日本発の経口抗がん剤の最新データが国際学会で注目 膵がん、大腸がんの患者さんに朗報!標準治療に劣らない経口抗がん剤の効果

取材・文:柄川昭彦
発行:2011年8月
更新:2013年4月


大腸がんの2次治療として有望な選択肢が増えた

全世界の有名な企業の薬剤情報、医療機器の展示ブース

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大腸がんの患者さんを対象としたFIRIS試験について発表していたのは、熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学教授の馬場秀夫さんです。この試験の結果は昨年すでに報告されていますが、今回、さらにより深い検討を加え、最終解析が行われました。

FIRIS試験は、手術できない大腸がんの2次治療として、標準治療のFOLFIRI療法( フルオロウラシル()+ ホリナートカルシウム()+ イリノテカン()の併用)と、IRIS療法(TS-1+イリノテカンの併用)の有効性が劣らないこと(非劣性)と、安全性を検討しています。国内の40施設が参加して行われました。

長期間にわたる観察の結果、生存期間中央値は、FOLFIRI群が17.4カ月、IRIS群が17.8カ月で、FOLFIRI群に対するIRIS群の非劣性が証明されました。

この試験結果により、手術できない大腸がんの2次治療として、IRIS療法は重要な選択肢の1つとなることが証明されました。

では、この結果が大腸がんの患者さんにとってどのような意味があるか考えてみましょう。

FOLFIRI療法では、ホリナートカルシウムとイリノテカンは点滴で投与され、フルオロウラシルは急速静注と持続静注が行われます。持続静注は、まず、患者さんの皮下にポートを埋め込む手術を行います。そして、小型の携行ポンプを使って、ほぼ2日間にわたってポートから静脈に薬を送り込む方法です。この治療を2週間に1回繰り返します。日常生活を送りながら化学療法を受けるための工夫ですが、患者さんには負担になります。

一方、IRIS療法は、2週間に1回のイリノテカンの点滴と、TS-1の内服だけ。ポートを埋め込む手術も不要ですし、2日間ポンプを携行して生活する必要もありません。

患者さんにとって、IRIS療法を選択する価値は十分あります。

フルオロウラシル=商品名5-FU
ホリナートカルシウム=商品名ロイコボリン
イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン

オキサリプラチン後の治療法としてIRIS療法がおすすめ

注目演題の発表ポスターの前���は人があふれる

注目演題の発表ポスターの前には人があふれる

今回の発表では、オキサリプラチン()という抗がん剤による治療経験がある人とない人で、治療成績がどう変わるかを解析しています。それによると、1次治療でオキサリプラチンを使った患者さんには、次の治療法としてFOLFIRI療法よりIRIS療法を行ったほうが、生存期間を延長することがわかりました。

FOLFIRI群の生存期間中央値は12.7カ月ですが、IRIS群では15.3カ月だったのです。

オキサリプラチンを含む標準治療には、FOLFOX療法(フルオロウラシル+ホリナートカルシウム+オキサリプラチンの併用)やCap OX療法( カペシタビン()+オキサプラチンの併用)などがあり、手術できない大腸がんの患者さんの半数以上の方の1次治療として行われています。

オキサリプラチンを含む治療を受けられた方に、IRIS療法が有効であるとの報告は、現在の大腸がん治療を考える上で、示唆に富む発表であったと思います。

今回の取材を通して、がん治療は治療成績の向上のみならず、飲み薬という患者さんの利便性を考慮した治療法が選択できる時代がきたと実感しました。

オキサリプラチン=商品名エルプラット
カペシタビン=商品名ゼローダ


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