進行・再発大腸がんの第一選択の治療薬が使えないのはなぜ? 安易に使わず、専門の腫瘍内科医の指導と管理の下に利用しよう

取材・文:松沢 実
発行:2004年9月
更新:2014年1月

薬が効かなくなった難治性の多発性骨髄腫に効く

増田道彦さん

東京女子医大病院血液内科講師の増田道彦さん

再発を繰り返す多発性骨髄腫の世界標準治療薬ベルケイド(ボルテゾミブ)も個人輸入される代表的未承認抗がん剤の1つだ。

「昨年5月にアメリカで承認され、従来のステロイドやMP療法(メルファラン+プレドニゾロン)、VAD療法(ビンクリスチン+ドキソルビシン+デキサメタゾン)、造血幹細胞移植、サリドマイドなどが効かない難治性の多発性骨髄腫の標準治療薬として認められています」

と東京女子医大病院血液内科講師の増田道彦さんは言う。

難治性の多発性骨髄腫の患者を対象にした欧米の臨床試験では、ベルケイドの効果は、奏効率が35パーセント。そのうちほぼ完全寛解が6パーセント、完全寛解が4パーセント。病状の安定化にもよく、24パーセントに認められた。

ベルケー

難治性の多発性骨髄腫の標準治療薬、ベルケイド

「ベルケイドは難治性の多発性骨髄腫に有効で、病状を安定化させることができます。サリドマイドが効かなくなった患者にも有効で、患者にとって大きな希望です」(増田さん)

今年のASCOでは、難治性の多発性骨髄腫患者669人を対象にした臨床試験でベルケイドの有用性を示す中間報告が発表された。再発までの生存期間が長く、対照群よりもベルケイドのほうが約6割も延長させることができたという。

「ベルケイドの副作用は、吐き気や倦怠感、下痢、便秘、頭痛、食欲減退、発熱、痺れ、ときに手足の痛みなどが報告されています。血小板や赤血球の減少なども要注意なので、1~2週間に1回の定期的な血液検査は不可欠といえます」(増田さん)

多種多様ながんに幅広い活用が期待される

ドキシル

難事性の卵巣がんの治療薬、ドキシル

未承認抗がん剤の中でもっとも幅広く活用できるのではないかと期待されているのがドキシル(一般名リポゾーマルドキソルビシン)だ。アメリカではすでに5年前の1999年に再発卵巣がんの治療薬として認められ、現在は乳がんでも承認されている。

「ドキシルは、多種多様ながんに幅広く活用されているアントラサイクリン系抗がん剤のアドリアシン(一般名ドキソルビシン)をリポソームにくるんで封入した抗がん剤です」

と指摘するのは先の千葉健生病院の今村さんだ。がん細胞のみがドキシルと結合し���外皮のリポソームを分解し、中のアドリアシンを放出させるという仕組みの新たなDDS製剤(薬物送達システム製剤)である。がん病巣に集中するため、その血中濃度は約5倍に上がるというデータも報告されている。

一方、正常細胞への副作用は軽減され、アドリアシンの泣きどころである心毒性は弱まる。

「事実、アドリアシンでは脱毛は必須でしたが、ドキシルではほとんど生じません。ドキシルは投与量を減らしても、アドリアシンより治療効果が高いのです」(今村さん)

現在、ドキシルはHER2過剰発現を有する転移性乳がんの治療において、大きな期待が寄せられている。HER2過剰の転移性乳がんでは、分子標的治療薬のハーセプチンと抗がん剤の併用療法が効果を発揮している。その抗がん剤には当初タキソール(一般名パクリタキセル)と、AC療法(アドリアシン+エンドキサン)が候補に上っていたが、臨床試験後AC療法のほうは禁止された。

なぜなら、AC療法のアドリアシンには心毒性があり、これがハーセプチンの増感作用によってさらに強まれば、患者に死を招きかねないからだ。

「しかし、そのネックを突き破ると期待されているのがドキシルです。アドリアシンをドキシルに代えれば生存期間の延長がはかれると考えられ、現在、その臨床試験が進められています」(今村さん)

アドリアシンは数多くのがん治療に用いられているから、心毒性等の副作用を最小限に抑えられるならドキシルは非常に有望な薬となる。

[iRXでの個人輸入抗がん剤のベスト5]

順位 商品名 一般名
1 エロキサチン オキサリプラチン
2 グリベック イマチニブ
3 リツキサン リツキシマブ
4 ベルケイド ボルテミゾブ
5 テモダール テモゾロマイド
[ボストントレーダーズでの個人輸入抗がん剤ベスト5]

順位 商品名 一般名
1 セレブレックス セレコキシブ
2 エロキサチン オキサリプラチン
3 アバスチン ベバシズマブ
4 ベルケイド ボルテミゾブ
5 テモダール テモゾロマイド

今回、とりあげた4種類の抗がん剤は、海外の臨床試験でしっかりとしたエビデンス(根拠)を有しているものばかりだ。その薬が、日本ではしばしば未承認のまま放置されている。

「患者と家族にとっては、海外だろうと国内だろうと効果のある抗がん剤さえあれば、入手して使おうという気持ちが起こるのは当然でしょう。私たちの病院でも、エロキサチンは20人、テモダールは10人、ベルケイドは10人、ドキシルは5人の患者さんが個人輸入しています」(今村さん)

他にも、アバスチンは15人、エルビタックスが10人、アリムタが5人の患者が個人輸入している。日本に未承認抗がん剤がなくならない限り、このような世界標準のがん治療薬の個人輸入は増えこそすれ、減ることはないだろう。


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