新規の併用療法による治療効果改善に期待 ステージⅢ胃がんにおける術後補助化学療法の現状

監修●東風 貢 日本大学医学部附属板橋病院消化器外科診療教授
取材・文●伊波達也
発行:2020年8月
更新:2020年8月


中間解析で3年無再発生存期間の優越性示される

「この試験では、3年無再発生存期間(RFS)を比較しました。当初、観察期間は、最終症例登録後5年間を予定していました(登録期間2013年4月~2017年12月)。

しかし、2017年4月に、216人の患者さんにイベントが発生した時点(追跡期間中央値12.5カ月)で、2回目の中間解析を行ったところ、RFSはS-1+ドセタキセル併用群が66%、S-1単独群が50%と両群間で有意差(p<0.001)が認められました。このように、S-1+ドセタキセル併用群での優越性が示されたため、効果安全性評価委員会の勧告によって、2017年9月に試験は中止となりました」

この結果により、日本胃癌学会ガイドライン委員会は「D2リンパ節郭清を伴うR0切除後のpStage(病理分類によるステージ)Ⅲ胃癌に対して、S-1+ドセタキセル療法は新たな標準術後補助化学療法として推奨される」とした。

また、試験結果は、ASCO(米国臨床腫瘍学会)2018で報告され、2019年2月発行のASCO誌「Journal of Clinical Oncology」に、正式な論文として掲載された。

「試験をスタートするにあたっては、胃癌取扱規約が若干変更になり、ステージⅣの一部がステージⅢに入りましたから、有効性を担保できるのかどうか、当初は懐疑的なところもありました。

しかし、思いのほか少ない症例で有効性が担保できてしまいました。ただし、中間解析の時点では、900例近くの症例で、200件そこそこのイベント発生です。50%程度は再発することが予測されますから、トータルで400~500件近いイベントは生じるはずです。あと1年半程度で、RFSの明確な結果が出てくるでしょう」

さらに、今後、サブ解析で行っている、3年、5年の全生存期間(OS)の評価が待たれるが、その結果は、あと3~4年先になりそうだという。

有害事象や個々の状況に応じて使い分けていくのが現実的

また、韓国で行われた、「CLASSIC試験(2012年)」の結果、カペシタビン(商品名ゼローダほか)とオキサリプラチン(同エルプラットほか)の併用療法(CapeOX療法)も現在、ステージⅢ胃がんの術後化学療法の標準治療として認められている。

「S-1+オキサリプラチンの併用療法(SOX療法)とCapeOX療法の優劣については、両者を比較した試験がありませんし、その予定もありませんので、有害事象や患者さん個々の状況に応じて使い分けていくというのが、実臨床では現実的だと思います」

そして、SOX療法も、安全性と忍容性を検討した試験結果によって、マネージメント(治療管理)は可能で、適切な減量や投与延期によって安全に実施可能であると、日本胃癌学会ガイドライン委員会は認めている。

「JACCRO GC-07」の中間解析の結果は、他の試験にも影響を及ぼした。「JCOG1509」というJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の胃がんグループが行っている臨床試験だ。

これは、局所進行胃がんにおける術後補助化学療法に対する、周術期化学療法の優越性を検証するための無作為化比較第Ⅲ相試験だ。

ステージⅡBとステージⅢ胃がん症例に対して、手術+術後化学療法を行う群と、術前化学療法(SOX療法)+手術+術後化学療法群とを比較する試験だ。

当初、術後補助化学療法は、S-1単独でデザインされていたが、「JACCRO GC-07」試験の結果を踏まえて、ステージⅢの症例には、S-1+ドセタキセルの投与を行うデザインに改変しなければならなくなったのだ。

そして、一時期、試験がストップしていたため、登録期間、追跡期間、解析期間、総研究期間は自ずとずれ込む形となった。

したがって、結果が出るのは、まだかなり先になりそうだが、これも結果に注目したい試験と言える。

ステージⅢ胃がんにおける補助化学療法の将来展望

今後、ステージⅢ胃がんの補助化学療法はどのようになっていくのだろうか。

「胃がんは、まだ大腸がんのようにいろんな治療薬が使えるという状況ではありません。現実的にはなかなか臨床試験もやりにくい時代になってきていますが、進行再発胃がんの結果を参考に、新たな治療法を模索していくことになるでしょう。

ニボルマブ(商品名オプジーボ)をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬が、補助化学療法において、将来どのような使い方ができるようになるか、という点は一つあるかもしれません」

補助化学療法の臨床試験は、なかなか良い結果が得られていないとされるが、分子標的薬の有効性を証明することも、治療の選択肢を広げることになるだろう。

「例えば、ベバシズマブ(同アバスチン)は、胃がんにおける臨床試験結果はネガティブでした。しかし、症例数を増やして行えば、有効性を担保できた可能性はあります」

胃がんの根治は、他の固形がん同様、手術による根治切除が大前提だが、その可能性をより高める、補助化学療法の進化が、将来的に、胃がんの治療成績をより良くするためには不可欠であると言えるだろう。

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