経腸栄養剤による栄養管理で副作用は軽減!? 強力な化学療法をサポートする経腸栄養剤の力

監修:宮田博志 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学助教
取材・文:増山育子
発行:2012年6月
更新:2019年7月

経腸栄養剤で血液毒性が軽減された

この結果を受けて、さらに2007年からは術前化学療法において経腸栄養剤を摂ることで副作用が抑制するのかどうかを確かめる試験が大阪大学病院、近畿大学病院、大阪府立成人病センターで進められた。

今度は「経腸栄養剤を飲む(経腸栄養群)」47名と「点滴で栄養を摂る(静脈栄養群)」44名との比較である。経腸栄養群では抗がん剤投与前3日間、投与中7日間、投与後7日間の合計17日間にわたって1日600mlの経腸栄養剤(ラコール)を飲む。吐き気が強くて飲めない場合は鼻から胃にカテーテルを挿入して注入する。一方、静脈栄養群では経腸栄養剤の代わりに、同じカロリーの点滴栄養を行い、両群の間での抗がん剤の副作用発現率を比較した。

[図4 経腸栄養群と中心静脈栄養群の副作用比較]
図4 経腸栄養群と中心静脈栄養群の副作用比較

*Mann-WhitneyのU検定

すると、深刻な白血球減少の出現率は経腸栄養群17%に対し静脈栄養群40.9%、好中球減少が経腸栄養群36.2%に対し静脈栄養群65.9%と、やはり血液毒性で差が出る結果になった。血小板減少、リンパ球減少はぎりぎりで有意差がないものの、経腸栄養のほうが少ない傾向があり、それ以外の悪心・嘔吐、下痢、口内炎に関してはあまり差がなかった。

「2つの試験から、食道がんの化学療法や化学放射線療法を行うときに経腸栄養剤(ラコール)を摂取すると血液毒性が軽減されることがわかりました。血液毒性を抑えられれば化学療法の完遂が期待できます。これは強い抗がん剤を使っていくという流れのなかで非常に有効ではないでしょうか」(図4)

経腸栄養がいいのか、栄養剤の成分がいいのか

[図5 オメガ3系脂肪酸の効果]
図5 オメガ3系脂肪酸の効果

ラコールという経腸栄養剤で血液毒性が抑制されることが実証されたわけだが、さらに研究を進める必要があると宮田さんは慎重だ。

「経腸栄養剤としてバランスよく、腸を使って栄養を摂ることがいいのか、それとも経腸栄養剤に入っている成分がいいのか、2つの可能性が考えられます」

食事ができている人とできていない人との副作用の出方をくらべると、食事ができていない人のほうが副作用が出やすいことが先の臨床試験でわかっている。また、宮田さんの経験では手術後に縫合不全や肺炎などが起こってきたら、静脈栄養よりも経腸栄養を使って栄養管理をしたほうが、治りが早いという実感がある。

欧米のガイドラインでも手術前後の栄養療法は静脈栄養よりも経腸栄養のほうが望ましいとされていることから、腸を使うこと自体がいいように思われる。とはいえ、なぜ腸を使うことがいいのか明確になっていない。

一方、ラコールの成分が効力を発揮しているとしたら、ラコールに含まれるオメガ3系という脂肪酸によるものと考えられている。

オメガ3系脂肪酸は青魚に含まれる特殊な脂質で、炎症を抑える作用や免疫機能を活性化させる作用、腸管粘膜を保護する作用が知られているほか、抗がん剤の抗腫瘍効果そのものを上げるとする論文もある(図5)。

その点をはっきりさせるためには、同じ経腸栄養剤でオメガ3系脂肪酸が入っているものと入っていないものを比べなくてはならない。さらなる臨床試験が待たれる。

治療を続ける意味でも大切な栄養サポート

[図6 胃ろうのメカニズム]
図6 胃ろうのメカニズム

治療が長びく場合、胃ろうを造設し、栄養サポートを行う

食道がんの抗がん剤治療で経腸栄養による副作用軽減の報告は宮田さんらのほかに類がない。

これまで臨床試験でのデータがなかったため、栄養サポートの必要性が認識されにくいのだが、宮田さんは「栄養サポートによって抗がん剤の効果を保ったまま副作用を抑えることを目指せるようになった」と強調する。

栄養サポートにはPペグEG(経皮内視鏡的胃ろう造設術)という、内視鏡を使って腹壁と胃に小さな口を作り、チューブを入れ栄養剤を注ぎ込む方法もある。治療が1カ月半~2カ月程度に及ぶ化学放射線療法時のように、食べられない期間が長引く場合はこの方法も有効だ(図6)。

「栄養療法を実施するメリットは単に栄養補給だけではなく、化学療法の副作用や手術の合併症を軽減させて治療をうまく乗り切ることにあります。治療効果を上げるために、栄養状態を改善することが大事だと、患者さんにもご理解いただきたいです」


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