Ⅳ期でも治癒の可能性が3割も! 切除不能非小細胞肺がんの最新治療

監修●高橋和久 順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学主任教授/順天堂大学附属順天堂医院院長
取材・文●菊池亜希子
発行:2023年4月
更新:2023年4月


遺伝子変異があったら免疫チェックポイント阻害薬は使えない?

遺伝子変異が見つかると優先的に分子標的薬に進みますが、分子標的薬は遅かれ早かれ必ず耐性(効果が現れなくなる)が訪れます。ならば、たとえ遺伝子変異が陽性でも免疫チェックポイント阻害薬へ進むという選択肢はないのでしょうか。

「免疫チェックポイント阻害薬は、免疫システムにかけられたブレーキを解除することで免疫力を引き出す治療法なので、がん抗原の量と種類が多い人に効果が期待できる薬です。対して、遺伝子変異が陽性の患者さんは、その遺伝子にのみ変異があるので、がん抗原の量も種類も少なく、免疫チェックポイント阻害薬が効きづらい。つまり、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬では、効果が出る集団が異なるのです」と高橋さんは説明します。

まず、分子標的薬に効果が現れやすい人が確実に分子標的薬の恩恵を得られるようにすることが重要。そのうえで、分子標的薬が効かない人を免疫チェックポイント阻害薬へ誘導するという治療体系になっているのです。

分子標的薬の耐性後に朗報!

遺伝子変異陽性の方に免疫チェックポイント阻害薬の効果が出にくいことは理解しましたが、最近、新しい事実がわかってきたそうです。

「2018年に『テセントリク(一般名アテゾリズマブ)+カルボプラチン+パクリタキセル+アバスチン(同ベバシズマブ)併用療法がカルボプラチン+パクリタキセル+アバスチン併用に比べて全生存期間を延長する』と発表した『IMpower150試験』がありました。抗PD-L1抗体テセントリク追加による効果を証明した試験ですが、実はこの治験にはEGFR遺伝子変異陽性の患者さんも2割ほど参加しており、その人たちにも効果が認められていたのです」

当時は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬で効果が現れる集団が違うことがまだ突き止められておらず、「IMpower150試験」には遺伝子変異陽性の人も含まれていたのです。それが功を奏したと言えるでしょう。

「IMpower150レジメンのポイントは、血管新生阻害薬のアバスチンだと思います。血管新生阻害薬は免疫療法の効果を高めることがわかっていて、それが遺伝子変異陽性の方にも何かしらプラスに働いたと考えられます」と高橋さんは指摘します。

ここ数年でも、いくつかの免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬の併用療法が承認されています。ただ、分子標的薬と免疫チェックポイ���ト阻害薬の効果集団が異なることが明白になって以降は、遺伝子変異陽性患者は免疫療法の治験対象から除外されてしまい、結果として適応外になっているというのです。

「2021年に承認された抗PD-1抗体オプジーボ(一般名ニボルマブ)+カルボプラチン+パクリタキセル+アバスチン併用療法もそろそろ臨床データが出てくるころで期待していますが、これも遺伝子変異陽性の方は適応外なので、分子標的薬耐性の方には使えません。昨年(2022年)末に承認されたばかりのPOSEIDONレジメンも同様です。これは抗PD-L1抗体イミフィンジ(同デュルバルマブ)+抗CTLA-4抗体イジュド(同トレメリムマブ)+プラチナ製剤を併用したレジメンで、非常に期待されています。ですが、やはり分子標的薬耐性の方への効果は明らかではありません」

現状、分子標的薬耐性の二次治療は細胞障害性抗がん薬が主流です。ただし、唯一の免疫療法として、IMpower150レジメンのテセントリク+カルボプラチン+パクリタキセル+アバスチンの併用療法が使えるということになります。

タグリッソ耐性に対する治療法開発を目指し

「いま、切除不能の非小細胞肺がん薬物療法におけるいちばんの課題は、タグリッソ耐性に対する二次治療です」と高橋さんは強調します。

遺伝子変異陽性のおよそ半分を占めるEGFR遺伝子変異。その一次治療は現在、ほとんどがタグリッソです。タグリッソが耐性になる期間は人によりますが、およそ18~19カ月ほど。その後は化学療法しかないのが現状です。

「私たちはタグリッソ耐性後の治療開発に最も力を入れています。当院で医師主導第Ⅱ相試験をしているのが、タグリッソ耐性に対するキイトルーダ+カルボプラチン+アムリタ(同ペメトレキセド)+血管新生阻害薬レンビマ(同レンバチニブ)の4剤併用療法。アバスチンより効果の高いレンビマとキイトルーダの掛け合わせが、タグリッソ耐性に効果を現すのではないかと期待しています」

肺がんのおよそ半分を占める腺がんの約50%に発現するEGFR遺伝子変異。その一次治療がタグリッソなので、タグリッソ耐性後の治療法開発は、現在、最重要課題であることは間違いありません。

「現在、第Ⅱ相ではありますが、レンビマは肝がんなど他のがん種ではすでに承認済なので、適応追加という形をとります。タグリッソ耐性後の患者さんに有効であるというデータをしっかり出せれば、第Ⅲ相を経なくても、早期での追加承認の可能性があると思っています」

タグリッソ耐性の患者さんに、早く有効な治療法が確立されることを願います。

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