今年も注目株は非小細胞肺がんの有望新薬クリゾチニブ。新たな発表も 肺がん、肝がん、乳がん、腎がんで注目の発表!ASCO2011最新報告

取材・文:平出 浩
発行:2011年8月
更新:2013年9月


肝がんに対するネクサバール肝臓の障害度別に検討

金沢大学大学院医学系研究科特任教授の山下竜也さんによれば、肝がんに関して、今回のASCOで注目すべき点は、まずGIDEON試験と呼ばれる臨床試験の2回目の中間解析の結果で、米国の研究者から発表がなされた点だ。

GIDEON試験とは、手術ができない肝細胞がんに対して、分子標的薬のネクサバール()治療の安全性や治療成績を追跡して評価する国際的な大規模試験で、安全性や治療成績、治療期間などについて、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類別に検討された。

チャイルド・ピュー分類とは肝臓の障害度を表す分類法で、血清ビリルビン、血清アルブミン、腹水の有無などの5項目を調べ、その合計点によって障害度を軽いほうからA(軽度)、B(中等度)、C(重度)の3段階で表したもの。

患者数が多かった障害度Aと障害度Bの患者さんを比較したところ、安全性に関して、すべての副作用について、肝臓の障害度によって出方に差はないが、重篤な有害事象は障害度がBの患者さんで多く見られた。治療期間は、障害度Bの患者さんはAの患者さんに比べて短く、障害度によってネクサバールを減量することはとくになかった。無増悪期間は障害度AとBの患者さんで差がない一方、全生存期間は障害度Aの患者さんよりBの患者さんほうが短いという結果だった。

ASCOで行われたディスカッションでは、チャイルド・ピュー分類で障害度が中等度のBの患者さんに対し、ネクサバー ルは日常的に使用できるのかなどについて話し合われた。ディスカッションの結論は、障害度Bの患者さんに対してはまだ試験的な治療法であるという見解が多数を占めたということだ。

ネクサバール=一般名ソラフェニブ

肝がん治療でスーテントとネクサバールの比較

[図7 ソラフェニブの効果(生存率)]

図7 ソラフェニブの効果(生存率)

*O’Brien-Fleming threshold for statistical significance was P=0.0077.
Llovet JM, et al. J Clin Oncol. 2007;25(suppl 18):LBA1. Updated from oral presentation at ASCO; Chicago, IL; June 2007.

もう1つ肝がんに関して、台湾の研究者から進行肝細胞がんに対するスーテント()とネクサバールの比較試験の発表があった。

この試験はネクサバールのSHARP試験と呼ばれる試験のデータをもとに、ネクサバールを比較対象群として、スーテントの優越性ならびに非��性()の検証を目的に行われたもの。つまり、スーテントがネクサバールと比べて"優れていること"、ならびに、"劣っていないこと"を検証するために行われた。

その結果、スーテントとネクサバールでは、無増悪生存期間や奏効率は同じだが、全生存期間ではネクサバールのほうが有意に長く、スーテントはネクサバールに対して優越性も非劣性も示せなかったことが明らかになった。

なお、SHARP試験とは、ネクサバール投与群と偽薬投与群を比較した試験で、全生存期間の中央値は、偽薬投与群7.9カ月に比べて、ネクサバール投与群では10.7カ月と有意に改善するという結果が出ている(図7)。

スーテント=一般名スニチニブ
非劣性=比較する薬剤よりも臨床的に劣らないこと

スーテントとネクサバールの比較優越性・非劣性を示せず

スーテントとネクサバールの比較試験では、抗腫瘍効果については両群間にさしたる差は認められなかった。無増悪生存期間と奏効率も同等だったが、全生存期間では、スーテント群が7.9カ月だったのに対し、ネクサバール群は10.2カ月という結果で、ネクサバールのほうが長いという結果であった。

副作用は、血小板、好中球、白血球の減少はスーテントのほうが多く見られた。一方、グレード3という日常生活を送ることが困難な手足症候群は、スーテントよりも、ネクサバールで多かった。

結論として、進行肝細胞がんに対し、スーテントはネクサバールと比較し、優越性も非劣性も示すことはできなかった。なお、重篤な有害事象()はスーテントで多くみられたことから、この試験は途中で中止された。

有害事象=治験薬または試験薬が投与された対象者に起こる、あらゆる好ましくない事象

トリプルネガティブ乳がんにアバスチンとタキソール併用が有望

ASCO会場

HER2が陰性の転移性乳がんに対する初回治療として、アバスチン()とタキソールの併用療法は、海外の試験結果と同様に、日本人の患者さんでも効果があり、かつ安全に使用できることが第2相試験で確認された。この2剤の併用療法は、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、HER2のすべてが陰性のトリプルネガティブの乳がん患者さんにも有効であるという。この成果は、がん研有明病院化学療法科の伊藤良則さんらによって報告された。

また、転移性トリプルネガティブ乳がん患者さんに、イニパリブ(一般名)をジェムザール()およびパラプラチンと併用した第3相試験が行われたが、全生存期間と無増悪生存期間については有意差を得るには至らなかった。一方、イニパリブを追加したことによるジェムザールとパラプラチンの毒性が悪化するようなことはなかった。

アバスチン=一般名ベバシズマブ
ジェムザール=一般名ゲムシタビン

進行性腎がんでアキシチニブは無増悪生存期間を延ばす

[図8 米国における腎がん診療アルゴリズム(2010年)]

  治療前評価 治 療 オプション
1次治療 低・中リスク スニチニブ
べバシズマブ+
インターフェロンα
パゾパニブ
高用量インターロイキン2
高リスク テムシロリムス スニチニブ
2次治療 サイトカイン療法が
効かなかった場合
ソラフェニブ
パゾパニブ
スニチニブ
VEGF受容体阻害剤が
効かなかった場合
エベロリムス  
Adapted from NCCN Guidelines 2010
ESMO Clinical Recommendations 2009 and EAU Guidelines on Renal Cell Carcinoma 2010

スーテントやサイトカインなどの治療を受けたことのある進行性腎細胞がん患者さんに対し、アキシチニブ(一般名)という経口剤は、ネクサバールに比べて無増悪生存期間を延長させることが第3相試験によって明らかになった。この試験には日本のグループも参加した。

奏効率は、アキシチニブ群が19.4パーセント、ネクサバール群が9.4パーセントだった。また、無増悪生存期間は、アキシチニブ群が6.7カ月、ネクサバール群が4.7カ月だった。また、患者さんのQOL(生活の質)はアキシチニブのほうが高く保たれていることも示されている。

また、サイトカインが効かない転移性腎細胞がんの2次治療として、アキシチニブを投与した患者さんの5年生存率は20.6パーセント、全生存期間の中央値は約30カ月と良好だった。

以上が、肺がん、肝がん、乳がん、そして腎がんについて、今年のASCOで発表された最新の情報となる。可能性のある新たな治療法、とりわけ分子標的薬が次々に開発され、一定の成果を上げていることを改めて知る学会だった。


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