長い停滞を乗り越えて次々と新薬登場! 内臓転移でも選択肢が増えたメラノーマ

監修●吉野公二 がん・感染症センター都立駒込病院皮膚腫瘍科部長
取材・文●黒木 要
発行:2021年6月
更新:2021年6月


再発・転移予防でも効力を発揮

手術の適応でもリンパ節に転移があるⅢ期の場合は、遠隔転移をする可能性がある。そのリスクを軽減するため術後化学補助療法を行う。

「2年ほど前からオプジーボもしくはキイトルーダを1年間使うのが標準的になっています。BRAF遺伝子変異陽性であれば、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用を1年間行います。また、新規薬物による補助療法が主流になってからは、転移の予防がメインとなってきています。薬剤がよく効くようになったから可能になったことといえます」

血管肉腫でも新規薬剤に期待

「血管肉腫」とは、血管の内側の細胞ががん化したもので、高齢者の頭部に発生しやすい。また、乳がん後遺症のリンパ浮腫や放射線治療の晩期障害から生じることもある。日本人の場合、頭髪が黒くてはげにくいため発見を難しくしている。

手術で切除した後、放射線治療をする時代が長く続いていた。当時の5年生存率は5~7%。2012年にタキソール(一般名パクリタキセル)が保険適用となり、化学放射線治療になった。また、転移を防ぐために、放射線治療後にタキソールを定期的に投与する維持療法に効果がある。

「手術後の2年生存率は6割ですが、再発を起こすことがあります。そこで、分子標的薬のヴォトリエント(一般名パゾパニブ)、それが効かなくなったら2次治療に抗がん薬のハラヴェン(同エリブリン)と、使える手が増えています。オプジーボが臨床試験中で、これも日常診療で使える日に期待しています。悪性度が強く難敵ではありますが、戦える武器が増えてきました」

●乳房外パジェット病

「乳房外パジェット病」は、汗腺の1つであるアポクリン腺に由来するといわれている皮膚がんで、外陰部や肛門周囲、脇の下などアポクリン腺が多い場所に発生する。60歳以上の高齢者に多い。

がんが表皮内にとどまっているうちは転移もなく、手術だけで治療は終了する。しかし、場所が場所だけに発見が遅れがちで、病院に行くのをためらっているうちに、かなり進行していたというケースも。

「乳房外パジェット病はリンパ節の転移が起こりやすいがんで、2個以上のリンパ節転移が見つかると、その後、内臓に転移する確率が高くなるといわれています。鼠径部のリンパ節の転移の有無、個数が予測因子で、それを評価する方法としてセンチネルリンパ節生検が有用なのですが、去年(2020年)やっと保険適用になりました」

しかし、「もう1つの深刻な問題がある」と吉野さんはいう。

「内臓に転移があった場合は薬物療法を行いますが、保険適用の抗がん薬が1つもないのです。タキソテール(一般名ドセタキセル)が効くことはわかっているのですが、保険適用の抗がん薬がないということで、薬物療法を行わない病院もなかにはあります」

保険適用薬がないのは、患者数が少ないために臨床試験を行うことが難しいためという。

「それを打破するための第一歩として患者会を作ることも考えているのですが、もともと患者数が少ないので苦慮しているところです。なんとか内臓転移の患者さんにタキソテールを承認してもらえるよう、患者さんらの力を借りて実現したいですね」と吉野さんは話を結んだ。

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