SONIA試験の結果でもCDK4/6阻害薬はやはり1次治療から ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がん
「CDK4/6阻害薬を2次治療で使う」とならないのは?
今後、CDK4/6阻害薬を1次治療で併用した際の2次治療が、フェソロデックス単剤とはならなくなってくる可能性があるからです。
現在、CDK4/6阻害薬の治療歴のある患者さんを対象として、2次治療以降での新規治療の開発が活発に行われています。こうした新規治療が2次治療で導入されてくると、CDK4/6阻害薬を1次治療で併用した際のPFS2がおそらくSONIA試験のデータより伸びると思われます。そういったことを考慮するとSONIA試験のデータで、全例で「1次治療でCDK4/6阻害薬を使わずに、2次治療で使いましょう」と必ずしもならないと思います。
CDK4/6阻害薬を使うタイミングについての議論は、発売当初からずっとありました。できるだけ使える薬を温存し、1次治療はホルモン療法薬だけで引っ張り、効かなくなったときにCDK4/6阻害薬を2次治療で使うという考え方もあります。ですから、これまでのCDK4/6阻害薬使用方法の考え方の違いで、SONIA試験のとらえ方も少し違ってくるとは思います。
一般的には、再発治療薬は、治療が進むにつれて効果がだんだん短くなってきます。ですから、個人的な意見としては、一番よく効くタイミングで、一番よく効く治療薬を使うことが、最終的に生存率の延長につながるのではないかと期待しています。
1次治療でホルモン療法薬単独でうまくいく患者さんはいると思うのですが、その見極めが正確にできない現在の状況では、少なくとも「1次治療で最も治療効果がある治療法を選択肢として提示すべき」と考えます。もちろん、副作用や治療費とのバランスも重要です。
1次治療からCDK4/6阻害薬を使うと、次の治療が心配です
それについては、あまり心配する必要がないと思います。というのは、現在、新規治療の開発が活発に行われているからです。
1次治療にアロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬を併用し、2次治療でフェソロデックス単独で治療を行う場合の問題のひとつは、治療抵抗性が出てきているとき、エストロゲン受容体などに変異が生じている可能性が高く、フェソロデックス単独では治療効果が期待しにくいという点です。
こうした状況でフェソロデックスと併用することで治療効果を向上できる薬剤の開発が進められており、その1つが*AKT阻害薬のカピバセルチブ(Capivasertib:一般名)という分子標的薬です。ホルモン療法中もしくは治療後(CDK4/6阻害薬併用の有無を問わない)に再発したER陽性HER2陰性の患者さんを対象��した第Ⅲ相臨床試験「CAPItello-291」の結果が報告されました。
それは、「カピバセルチブ+フェソロデックス併用療法が、プラゼボ+フェソロデックスと比較して有意に無増悪生存期間(PFS)の延長を示した」というものです。PFS中央値は併用療法7.2カ月 vs. プラセボ3.6カ月で、増悪または死亡のリスクを40%も低下させました。
この他にも新規ホルモン療法薬の開発も進められており、そのうちの1つであるエラセストラント(Elacestrant:一般名)は、2-3次治療でフェソロデックスなどの既存のホルモン療法薬と比較して無増悪生存期間(PFS)を延長することが示されています。さらに、HER2低発現のホルモン陽性HER2陰性転移・再発乳がんではADCのエンハーツ(一般名トラスツズマブ デルクステカン)も保険で使用できるようになりました。
つまり、1次治療においてCDK4/6阻害薬との併用療法を選択すると、かなり長い期間、治療が継続できるわけですが、もし治療効果が得られなくなっても、さらにこうした新規の治療が受けられる可能性が高まっているということです(表4)。

*AKT阻害薬=セリン/スレオニンキナーゼを選択的に阻害する経口薬。AKTは細胞増殖やアポトーシスに密接に関連している
SONIA試験でガイドラインは? 患者が治療法を希望することはできますか?
今回のSONIA試験の結果が『乳癌診療ガイドライン』のどこかに追記されることは間違いないと思いますが、それにより推奨が変わることはないと思います。閉経後の1次治療として、ホルモン療法単独もCDK4/6阻害薬との併用療法もすでに書かれています。
患者さんが治療法を選べるかという質問ですが、もちろんです。いわゆるシェアード・ディシジョン・メイキング(共同意思決定)ですね。医師と患者さんが個人的・社会的情報なども共有したうえで、治療方針を話し合い、治療法などを一緒に決定することを意味します。CDK4/6阻害薬を使うことに懸念がある、体の状態がよくない方には薦めにくいところがありますが、そうでなければ選択肢をテーブルに広げ、それぞれのいい点、悪い点のデータをなども示した上で、「今のあなたの状態ではこちらを使ったほうがいいと思いますよ」と、専門家として後押しはします。
さまざまな臨床試験が行われ、結果が出てくるのは大事なことです。しかし、その試験がどんな状況で行われたか、批判的に吟味したうえで、結果を実臨床にどう当てはめていくか考えることが、私たち医師にとっては重要です。そして、その情報を患者さんと共有して、少しでも長く元気で過ごしていただけるよう治療法を検討することが必要だと思います。
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