第2相試験の1年生存率は約8割。保険承認に向け、第3相試験もスタート 腹腔内に抗がん剤を直接注入!胃がん腹膜播種の新治療はここまで進んだ
標準治療と比較する第3相試験が始まる
かつては治療成績が良ければ、第2相試験の結果をもって、保険診療として認められることもあったが、現在では、第3相試験で標準治療と比較し、それよりも優れていることを証明しないと、保険診療としては認められない。
そこで、この治療も、今年10月から2015年までの予定で、第3相試験(フェニックス試験)が行われることになった。第3相試験で効果が確認されれば、保険収載を申請することになる。なお、第2相試験までは東大病院だけで行われていたが、第3相試験は全国の12~15施設で行われる予定だ。
臨床試験では、有効性と安全性を考慮して、対象となる患者さんについて詳細な条件が定められる。この試験で定められた条件のうち主なものは、次のとおりである。
●腹膜播種以外の転移がない
●今までに抗がん剤治療を受けたことがない、または、抗がん剤治療を受けた期間が2カ月未満である。
●胃を切除する手術を受けていない。
●年齢が75歳未満である。
「新しい治療法について検証する試験では、対象とする患者さんを慎重に選ぶ必要があります。副作用の危険性を最小限に抑えることは最も重要ですし、治療効果を最大限に引き出す必要もあります」
この臨床試験に参加する患者さん(180人)は、無作為にAグループ(120人)とBグループ(60人)に分けられる。AはTS-1+パクリタキセル静脈・腹腔内併用療法を、BはTS-1+シスプラチン併用療法を受けることになる。AとBに無作為に振り分けられるということは、患者さんも医師も治療法を選べないということだ。このような無作為化という方法を取らないと、医学的に真の評価はできないと考えられている。もちろん、臨床試験に参加するかどうかを決定するのは患者さんである。「この臨床試験の対象となる腹膜播種の患者さんに対しては、TS -1とシスプラチンの併用療法が標準治療と考えられています。腹腔内化学療法を併用する新しい治療法は、有効な治療法の1つと考えられますが、第2相試験の結果をもって標準治療より優れているということはできません。一般に第2相試験では、治療の効果が出やすい患者さんが集められたり、��たは偶然集まったりして、実際よりも良い結果が出ることがあるからです」
新しい治療はこの試験でのみ受けられる
腹腔内化学療法を一般の病院で日常の医療として行えるようにするためには、保険で認められることが不可欠だ。
現代の医学では、新しい治療法を客観的に正しく評価するためには、患者さんを無作為に振り分ける第3相試験が必要と考えられている。
「第2相試験で有効な治療法の1つであることがわかった段階で認められれば良いのですが、現在では、第3相試験で最も有効な治療法であることが証明されないと保険で認めてもらうことはできません。患者さんの多くは、少しでも望みがあれば新しい治療法を受けたいと考えていますし、医師は有効性が確認された段階で、その治療法を行いたいと考えていますが、国側はずっと厳しい考え方を持っているのが現状です」
パクリタキセル腹腔内投与は新しい治療法なので、臨床試験としてのみ実施が可能であり、一般には行うことはできない。現在のところ、他にはパクリタキセル腹腔内投与の臨床試験は行われていないため、この第3相試験に参加する患者さんのみが、この新しい治療を受ける機会を得られることになる。
生存期間によって治療成績を評価
この試験の主要評価項目は全生存期間となっている。治療開始から患者さんがどれだけ生存したかによって、治療法の優劣を評価するということだ。
その他の評価項目としては、治療成功期間、抗腫瘍効果、安全性があげられる。治療成功期間とは、決められたとおりに治療を続けられた期間のことだ。
「治療成功期間を評価するのには2つの意味があります。1つは効果がどれだけ続いたのか。もう1つは治療を続けられなくなるような副作用がなく、治療を続けられたのかということです」
安全性については、第2相試験までは1施設30~40例の限られた症例で確認されただけなので、この第3相試験で施設数と患者数を増やして副作用の程度をより詳細に調べることが必要だ。
標準治療と比べて危険性が高くないかどうかも重要だ。これらの評価項目について調べ、新しい治療法の有用性や安全性について評価するのである。
試験の情報はホームページで公開される
東京大学 新潟県立がんセンター新潟病院 茨城県立中央病院 帝京大学 名古屋大学 愛知県立がんセンター中央病院 金沢大学 福井大学 近畿大学 大阪府立成人病センター 兵庫医科大学 鹿児島大学 |
この臨床試験に参加する場合の平均的な負担額は、健康保険が3割負担の場合、ほぼ次のようになる。Aは1コース(3週)で5万8000円、Bは1コース(5週)で5万5000円。患者さんにより、抗がん剤の投与量が異なり、抗がん剤投与以外の診療内容も異なるため、費用には差がある。
パクリタキセルの腹腔内投与は保険外診療だが、薬は製薬会社から無償提供されるため、腹腔内投与に関連する費用の一部が、患者さんの負担になるという。
臨床試験に参加を希望する場合は、まず試験のホームページで内容を確認し、事務局に申し込むことが必要となる。申し込みに応じて、事務局から主治医宛てに試験の内容、参加条件や紹介方法を記した文書が郵送される。そして、主治医が試験参加の条件を満たしていることを確認したうえで、最寄りの試験参加施設に紹介するという方法が取られる。
臨床試験は主治医の協力を得て参加する仕組みになっているので、試験に参加希望の場合は、まず主治医と相談することが必要だ。
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