血液がんに新薬ラッシュ! インパクトがあり、キードラッグとなる可能性あるものも
再発・難治性末梢T細胞リンパ腫(PTCL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)に対する新薬
末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)は、悪性リンパ腫の1つで、国内の患者数は6,000人未満。進行期になって発見されることが多く、一部の病型(ALK陽性未分化大細胞リンパ腫:ALCL)は20~30代で発症するが、治癒しやすい。しかし、その他の病型では60歳前後で発症するものが多く、予後は不良で難治・再発するケースが少なくない。
今年3月に承認されたレミトロ(一般名デニロイキンジフチトクス)は「再発または難治性の末梢性T細胞リンパ腫」および「再発または難治性の皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)」に承認された。
腫瘍細胞表面のインターロイキン-2(IL-2)という受容体(鍵穴のようなもの)と特異的に結びつき、複合しているジフテリア毒素をがん細胞の中に送り込む。この毒素ががん細胞のタンパク合成を阻害して、効果を発揮するとされている。
「その独特の作用機序が、予後不良で難治・再発している末梢性T細胞リンパ腫の選択肢の1つとして評価されたのだと思います」(矢野さん)(表3)

CAR-T細胞療法薬は3剤目が承認
CAR-T細胞療法とは何か?
免疫を担うリンパ球の1つであるT細胞は、がん細胞を体にとって異物であると判断して攻撃する。そこで、患者さんの血液を採取し、そのなかのT細胞に遺伝子改変の技術を使って、がん細胞を認識する遺伝子CARを導入してCAR-T細胞を作り、それを患者さんの体内に戻して、より強力になったCAR-T細胞でがんを死滅させる。これがCAR-T細胞療法だ。
CAR-T細胞療法の製剤キムリア(一般名チサゲンレクルユーセル)が、すでに難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)とDLBCに対して、2019年5月に保険適用となっている。CAR-T細胞療法薬としては国内1番手だ。
次に、今年(2021年)1月に承認されたのがイエスカルタ(一般名アキシカブタゲンシロルユーセル)で、適応は「再発または難治性のDLBCL」だ。DLBCLには、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、形質転換ろほう性リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫が含まれる。
続いて今年の3月に承認されたのがブレヤンジ(一般名リソカブタゲンマラルユーセル)。「再発または難治性のDLBCL」と「再発または難治性ろほう性リンパ腫」に対する適応だ。2つのリンパ腫はB細胞非ホジキンリンパ腫に該当し、それぞれ30~40%、10~20%を占める。
「当院でも、本年からCAR-T細胞療法を開始しましたが、患者さんたちの期待の大きさを感じています。さっそく順番��ちの状態になっています。現状ではDLBCLの患者さんが多いです」
このCAR-T細胞療法を行っているのは、東京慈恵会医科大学附属病院を含めて全国で22施設(2021年4月現在)だが、今後も増えていくだろう。
「3つのCAR-T細胞療法製剤は、対象とする疾患が重なっているものもあれば、別々のものもあります。例えば、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫は、イエスカルタは対象としていますが、キムリアは対象となっていません。そのように対象疾患で製剤の棲み分けができます。重なって入る部分では、臨床試験のデータを解析し、最適なCAR-T細胞療法製剤を選択していくことになると思います。いずれにしろ、治療選択肢が増え、患者さんにとっては有望な治療の1つです」と矢野さん。
課題もある。それは初めて承認されたCAR-T細胞療法薬のキムリアのときに起こった薬価の問題だ。今回承認されたイエスカルタもブレヤンジも薬価は同じ約3,350万円である。
「保険適用がされるといっても、患者さんの経済的負担は大きいですし、国の負担も大きい。製造コストを下げて、効果をいかに高めるか。CAR-T細胞療法の普及はそこにもかかっていると思います」と矢野さんは話を結んだ。
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