持ち込まなければなりません」
そこで注目したのが、FOLFIRINOXだ。*フルオロウラシル、*レボホリナート、*オキサリプラチン、*イリノテカンの4剤併用療法。日本では2013年に膵がんに対して保険承認されている。
「現在胆道がんに使われているキードラッグは膵がんと同じ。胆道と膵臓は生物学的な特徴も同じなので、胆道がんへの効果も期待できます」(伊佐山さん)
フルオロウラシルは、がん細胞が増殖するために必要とするDNAの合成を阻害することでがん細胞の成長を抑える。レボホリナートは、ビタミンの一種で、この薬剤自体には抗がん作用はないがフルオロウラシルの働きを高める。オキサリプラチンは、プラチナ(白金)系の 抗がん薬で、がん細胞の DNAと結合することでがん細胞の増殖を抑え、腫瘍を小さくする。そして、イリノテカンは、細胞分裂の際にDNAの分裂が進まないようにする作用がある。
特徴は、現在のキードラッグであるゲムシタビンを使わないこと。そのため、FOLFIRINOXが使えなくなったときに、ゲムシタビンをトライすることもできる。世界ではまだ承認されていない治療法だが、伊佐山さんのチームの高原楠昊医師がリードして、まず東大病院で第Ⅱ(II)相試験を始めることになった。先進医療Bとして扱われる。東大病院で良い成績が出て安全性が担保できれば、大阪府立成人病センター、がん研有明病院、京都大学、杏林大学など5施設ほどに広げていく計画だ。
*フルオロウラシル=商品名5-FU *レボホリナートカルシウム=商品名ロイコボリン *オキサリプラチン=商品名エルプラット *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン
切れ味の良い治療法のレジメン
FOLFIRINOXは副作用が強く出るので、全身状態(PS)や年齢を考慮して具合の良い患者が対象となる。主な副作用として、吐き気や末梢神経障害、口内炎(口腔粘膜障害)、骨髄抑制などが挙げられる。
胆管がんではステントが必須なので、骨髄抑制の強い治療ではステントが詰まったりステントによる胆管炎が起きたりすることが問題���なる。「ステントのコントロールと化学療法のコントロールの両方をうまくできるかが重要となります」(伊佐山さん)
FOLFIRINOXの投与スケジュールは、膵がんと同じだ(図2)。14日(2週間)を1コースとし、治療初日(第1日)にオキサリプラチン85mg/m2、イリノテカン180mg/m2、レボホリナート200mg/m2、フルオロウラシル400mg/m2の4剤を投与し、さらにフルオロウラシルを46時間かけて持続投与する。第3~14日目まで休薬する。フルオロウラシルは中心静脈投与であるために鎖骨の皮下に薬を注入するためのポートを造設する必要がある。

伊佐山さんは、「切れ味が良い治療法です。今まで化学療法が効かなかった患者さんたちに効果を発揮するのでは。肝内胆管がんなどの予後を強力に伸ばしていく可能性があります。将来的には標準治療の第一選択になる可能性があります」と期待を込める。
副作用対策をどう扱うか
課題は副作用だ。先行してFOLFIRINOXを使用している膵がんでみると、投与量の多いフルオロウラシルが骨髄抑制や肝機能障害を起こしてしまう。そこで考えられたのが、薬剤の投与量を減らすことで対応すること。初日のフルオロウラシル急速静注をやめ、イリノテカンも180mg/m2から120~150mg/m2に減量する。これを「モディファイドレジメン(mFOLFIRINOX)」という。
しかし、伊佐山さんは今回の臨床試験ではモディファイドレジメンは使わない方針だ。
「胆道がんでもモディファイドレジメンで行うべきという話もありましたが、それで効果が見られなかった場合、FOLFIRINOX自体が効かないのか、モディファイにしたから効かないのか、わからなくなってしまいます。効くことがわかってから投与量を控えることはあり得るのですが、まずは効くかどうかを確かめなくてはなりません。いきなり手控えたら、効かなかったときの理由がつかめなくなってしまいます」
次の一手は日本から
伊佐山さんは日本での新しい治療法の開発の意義を強調する。
「胆道がんはアジアに多いがんです。韓国をはじめ、中国、台湾、日本に多い。患者さんを助けるためには日本できちんと開発すべきです。これまでは外国に先を越されてきました。次の一手は日本から出したい。今回の第Ⅱ(II)相試験で、効果と日本人への適格性を確かめ、とてもよい結果が出れば、標準治療と比べての優越性、同等性を試すためにGC療法と比較する第Ⅲ(III)相試験を行いたいと思います。胆道がんを扱うには、消化管、肝臓の両方の知識と技術を持っていなければいけません。1日も早くより効き目のある治療法を届けられるように臨床試験に取り組んでいきます」
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