分子標的薬の使う順番の検討や併用が今後の課題 さらに進化している進行非小細胞肺がんの最新化学療法
タグリッソの日本人の長期生存解析結果は海外と逆に
ところが、2019年12月、日本肺癌学会で驚くような発表が行われた。FLAURA試験の日本人サブセット解析が行われた結果、日本人ではタグリッソ群の無増悪生存期間は有意に延長したものの、全生存期間は当初はタグリッソ群が良好であったが、長期生存はむしろ対照群が良好だったことがわかったのだ。
試験には日本人120人が参加し、タグリッソ群が65人、対照群が55人だったが、日本人患者の全生存期間中央値はタグリッソ群が39.3カ月に対し、対照群は未達(生存中)と対照群のほうが良好であり、生存曲線は27カ月あたりで逆転していた。
「タグリッソを初回治療で使ったほうが良いのか、まだ研究が必要ということです。タグリッソはEGFR阻害薬の第1世代、第2世代と比べて皮膚障害が軽く、これは患者さんにとってメリットですから、初回から使って差し支えないのですが、タグリッソが効かなくなったらどうするかという問題がある。できれば、最初に第1世代、第2世代を使い、これらが抵抗性になったとき、タグリッソが使えれば良いのですが、タグリッソを2次治療に使う場合、T790Mに変異があるかを調べ、変異がある患者さんにしか使えません。変異があるのは半分程度ですから、半分の患者さんは使えないことになります。初回治療なら全員が使えますから、それならと初回治療に使う医師が増えていると思います」と、久保田さん。
ここでの問題は、T790Mに変異がなかった患者(T790M変異陰性)に、タグリッソが効かないかどうかが明らかになっていないことだという。そこで、T790Mが陰性でも第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が有効かどうかの第Ⅱ相医師主導治験の計画が12月の日本肺癌学会で発表された。
また、FLAURA試験からはタグリッソを初回治療で使った場合に生じる耐性についてのデータも得られたため、2018年10月にはタグリッソを初回治療に使ったあとに病期が進行した患者を対象に複数の治療群の非盲検多施設共同第Ⅱ相試験(ORCHARD)が開始されている。
第1世代分子標的薬も併用療法で生存期間延長
分子標的薬と抗がん薬の併用に関してはどうだろう。
「最近、第1世代のイレッサと、イレッサ+化学療法を比較した結果、併用群の生存期間がよかったという報告がありましたね。また、最初に第2世代を使い、耐性ができたらタグリッソを使って全生存期間が良好であったという解析もありました。どの順番で何を使うのがいいか、いろいろ試験が行われています。タグリッソとプラチナ製剤の併用の意義を調べた第Ⅲ相試験では、無増悪生存期間も全生存期間も延長���示すとともに、6カ月以降のQOL(生活の質)もほぼ同等に保たれたとの報告があります」
イレッサ対イレッサ+化学療法の試験はNEJSG(北東日本研究機構)で行われ、EGFR変異陽性の転移した非小細胞がんと新たに診断された患者345人を対象としている。イレッサ単独群とイレッサ+カルボプラチン(商品名パラプラチン)+アムリタ(一般名ペメトレキセド)併用を比較したところ、併用療法で全生存期間の中央値が50カ月を超えたという。
最初に第2世代を使った試験とは、「Gio-Tag」アップデート研究の中間解析結果。ジオトリフによる初回治療で薬剤に耐性ができた患者にタグリッソを投与したところ、全生存期間中央値が45.7カ月と4年を超え、2年間の全生存割合は82%だったというものだ。
「1、2年くらいで効果が薄れてしまう分子標的薬の使う順番を検討することは今後の課題です」と久保田さん。
併用も期待される免疫チェックポイント阻害薬
では、免疫チェックポイント阻害薬はどのように使われているのか。実をいうと、EGFR陽性非小細胞肺がんでは免疫チェックポイント阻害薬に対する反応があまりよくないのだという。
前述したように、抗がん薬の効果は比較的高いので、「EGFR陽性の方には、免疫チェックポイント阻害薬単独ではなく抗がん薬との併用に可能性があるのではないかと思います」
また、新しい免疫チェックポイント阻害薬に関しては単独だけでなく、様々な併用の試験が行われているが、試験のデザインによっては、効果が期待されても薬剤が使えないなど、混乱も生じている。
「例えば、2018年に報告されたキイトルーダ+抗がん薬と抗がん薬との比較試験では、EGFR陽性の人を除外して試験を組み立てています。そのため、EGFR陽性のデータがなく、適応になっていません」
同じようなことは、ABCP療法という治療法でも起きているという。ABCP療法とは血管新生阻害薬のアバスチン(同ベバシズマブ)、カルボプラチン、タキソール(同パクリタキセル)に免疫チェックポイント阻害薬のテセンリク(同アテゾリズマブ)を組み合わせた治療法だが、「EGFR陽性の人も試験に入っていて、成績もよくEGFR陽性の人への効果が見込めると期待されました。ところが、EGFR陽性の人を外して解析したため、評価が分かれてしまいました。また、4剤併用となるとどうしても副作用も強くなりますから、選択できる患者さんは限られます。肝転移や悪性胸水がある人に効果がありそうなので、若くて体力があり、肝転移や胸水のある人によいかもしれません。いずれにしても、今後は薬剤や組み合わせはもちろん、患者さんの状態や年齢などによって、治療法を細かく使い分けていくことになると思います」
免疫チェックポイント阻害薬は効く患者には非常によく効く治療であり、そうしたケースでは単剤で完治する可能性もあるという。そのほか、イミフィンジ(同デュルバルマブ)±トレメリムマブ(抗CTLA-4抗体)+抗がん薬併用療法がⅣ期の非小細胞肺がんで無増悪生存期間を延長した報告(POSEIDON試験)や、キイトルーダとヤーボイ(同イピリムマブ)という2種類の免疫チェックポイント阻害薬+2サイクルの抗がん薬が、主要評価項目の全生存期間改善を達成したという報告(Checkmate-9LA試験)など、実に多くの報告が行われている。
しかし、「ヤーボイはかなり毒性が強いので、承認されても慎重に使う必要があると思います。また、タグリッソとキイトルーダ併用の試験では、数10%も間質性肺炎が出て中止になりました」
それでも、進行がんでありながら使える手段が増え続けている非小細胞肺がん。
「治療を受けるにあたって、口腔ケア、腸内ケア、適度な運動を行い、希望のある生活をすることがとても重要です。体調を整え、医療者と相談してベストな治療を選択し、継続していただきたいと思います」と、久保田さんは締めくくった(図3)。

同じカテゴリーの最新記事
- 有効な分子標的薬がなかったEGFRエクソン20挿入変異陽性肺がんに ついに承認された二重特異性抗体薬ライブリバント
- 手術後の再発予防に加え、Ⅲ期の放射線化学療法後にも EGFR変異陽性肺がんタグリッソの治療対象さらに広がる!
- PARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬に続く トリプルネガティブ乳がんに待望の新薬登場!
- 免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用療法が登場 肝細胞がんの最新動向と薬物療法最前線
- 新薬や免疫チェックポイント阻害薬も1次治療から 胃がんと診断されたらまずMSI検査を!
- リムパーザとザイティガの併用療法が承認 BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん
- 免疫チェックポイント阻害薬で治療中、命に関わることもある副作用の心筋炎に注意を!
- SONIA試験の結果でもCDK4/6阻害薬はやはり1次治療から ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がん
- dose-denseTC療法も再脚光を ICI併用療法やADC新薬に期待の卵巣がん
- 心不全などの心血管の副作用に気をつけよう! 乳がんによく使われる抗がん薬