がん患者が安心して上手に抗がん剤を使う個人輸入手引書

取材・文:松沢 実
発行:2004年8月
更新:2019年7月

混合診療で費用が高額になるのを避ける方法

個人輸入の未承認抗がん剤による治療を受ける際、心配な点もある。それは治療以外の検査費や入院費等の治療費全額も自費負担し、費用が高額になりかねないことだ。日本の保険制度の下では、保険が適用されない薬を使用するなどの保険外診療と、保険が適用される保険診療を同時に受けることはできない。

このような「混合診療」は法的に認められていないのだ。だから未承認抗がん剤の治療を受けた場合、病院から「すべての費用が患者の自己負担になります」と言われかねない。

しかし、先の今村さんは「そんな心配はありません」と断言する。

「混合診療を避けるには、未承認抗がん剤の治療を、入院中や受診中の病院やクリニックとは異なるところで受ければよいのです。もちろん、両者の医師同士の密接な連携が不可欠です。しかし、異なる病院・クリニックで未承認抗がん剤の治療を受ければ、その分のみを自費負担すればよいわけです。実際、私はそうしたやり方で行っています」

未承認のがん治療薬であるサリドマイドは、いまや多発性骨髄腫の治療にとって不可欠な薬だが、その使用においてはもう一歩踏み込んだことが行われている。同じ入院中・受診中の病院でサリドマイド治療を受けながら、サリドマイドの購入費のみが患者の自費負担で、ほかの治療費は保険を適用させているところがほとんどなのである。

「まして異なる病院やクリニックで未承認抗がん剤の治療を受けるのですから、入院中・受診中のところの費用まで保険の適用からはずされ、それを自費負担させられる謂われはないのです」(今村さん)

未承認抗がん剤の個人輸入は、驚くほど高額にのぼることが少なくない。世界標準の治療を受け続けるためには、未承認抗がん剤による治療費以外の費用を抑えるための知恵を働かせることが必要となってくる。

未承認抗がん剤個々の効果とその根拠などについては、次回から具体的に記していくつもりだ。


商 品 名 主な適応疾患 副 作 用 価   格
一 般 名 開発・製造・販売
エロキサチン 進行・再発大腸がん 呼吸困難、神経麻痺、倦怠感、嘔吐、下痢、白血球減少、血小板減少 5万3584円(50mg/1本)、
10万6971円(100mg/1本)
オキサリプラチン シスプラチンと同じ白金系抗がん剤。注意しなければならないことは、冷たい飲み物を飲んだり、クーラーからの冷気にあたったりすることをきっかけにアナフィラキシー様の副作用が投与数分後から起き、喉頭麻痺から呼吸困難に陥る患者もいること。 デビオファーム/
サノフィ・サンテラボ
アバスチン 進行・再発大腸がん 腹痛、血栓症、出血、腎不全、心不全 8万5212円(100mg/1本)、
34万0848円(400mg/1本)
ベバシズマブ 遺伝子組み換えヒト化モノクローナル抗体で、がん組織から分泌される血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とする分子標的治療薬。VEGFと結合することで、血管内皮細胞に発現する受容体(Fltー1)とVEGFとの結合を阻害し、がんの血管新生を防ぐ血管新生阻害剤。 ジェネンテック
エルビタックス 進行・再発大腸がん アナフィラキシー・ショック、皮膚のアレルギー 7万4520円(100mg/50ml/1本)
セツキシマブ モノクローナル抗体で、がん細胞の上皮増殖因子(EGFR)を標的とする分子標的治療薬。イレッサに続くEGFR阻害剤。 イムクローン
ドキシル 難治性卵巣がん   11万6532円(20mg/10ml/1本)、
29万1384円(50mg/25ml/1本)
ドキソルビシンリポソーマル アドリアマイシンに特殊な微粒子(リポソーム)を配置した抗がん剤。がん病巣におけるアドリアマイシンの血中濃度を約5倍に引き上げるので治療効果が高まると同時に、少量でも従来の治療効果が得られることから副作用の軽減が可能となる。 アルザ・ファーマスーティカルズ
オーソバイオテック
フェマーラ 乳がん ほてり、発汗、浮腫、高コレステロール血症、頭痛、関節痛、倦怠感、便秘、めまい 2万5019円(2.5mg/28個)
レトロゾール 新たなアロマターゼ阻害剤。乳がんの術後補助化学療法のホルモン剤で、閉経後の早期乳がんの患者の全身再発を防ぐ。 ノバルティスファーマ
エメンド がん化学療法による遅発性の悪心・嘔吐   6万7284円(80mg/5個)、
8万7696円(125mg/5個)
アプレピタント シスプラチン投与後に遅れて起きる遷延性の吐き気・嘔吐・悪心症状に有効な薬剤。これまでカイトリル等の5-HT3拮抗剤によって、抗がん剤治療に伴う吐き気、嘔吐、悪心等の消化器症状はかなり抑えられるようになったが、遷延性の消化器症状には不十分だった。エメンドは遷延性の消化器症状に関与する「サブスタンスP」と呼ぶ脳内の受容体を遮断して遷延性の消化器症状をしっかりと抑えてくれる。 メルク
アリムタ 悪性胸膜中皮腫  悪心、嘔吐、倦怠感、下痢、皮疹、痛み、白血球減少、血小板減少 28万0800円(500mg/1本)
ペメトレキセド 悪性胸膜中皮腫は抗がん剤の有効性が低いがんとして知られていたが、アリムタが開発されたことでアリムタ+シスプラチンの多剤併用療法で初めて優れた治療成績があげられるようになった。 イーライリリー
セレブレックス がんの再発予防、疼痛治療 胃炎や胃潰瘍等の消化器症状、頭痛 5713円(100mg/60個)、
5713円(200mg/30個)
セレコキシブ がんの発生や増殖、転移に深く関わっているCOX-2(酵素)の働きを妨げるCOX-2阻害剤。大腸がんや肺がんなどの再発や進行を抑える働きがたしかめられつつある。ほかに食道がんや胃がん、腎がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がんなどに対してもその有効性を確かめるための臨床試験が進行中。 サール/ファイザー
ベクストラ がんの再発予防、疼痛治療 胃炎や胃潰瘍等の消化器症状、頭痛 6895円(10mg/30個)、
8274円(20mg/30個)、
1182円(40mg/5個)
バルデコキシブ 胃腸など消化器に対する副作用の少ない第2世代COX-2阻害剤。がんの発生や増殖、転移に深く関わっているCOX-2(酵素)の働きを妨げ、がんの再発や進行を抑えるのに有効といわれる。 ファルマシア/ファイザー
テモダール 神経膠腫 悪心、嘔吐、便秘、下痢、白血球減少、血小板減少 4925円(5mg/5個)、
2万0291円(20mg/5個)、
10万2243円(100mg/5個)、
25万5509円(250mg/5個)
テモゾロマイド 経口薬で、外来通院が可能。分子量が194と小さいため血液脳関門を通過し、腫瘍へ確実に薬剤が到達する。手術や放射線治療後に再発した悪性グリオーマの患者の生存期間の延長に大きく寄与する。 シェリング・プラウ
BCNU 脳腫瘍、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫 肺線維症や無排卵、無精子を起こす可能性がある。腎毒性、白血球減少、血小板減少 1万7820円(100mg/1本)、
6万7965円(100mg/1バイル)
カルムスチン 欧米では脳腫瘍に対する第一選択の抗がん剤、標準的治療薬だ。日本や中国等ではBCNUの代わりに三共の開発したニドラン(ニムスチン)が使用されている。ニドランは欧米で発売されていないため、BCNUとニドランの無作為比較試験が行われたが中断。どちらが優れているかは不明だが、日本の脳腫瘍の専門医の中では治療効果は同等か、少しニドランのほうが優れているという感触を持つ医師が多い。 ブリストル・マイヤーズ・スクイブ
グリアーデル 脳腫瘍(神経膠腫) 肺線維症や無排卵、無精子を起こす可能性がある。腎毒性、白血球減少、血小板減少 204万9300円(7.7mgカルムスチン/8個)
カルムスチン・インプラント 手術で脳腫瘍を摘出した後の空間に埋めこむ抗がん剤。成分内容はBCNUで、BCNUを少しずつ周囲の組織に放出していく徐放剤だ。手術で取りきれなかった残存腫瘍を叩くのに有効。 グィルフォード・ファーマスーティカルズ
サラミド 多発性骨髄腫、がんの再発予防 四肢欠損(妊娠中の女性は服用厳禁、男性は避妊が必須)、眠気、末梢神経障害、発疹 1万4775円(50mg/28個)、
1万9306円(100mg/28個)
サリドマイド 抗がん剤による化学療法後、再発した難治性の多発性骨髄腫に有効で、いまや多発性骨髄腫の治療に欠かせない薬として認められている。現在、肺がんや大腸がん、前立腺がん、腎がん等の固形がんに対しても臨床試験が行われている。がんの血管新生の阻害やがん患者の免疫力の向上などに役立つと考えられている。 ペン・ファーマスーティカルズ
ベルケイド 多発性骨髄腫 吐き気、嘔吐、下痢、倦怠感、痺れ、四肢の痛み、頭痛、血小板減少 15万1200円(3.5mg/10ml/1本、
8バイル以上は1本14万3640円)
ボルテゾミブ 抗がん剤やサリドマイドを投与後、再発した多発性骨髄腫の患者に有効。奏効率は33~50%で、一部に著効例が見られた。分子標的治療薬で、初のプロテアソーム阻害剤として知られている。 ミレニアム・ファーマスーティカルズ
マイロターグ CD33陽性の急性骨髄性白血病 ショック、過敏反応、悪寒、発熱、白血球減少、血小板減少 30万7800円(5mg/20ml/1本)
ゲムツズマブ 急性骨髄性白血病の再発患者の約30%が再び完全寛解を果たし、完全寛解の継続期間が平均7.2カ月に達したという驚くべき治療効果が欧米の臨床試験で確かめられた。抗がん剤が効かなかったり、再発したときの治療薬としてきわめて有効。 ジェネテックス
キャンパス 慢性リンパ性白血病 発熱、震え、皮疹 68万0400円(30mg/3ml/3本)
アレムツズマブ 抗がん剤が効かなかったり、再発した慢性リンパ性白血病の患者に有効。遺伝子組み換えによってつくられた初のヒト・モノクローナル抗体で、マウスなどヒト以外のタンパクが含まれていないので副作用が少ない。 シェーリング、
ベルレックス
ロイスタチン 悪性リンパ腫、慢性リンパ性白血病 感染症の発症・増悪、神経毒性、免疫不全、白血球減少、血小板減少 9万4284円(1mg/10ml/1本)
クラドリビン 日本ですでに承認されているが、適応が低悪性度非ホジキンリンパ腫だけに限定されている。中・高悪性度非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病にも有効。 ヤンセンファーマ、
オーソバイオテック
トリセノックス 急性前骨髄球性白血病 色素沈着、剥離性の皮膚炎、末梢性神経炎、腎不全、白血球減少、血小板減少 47万5200円(10mg/10ml/10本、
4パック以上45万3600円)
アレスニック・トリオキサイド レチノイン酸(ビタミンA誘導体)による分化誘導療法が効かない急性前骨髄球性白血病の患者に有効。人体に有害な毒性を示すヒ素であることに変わりはなく、適量をきちんと守らなければならない。 セル・サラペウティクス
オンタック T細胞性悪性リンパ腫   17万2800円(150mcg/2ml/1本)、
103万6800円(150mcg/2ml/6本)
デニロイキンジフチトクス T細胞の受容体に結合する薬剤。T細胞性悪性リンパ腫の再発に有効。 リガンド・ファーマスーティカルズ
オンキャスパー 急性リンパ性白血病   18万9540円(750IU/ML、5ml)
PEG-Lアスパラギナーゼ 急性リンパ性白血病に有効なLアスパラギナーゼにポリエチレングリコール(PEG)を結合させ、アレルギーの発症を抑えると同時に、体内で長時間薬効を持続させるようにしたハイブリット酵素薬。急性リンパ性白血病の患者への頻回投与が可能になった。 アベンティスファーマ/
エンゾン・ファーマスーティカルズ
ターグレチン 皮膚T細胞性悪性リンパ腫 頭痛、高脂血症、紅斑、白血球減少 25万9200円(75mg/100個)、
17万0640円(1%/60g/1本)
ベクストロティン T細胞のレチノイドXレセプターに結合する薬剤。軟膏と経口薬の2種類がある。 ライガンド・ファーマスーティカルズ

(価格はRHCのもので、1ドル=108円、1ポンド=197円で換算。為替の変動で変わるため、正確な価格は改めてRHCに問い合わせる必要がある)


1 2

同じカテゴリーの最新記事