副作用は少なく、腫瘍縮小効果は大きい 局所を集中的に攻める新しい化学療法「抗がん剤灌流療法」

監修:村田 智 日本医科大学放射線医学准教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2011年10月
更新:2013年4月


副作用の神経障害で痛みが消えることも

[表5 シスプラチンを使用した日医式骨盤内抗がん剤灌流療法で起こる副作用]
(シスプラチン150~240mg/㎡)

表5 シスプラチンを使用した日医式骨盤内抗がん剤灌流療法で起こる副作用

日医式骨盤内抗がん剤灌流療法では、シスプラチンで1番問題となる腎毒性をはじめ、全身的な副作用はあまり出ない。副作用はグレード()0~4で評価されるが、基本的にグレード3以上はない。しかし、投与量が多くなると、グレード3の臀部・下肢痛が出ることがある。これは骨盤内の高い血中濃度により、坐骨神経がダメージを受けるためだ。したがって、シスプラチンの投与量は、臀部・下肢痛が出ない範囲にするのが望ましい。

ただし、同じ副作用でも、痛みの緩和に役立つ副作用もあると村田さん。

「神経毒性は副作用ですが、直腸がんが進行して痛みがひどいような場合には、逆に痛みの緩和に役立つことがあります。ひどい痛みに苦しめられていた患者さんでも、日医式骨盤内抗がん剤灌流療法を行った2~3日後には、神経毒性の一種である痛覚障害によって、痛みから解放される人もいます。歩くことはもちろん、座ることさえできなかった人が、職場に復帰したような例もあります」

このように痛みの治療に役立っている痛覚障害は、比較的少ない投与量でも起こることが明らかになっている。150~200ミリグラムのいろいろな投与量で比較してみると、痛みを緩和する効果に差がなかったのだ。つまり、臀部・下肢痛が起こるような量を投与しなくても、痛みを緩和する効果は得られるのである。

グレード=副作用の重症度。数値が高くなるほど重症度が上がる

肝臓における灌流療法の研究も進められている

[図7 今までに日本医科大学で開発された抗がん剤灌流療法]

1. 骨盤内悪性腫瘍に対する閉鎖循環下抗がん剤灌流療法(NIPP)
2. 傍大動脈周囲リンパ節転移に対する大動脈主要分枝閉塞下抗がん剤灌流療法
3. 肝がんに対する経皮的抗がん剤灌流療法
4. 膵がんに対する経皮的抗がん剤灌流療法

日医式骨盤内抗がん剤灌流療法の治療対象となるのは、骨盤内臓器(直腸、子宮、卵巣、膀胱など)にできたがんで、手術できないと診断されたケース。がんが骨盤内にとどまっていれば、完治を目指して治療が行わ れるという。

すでに300例余りの治療実績がある。しかし、保険診療として認められていないため、自由診療となる。費用は入院費なども含め、1回で約100万円。

同大では、骨盤内を対象にした抗がん剤灌流療法以外に、ほかの部位の灌流療法として、次のような治療法もすでに開発されている。

◆傍大動脈周囲リンパ節転移に対する大動脈主要分枝閉塞下抗がん剤灌流療法
骨盤内臓器のがんが進行し、骨盤内にとどまらず、傍大動脈周囲リンパ節にまで転移が広がっているケースに対して行う治療。日医式骨盤内抗がん剤灌流療法で骨盤内を治療し、この治療で骨盤からはみ出した部分の治療を行う。費用は1回約150万円(入院費含む)。

◆肝がんに対する経皮的抗がん剤灌流療法
体外から針を刺し、バルーンカテーテルで血管を閉塞させて、肝臓内だけで循環させる灌流療法。外科的に開腹して行う肝臓の灌流療法もあるが、それに比べ身体的負担が軽く、繰り返し治療できるのが特徴。費用は1回約250万円(入院費含む)。

◆膵がんに対する経皮的抗がん剤灌流療法
動物実験が終了し、臨床試験に移る段階。世界でもまだ行われていない治療法である。費用は1回約250万円(入院費含む)。

少しずつ研究が進められ、症例数を増やしつつある抗がん剤灌流療法。より高いエビデンスが確立され、標準治療として認められることを期待したい。


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