局所進行膵がん最新トピック 化学療法先行TS-1併用放射線療法に大きな期待

監修●須藤研太郎 千葉県がんセンター消化器内科主任医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年8月
更新:2017年10月


化学放射線療法の前に化学療法を加える

「化学放射線療法を行っても遠隔転移が出てくるということは、局所進行例と診断された時点で、すでに画像では見えない微小転移が起きている可能性が高いわけです。そこで考えたのは、化学放射線療法の前に、強力な全身化学療法を組み合わせることでした」

こうして「全身化学療法先行TS-1併用放射線療法」の第Ⅱ相試験が、2011年9月~2013年11月に行われることになった。先行する全身化学療法としては、GS療法(ジェムザール+TS-1併用療法)が行われている。この当時は、ジェムザール+アブラキサン併用療法やFOLFIRINOXの有効性が確認される前だったため、強力な全身化学療法としてGS療法が選択されていたわけだ。

最初にGS療法を4コース(約3カ月)行い、その間に転移が出てこなかった人に対して、TS-1併用放射線療法を行った。そして、さらにTS-1による維持療法を継続するという治療である(図3)。

「この治療の特徴は、全治療期間にわたって化学療法を行い、がんを抑え込んでいるという点です。さらに遠隔転移が出てこなかった症例に対して、局所治療としてTS-1を併用した放射線療法を追加することで、全体的に患者さんの予後向上につながらないかと考えました。

治療成績としては、奏効割合が33%で、生存期間中央値は21.3カ月でした(図4)。副作用としては、先行して行うGS療法施行中に高い頻度で好中球減少といった副作用が見られたものの、化学放射線療法およびその後のTS-1による維持療法中の副作用は比較的軽度で、放射線照射を加えることによって、重い副作用の頻度が増加するということはありませんでした。単施設で症例数が少ない臨床試験ではありますが、手術ができない局所進行膵がんで、このような治療成績が出たということは、意義があることだと考えています」

この治療を受けた患者の中にも、長期生存している人もいる(図5)。

「がんが肝動脈に浸潤しているために手術できない患者さんがいたのですが、治療によってがんが大幅に縮小し、5年経った現在もご健在です。その他に、がんが縮小したことで手術が可能になった人もいます。上腸間膜動脈(じょうちょうかんまくどうみゃく)への浸潤がなくなったため、TS-1維持療法を21コース行った後に手術した人がいるのですが、手術した病変を調べたところ、腫瘍細胞が残存しておらず、病��学的に完全奏効と診断された人もいました」

図3 全身化学療法先行TS-1併用放射線療法第Ⅱ相試験の概要
図4 全身化学療法先行TS-1併用放射線療法第Ⅱ相試験結果(有効性、副作用)
図5 全身化学療法先行TS-1併用放射線療法の効果(症例)

化学療法をジェムザール+アブラキサンに

全身化学療法先行TS-1併用放射線療法を行った患者の増悪部位を調べると、半数は遠隔転移を、半数は局所増悪を起こしていた(図6)。つまり、さらに治療成績を向上させるためには、より強力な全身治療や、より強力な局所治療が必要とされているわけだ。

「そこで、より強力な全身治療として、先行する全身化学療法に、ジェムザール+アブラキサン療法を行う第Ⅱ相試験が、30例を目標にして始まっています。臨床試験に参加した患者さんではありませんが、手術可能となり、切除した病変を調べてみたところ、腫瘍が残存していなかった例も出ています。今後どういうデータが出るかわかりませんが、GS療法と比べても効果が上回るのでは、と期待しています」

副作用が出やすいのは、先行する化学療法を行っているときだという。骨髄抑制が起きやすく、アブラキサンを使用するため、末梢神経障害によるしびれなども現れることがある。

「より強力な局所治療としては、切除手術を組み合わせていくことを考えています。ただ、がんが縮小して手術が可能になったとしても、手術した後に遠隔転移が出てきてしまっては、あまり意味がありません。今後は、遠隔転移を来しにくい症例をどう見分けるのか、また長期予後の観点から、手術のメリットがあるのかどうかなども含めて考えていく必要があると思っています」

他のがん種と比べても、治療が厳しいとされる膵がん。治療成績向上に向けて、現在進行中の臨床試験の結果には、大きな期待が寄せられている。

図6 全身化学療法先行TS-1併用放射線療法第Ⅱ相試験結果(増悪部位の割合)
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