「遺伝子パネル検査」をいつ行うかも重要 NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに2剤目ヴァイトラックビ
治療選択肢を増やすために遺伝子パネル検査は早めに
現在は、保険で遺伝子パネル検査を行えるのは、標準治療がなくなった場合となっている。
「がん診断時にどのような遺伝子異常があるかを確認するのは、ひとつの理想形ではありますが、がん患者さん全員に行う可能性を考えると医療経済的には困難です。しかし、標準治療が終わった後では〝最後の審判〟になりかねません。標準治療後に遺伝子異常を特定できても、新たな治療や治験に入ることが難しい体力になっているケースが少なくありません。患者さんの治療選択肢を増やすためには、1つか2つ標準治療を行った後に遺伝子パネル検査するのがいいのではないかと思います。とくに、希少がん、小児がんなどでは早めに遺伝子パネル検査を行ことが望ましいと思います」(砂川さん)
実際、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会の3学会が2020年5月に「治療ラインのみでがんゲノムプロファイリング検査を行う時期を限定せず、その後の治療計画を考慮して最適なタイミングを検討することを推奨する」と、遺伝子パネル検査のガイダンスを出している。
遺伝子パネル検査には問題点も
今日、日本のがんゲノム医療は、①がんゲノム医療中核拠点病院(全国12施設)②がんゲノム医療拠点病院(33施設)③がんゲノム医療連携病院(181施設)という3つのカテゴリーの病院に整えられている。
①と②は厚労省で決められた専門家会議(エキスパートパネル)を開催しなければならないが、③の場合は、①②に依頼する形になる。がん遺伝子パネル検査を受ける場合は、①②③の病院を地域で探すか、主治医に紹介状を書いてもらうことになる。
ちなみに、聖マリアンナ医科大学病院は②のがんゲノム医療拠点病院で、院内にゲノム医療推進センターをもつ。同センターは2019年4月に開設され、2021年7月までにおよそ230人が遺伝子パネル検査をしているという。
「がんゲノム医療施設としては多いほうで、全体の約30%の人に治療や治験を提案でき、実際に薬剤を投与できた人は全体の11%ほどです。11%は高い数字ではありませんが、10人中1人は治療につながる検査ということです。この数字は検査のタイミングや患者さんの体調管理などにより、まだまだ改善でき、30%くらいの患者さんが治療到達できるようになればと思います」(砂川さん)
膵がん、胆道がん、大腸がん、婦人科がんなどでの検査が多いそうだ。
ただ、遺伝子パネル検��自体は全国で受けられるが、その後の治療となると地域的なハンディはどうしても生まれる。検査結果で治験や治療薬などがあっても、全国どこででもそれを受けられるわけではなく、地域的な壁は高い。それもひとつの問題とのこと(表)。

「必ずエキスパートパネルを開催しなければならないのも課題です。この会議はゲノム担当医、臨床遺伝医、遺伝カウンセラー、薬剤師など多数の専門家が集まることが義務づけられています。各症例について検討し、認めた遺伝子異常に対する治療や治験提案を行います。当院では週1回Webで開催していますが、医療者の時間外の負担がきわめて大きいです。今後、もう少し簡便な会議にしたり、遺伝子異常の意味や該当する治験をAI(人工知能)で判断できるようにするなど改善は必要でしょう」
今後、ますますがん遺伝子への標的薬剤が増えて、遺伝子パネル検査は重要になってくる。「治療につながる遺伝子異常が見つかったときには、その治療を受ける体力がなくなっているということのないよう、標準治療を行いながら早めに遺伝子パネル検査を行い、後々の治療に備えることが大切です」と砂川さんは話を締めた。
*患者申出療養=未承認薬などを使用したいなどの患者からの申出を受け、医師や病院が連携して実施の可能性を探る制度
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