新規承認薬により、治療の選択肢が大幅に広がった 新ガイドラインによる進行・再発胃がんの化学療法
エルプラットは神経障害、TS-1は食欲不振や下痢、ゼローダは手足症候群に注意
頻用されているTS-1+エルプラットの治療を受ける場合、患者はどのような点に注意すればよいのだろうか。
「エルプラットで特徴的な副作用は、投与直後に冷たいものに触れるとピリッとする寒冷刺激による神経障害です。ですから、冷たい飲み物を避けるとか、水仕事にはポリ手袋を使う、温かい湯を使うといった注意が大切です。治療開始当初は、投与から数日のことが多いのですが、継続して投与をしていくと蓄積性の神経障害が出現することがあります。神経障害が出ているのに無理して続けていると、足の裏の感覚が弱くなることで、歩きにくくなったり、靴やスリッパが脱げてしまうなど日常生活に支障が出てくるので、エルプラットを休薬し、TS-1だけに切り替えます。過剰に頑張り過ぎないことが大切です」
TS-1やゼローダは内服薬だが、服用を始めて2週間目あたりから副作用が起こることが多いという。
「TS-1では食欲が低下したり、下痢などの副作用が出ることがあります。経口薬は自宅で服用できるのがメリットですが、患者さんが自己管理する必要があります。水っぽい下痢で回数が多いようなら休薬して病院に行き、その後の服薬量を調整してもらうことが大事です。判断に迷うときは、病院の窓口に電話して相談しましょう」
抗がん薬を休薬すると効果が落ちるのではないかと心配する人がいるが、無理し過ぎるのは禁物だ。
「抗がん薬の投与量は体表面積で決まり、身長と体重から割り出します。しかし、体の大きい人が酒も強いとは限らないのと同様に、分解酵素などには個人差があり、薬の副作用の出方も異なるのです。どうしても過剰投与になる人が出てくるので、治療経過の中で副作用をみながら、調節していく必要があります。とくに大切な評価が、抗がん薬を開始した1サイクル目。この期間に副作用が強く出たら、減量などの調節をします。ここで副作用が強いからといって抗がん薬治療を止めてしまうのは時期早尚です。2割くらい減量して様子をみていき、続けられる量に調節することが肝要です」
ゼローダは、腫瘍の中で活性をもつように作られ、全身に及ぶ骨髄抑制などの副作用は少ないため、白血球が下がりやすい高齢者などに使われることが多い。
「ただ、なぜか手足症候群と呼ばれる反応が手足の皮膚に出やすいので、���ルドイド、ヘパリン、ワセリンなどの保湿クリームを塗って、皮膚の保護に努めてください」
今回からアルゴリズムに加わるFOLFOXはすべて点滴で行えるので、経口摂取が不十分な患者に使われることが多いそうだ。
2次化学療法は、血管新生阻害薬サイラムザ+タキソール(週1回投与)
治療中は、2~3カ月に1回程度はCT検査をして、腫瘍の状態を把握する。
「がんが増悪してきたら、それまで使っていた抗がん薬にがんが耐性をもってきたということですから、2次化学療法に移ります」
今回、2次化学療法では、2015年に承認され、胃がんに初めて使えるようになった血管新生阻害薬(分子標的薬)の*サイラムザと*タキソール(週1回投与)の併用療法が「推奨度1」とされ、アルゴリズムに記載される。
「1次化学療法後の切除不能胃がんに対する国際的な第Ⅲ相臨床試験(RAINBOW試験)で、サイラムザ+タキソール(週1回投与)と、タキソール単独投与を比較した結果、サイラムザ併用群で全生存期間(OS)、1年生存率ともに延長し、有効性が示されたことなどから、2次化学療法では唯一『推奨度1』のレジメンとしています」
臨床ではすでにサイラムザ+タキソール(週1回投与)の併用療法がよく使われるようになっているが、血圧上昇や蛋白尿、出血などに注意しながら使用する。
「毎日自分で血圧を測り、血圧が高い人は、降圧薬で血圧をコントロールします。また、サイラムザとタキソールの併用によって白血球が下がりやすくなるので、38℃を超える発熱があったら、必ず病院に連絡してください。発熱性好中球減少症(FN)といって、白血球中の細菌と闘う好中球が減少しているときの感染症は重症化しやすいので、抗菌薬などで適切に対処し、内服薬で対応しきれないときは入院します。白血球が下がったときに、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という白血球を増やす薬を投与することもあります」
なお、アルゴリズムには記載されないが、2次化学療法で選択可能な抗がん薬として、*カンプト/トポテシン単剤、タキサン系のタキソール単剤、*タキソテール単剤、最近胃がんに承認された*アブラキサン単剤(週1回投与も可)などのオプションも、ランク付けせずに併記される。
「新しく承認されたアブラキサンは、タキソールを改良した抗がん薬で、アルコールなどの溶剤を使っていないためアレルギー症状を起こしにくく、有効成分の浸透度が高いなどの利点があります。この9月にアブラキサンの週1回投与も副作用が比較的少ないということで承認されました。また、第Ⅱ相試験では、サイラムザとタキソール(週1回投与)の併用に対して、サイラムザとアブラキサン(週1回投与)の併用療法も比較的よいデータが出ているので、オプションが増えたと言えるでしょう」
2次化学療法では、1次化学療法による副作用などを勘案して、レジメンが選択される。
「サイラムザとタキソール(週1回投与)が『推奨度1』であっても、1次化学療法でエルプラットを使っていてしびれが強く出てきた場合、しびれが起こりやすいタキソールは外し、敢えてカンプト/トポテシンを選ぶこともあります」
*サイラムザ=一般名ラムシルマブ *タキソール=一般名パクリタキセル *カンプト/トポテシン=一般名イリノテカン *タキソテール=一般名ドセタキセル *アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル
3次化学療法は免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボまたはカンプト/トポテシン
「3次化学療法では、近いうちに胃がんに対しても承認される予定の免疫チェックポイント阻害薬*オプジーボと、カンプト/トポテシンの2つが『推奨度1』で、アルゴリズムに記載されます」
オプジーボは、切除不能のメラノーマ(悪性黒色腫)の10年生存率を2割に高めた夢の薬として注目され、進行・再発非小細胞肺がん、切除不能腎細胞がんなどに次々と承認されている。進行再発胃がんに対しても承認申請されており、この秋から年内には承認されるだろうと言われている。
「患者さんの期待も高まっていますが、胃がんに対する奏効率は15~20%程度と言われています」
2次治療でカンプト/トポテシンを使っていればオプジーボが第1選択になり、使っていなければ、どちらを先にしても構わないという。
オプジーボの副作用としては、間質性肺炎、大腸炎、下痢、肝機能障害、甲状腺機能障害、1型糖尿病などがみられる。カンプト/トポテシンは下痢を起こしやすい。これらの症状が強くみられたら、担当医に報告し、薬剤投与の中止や減量について相談しよう。
山口さんは、患者向けに次のようなアドバイスをしている。
「1次、2次、3次と薬剤が変わっていくとき、患者さんは強い治療に変えているのだろう、副作用も強くなるのだろう、と誤解しがちですが、そうではありません。それまでとは違うメカニズム(作用機序)の薬を使い、がんに立ち向かっていくのです。ですので副作用においては、強く出る人もいますし楽になる人もいます。副作用でQOL(生活の質)が低下することが懸念されますが、薬を使わずにがんが増大していくほうが、よほどQOLを低下させることになります。心配なことは担当医とよく相談して進めていきましょう」
ガイドラインは、担当医と相談するときの共通のツールにもなる。
「医療者向けに書かれた『胃癌治療ガイドライン』は、患者さんには難解だと思いますが、あらかじめ薬の名前を知っておくだけでも医師の話を理解するうえで有用です。なお、ガイドラインは音楽で言えば楽譜のようなもの。同じ楽譜でも指揮者や演奏家が違えば異なる音楽になるように、ガイドラインを金科玉条のごとくとらえるのではなく、あくまで基本の目安として考え、患者さんの状態やそれまでに使っていた治療薬、その副作用などによって、治療法を選択していただきたいと思います」
将来的には、患者向けにわかりやすく解説された『胃癌治療ガイドライン患者用』の発行を期待したい。
*オプジーボ=一般名ニボルマブ
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