治療選択の拡がりが期待される 肝細胞がんの1次治療に、約9年ぶりに新薬登場!
主な有害事象は高血圧とタンパク尿
有害事象、いわゆる副作用についてはどうだろう。レンビマ群では高血圧とタンパク尿が比較的頻繁に見られるという。
臨床試験でレンビマに高頻度に確認されたほかの有害事象は、下痢、食欲減退、体重減少、疲労など。ネクサバールによる副作用としては、命に係わることは少ないものの日常生活のQOLを著しく低下させる副作用として手足症候群が知られているが、レンビマはこの副作用が比較的少ないとのこと。それも患者には朗報だろう。
ただし、「『手足症候群がつらいから止めて次の薬に』というのはナンセンスで、まずきちんと副作用のマネジメントに取り組み、それでもやっていけない、投与量を減らしても厳しいというときにギブアップし、次の治療の選択肢で考えます」
高血圧については、患者に自宅で定期的に血圧を測定してもらい、その結果により降圧薬を投与する。すでに降圧薬を服用している患者に対しては、薬剤の種類を替えて追加することもある。いずれにしても、降圧薬を使うことでほぼマネジメントできるという。
タンパク尿については、毎回来院時に採尿・検査を行い、1日当たりの尿中のタンパク量が3.5gを超える場合には休薬、3.5g未満なら継続するという。どちらの副作用もきちんとの検査し、マネジメントすることが必要だが、自覚症状も少なく、患者のQOLに重大な影響を与えることは少ないとのことだ。
また、下痢についても止瀉薬(ししゃやく)を適切に使えば、ほぼマネジメントは可能だろうとのことだ。
「食欲不振や体重減少、疲労感のほうがむしろ介入しにくいかもしれません。食べられない人はなかなか食べられるようになりませんし、制吐薬(せいとやく)を処方するくらいしかできることがないのが現状です。そうなると薬剤の減量や休薬が必要になり、治療効果が維持しづらくなります」
それでも、つらいときには医師と相談して休薬期間を設けるという選択はある。休薬の結果回復すれば、投薬は再開できることが多いという。
「回復して再開する方はたくさんいます。休薬期間は人により症状により異なりますが、早く回復すれば1週間後には再開します。再開できるかどうかは食べられ方次第ではないかと思います」
こうしたことからも、レンビマは有害事象が比較的マネジメントしやすいという意味でも、期待の新薬と言えそうだ。
しっかり選択した薬剤をできるだけ長く続ける
薬の投与法は臨床試験と同様で、1日1回12mg(体重60㎏以上)または8mg(同60㎏未満)の経口投与。
池田さんによると、最初の1カ月は有害事象を見るために1週間に1度くらいの頻度で来院してもらうが、問題がなければ2週間に1度に減らし、6カ月ぐらい安定している患者の中には1カ月に1度の通院という人もいるという。この点でも患者の負担の少ない薬剤といえるだろう。
今や2薬剤が使えるようになった切除不能な肝細胞がんの初回治療だが、では、2薬剤はどのように使い分けられるのだろうか。
「それについては、臨床試験の内容を勘案して、担当の医師がどちらを選ぶかという問題だと思います。今のところはどちらを選んでも構わないという位置づけです」
先にレンビマを使い、効果や副作用の問題でネクサバールに移行する、あるいはその逆も可能性としては考えられるが、マルチキナーゼ阻害効果がより高いレンビマの次にネクサバールを使うのがどれほど有効かは何とも言えないとのことだ。また、何かしら問題があって投薬を中止した場合、肝機能が低下したりがんが進行したり、さまざまな理由でもう一方の薬剤に移行できない可能性も少なくないとのこと。やはり主治医とよく相談し、選んだ薬剤をできるだけ長く続けるのが基本の治療と言えそうだ。
肝細胞がんの治療がやっと次の時代に
今回のレンビマの承認の意義を池田さんはこう語る。
「第1に治療の選択肢が増えたということ。切除不能な肝細胞がんの初回治療薬としては、今までがんを縮小する効果があまり期待できなかったネクサバールしかなかったところに、ある程度がんの縮小が期待できる薬剤が出てきたわけです。今後、新たな薬剤は引き続き承認されてくる可能性があり、薬剤が増えることによっていろいろな組み合わせが考えられ、より効果の高い治療法の開発が進む可能性があると思います」
例えば、切除不能な肝細胞がんの初回治療後の治療薬としては、マルチキナーゼ阻害薬の*スチバーガがすでに承認されている。また、やはりマルチキナーゼ阻害薬のカボサンチニブ(一般名)やVEGFを阻害する*サイラムザなどについても、第Ⅲ相試験で延命効果が示されているので、近い将来承認されてくるだろうとのことだ。
さらに、レンビマでは現在、免疫チェックポイント阻害薬の*キイトルーダとの併用による固形がんを対象とした臨床第Ⅰb/Ⅱ相試験が進行しているが、肝細胞がんでも同様の臨床試験が進行中とのこと。免疫チェックポイント阻害薬は今期待のがん治療薬であり、次々と開発されてきているので、これらについても近い将来結果が出て、さらなる併用療法の可能性も出てくるだろうと池田さんは語る。
「肝細胞がんの治療がやっと次の時代に突入したかなという感じです」
「近い将来」とはいえ、時期はまだ未定だが、いずれにせよ、肝細胞がんの治療に大きな光明が見えてきているのは間違いないようだ。
*スチバーガ=一般名レゴラフェニブ *サイラムザ=一般名ラムシルマブ *キイトルーダ=一般名ペムブロリズマブ
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