患者の関わり方や心がまえにより安全性や効果で違いが出る 外来化学療法 患者自己管理のチェックポイント

取材協力:相羽恵介 東京慈恵会医科大学病院腫瘍・血液内科教授
清水哲 国家公務員共済組合連合会三宿病院病院長
岩永智恵子 根津昌枝 同病院看護部
取材・文:黒木要
発行:2007年7月
更新:2013年4月

多い副作用とその対策

[情報の共有]

  • 治療を決めるのは患者と医師
  • どのような病態で、なぜこの治療を選択し、どのような予定で行うのか、エビデンスはあるのか、どのような説明をしているのか等々の情報
  • この情報を担当看護師、外科外来、担当薬剤師、薬剤部、臨床検査科、救急センター等が共有する
  • 患者さんに関わる全ての人が治療内容を理解して仕事に携わる

医師の説明とは別に看護師からは、患者さんが自宅で過ごす際の自己管理についての説明もある。主に予想される副作用とその対策についてである。これは薬剤師が担当することもある。

「私たちはつい必要なことを全部言ってしまおうとするのですが、患者さんとしてはいっぺんに詰め込まれると覚え切れないことも多いようです」

三宿病院の看護師の岩永智恵子さんは、患者さんの気持ちをこう代弁して、「お渡しするパンフレットにも要点を書いてありますので、後でそれを読んでいただいてもけっこうです」と言う。

パンフレットは難しくて理解できない、と投げてしまう人もいるようだが、あきらめずに後日外来へ行ったときに看護師に質問すべきだろう。

高齢などの理由で、医師や看護師の説明を理解するのに無理があるようであれば、聞き役として家族が同伴するのもよい手で、実際、そうする患者さんも少なくないという。

パンフレットを用意していない施設もあるので、以下、抗がん剤の代表的な副作用とその対策について紹介しておこう。

●口内炎

出現頻度は多いが、なるべくかからないようにする。それには口の中を清潔に保つことが大事だ。口の中が乾燥しやすい人は、舌苔という白い苔のようなものが舌に付着しがちだ。すると口の中が不潔になるので、水分を充分にとってなるべく舌苔ができないようにする。

うがいは、3食後と起床時、終身時というように、1日5回以上は行う。

歯磨きは毎食後に励行する。ただし血小板が減少していると出血しやすく、白血球が減少しているとちょっとした傷口から感染を引き起こす可能性があるので、歯茎を傷つけないようにナイロン性の柔らかい歯ブラシを使用する。

義歯には細菌が繁殖しやすく、口内炎の原因となりがちなので、朝夕は必ず義歯用歯ブラシで洗浄する。夜は消毒液に30分以上浸けた後、水でしっかりと洗浄する。

もし口内炎ができてしまったら、ひどくならないように、引き続き口の中を清潔する。義歯は食事のときのみに使用する。

食事に支障が出たり、痛みが強い場合には、治療が必要になる。

大腸がんの治療では手のしびれに注意

●吐き気、嘔吐、食欲不振

吐き気や嘔吐の予防法として、食事のとり方に関するものがある。化学療法を行うときは2~3時間以内には食べないようにする。当日の食事は少なめにして、ゆっくりと食べる。

甘いものや脂肪分の多いものはなるべく控える。食物の臭いが気になるときは、冷たい食物だと食が進むことがある。水分の多い果物、アイスクリーム、シャーベット、スポーツ飲料、清涼飲料水などだ。

ただし吐き気の感じ方、嘔吐の程度は人によってかなり異なる。かえって空腹のほうが、吐き気を感じる人もいる。また治療中食べられるものも人によって違うし、同じ人でも治療前に好きなものが治療後は食べづらくなったりする。そのような状況下で、吐き気・嘔吐の状態に合わせ、少しでも多く食べられる自分の方法を獲得できることが治療中の体力を維持するために大切である。

吐き気を催したら、横になって休む。その姿勢で体を曲げたほうが楽ならそうする。

吐いた後にすぐ水をとると、再度吐きやすくなるので、うがいだけにする。胃のあたりを氷嚢などで冷やすと気持ちよくなることもある。

●下痢

水様の下痢であれば軟便が2回ほど続いたら、医師や看護師にただちに連絡をする。下痢止めが出されることもある。下痢をしても、脱水症状にならないよう、水分は多めにとる。

●便秘

抗がん剤や吐き気止めの副作用のほか、運動不足などによっても起こるので、軽く体を動かしたり、水分を多めにとる。排便が2日以上ない場合は、医師や看護師に連絡をする。

●しびれ

「大腸がんの治療でFOLFOX4といういくつかの抗がん剤を組み合わせる療法があるのですが、この療法を続けると薬剤の蓄積によって手のしびれなどが出ることがあります」

三宿病院の看護師の根津さんは経験上からこう話す。しびれを感じたら、すみやかに医師に知らせる。

民間療法、サプリメントにも要注意

副作用は、これまでの治療歴、たとえば抗がん剤療法や放射線治療をどれだけ受けてきたかによっても左右される。

それと他の疾患(合併症)の状態、その治療薬として飲んでいる薬、使用している薬との相乗作用も注意を要する。

「乳がんなどによく使われるタキソール(一般名パクリタキセル)は溶剤のひまし油による過敏反応を抑えるためにステロイドを予防的に投与します。糖尿病の人ではステロイドにより血糖値が急激に上昇することもあります」

三宿病院の清水さんは言う。

「化学療法を受けているときの民間療法やサプリメントにも注意が必要です。セント・ジョーンズ・ワートやアガリクス等が肝機能障害を起こすことが知られていますが、民間療法やサプリメントを利用しながら化学療法を行ったときに現れた副作用の原因が、治療薬なのかサプリメントなのか鑑別しないといけません。また、サプリメントの効果を高めるためにこっそり薬の成分を混ぜることがあります。代表的な例として、ローヤルゼリーに女性ホルモンを含む場合がありますが、乳がんのホルモン療法を行っている人がそれを飲んだ場合は治療効果を悪くします。
民間療法を利用するな、とは言いませんが、利用している場合は主治医にはその旨を伝えておくべきですね。何か変調があればそのことを含めて可能性を探ることができますから」


同じカテゴリーの最新記事