新薬や免疫チェックポイント阻害薬も1次治療から 胃がんと診断されたらまずMSI検査を!

監修●室 圭 愛知県がんセンター副院長/薬物療法部部長
取材・文●菊池亜希子
発行:2024年2月
更新:2024年2月


FLOT療法は日本では承認されていない?

「日本も参加したグローバル試験であるMATTERHORN試験では、化学療法としてFLOT療法が採用されたことも大きい」と室さんは指摘します。

FLOT療法は、フルオロウラシル、オキサリプラチン、ドセタキセルという抗がん薬3剤(トリプレット)と葉酸製剤ロイコボリンの併用療法で、日本では承認されていませんが、欧米の胃がん周術期の標準治療です。

「現在の日本の標準治療であるダブレットの術後化学療法と比べて、決して楽な治療とは言えませんが、本試験を行った意義は極めて大きいと考えます。オキサリプラチンが毒性の強いシスプラチンなどに比べると患者さんの体に優しい治療法と言えるでしょうし、もし本試験がポジティブとなれば、今まで相容れなかった日本と欧米の周術期治療が、1つの標準治療として統一される可能性が出てくるからです」と室さんは指摘し、さらに続けました。

「臨床試験では、化学療法としてXP療法(カペシタビン+シスプラチン)やFP療法(5-FU+シスプラチン)が採用されることがあります(「第Ⅲ相KEYNOTE 585試験」など)。しかし、毒性の強いXPやFPは現在、実地臨床ではあまり使われないため、たとえ良い結果が出ても臨床に生かし切れないというジレンマが起きかねませんでした。その点、MATTERHORN試験でFLOT療法が採用されたことは喜ばしく、今後、MATTERHORN試験がポジティブとなり承認されたら、日本でもFLOT療法が普及することを期待しています」(室さん)

クローディン(Claudin18.2)を標的とした分子標的薬とは?

ここまでは、胃がんの薬物療法に1次治療からICI療法が標準治療になる可能性を見てきましたが、新しい分子標的薬に関する重要な試験結果もESMO 2023では報告されました。

がん細胞の増殖、分化、移動に関与するタンパク質であるクローディン(Claudin18.2)を標的とする抗Claudin18.2モノクローナル抗体ゾルベツキシマブ(一般名)の有効性を示した「第Ⅲ相SPOTLIGHT試験」のアップデート結果です。

Claudin18.2陽性HER2陰性の切除不能の局所進行または転移性胃腺がん、食道胃接合部腺がんの1次治療として、ゾルベツキシマブ+mFOLFOX6併用療法群とプラセボ+mFOLFOX6群を比較したSPOTLIGHT試験の観察期間を延長したところ、無増悪生存期間(PFS)がゾルベツキシマブ群17.87カ月 vs. プラセボ群15.18カ月、全生��期間(OS)がゾルベツキシマブ群31.11カ月 vs. プラセボ群29.57カ月。24カ月PFS率がゾルベツキシマブ群28% vs. プラセボ群14%、24カ月OS率がゾルベツキシマブ群38% vs. プラセボ群29%。完全奏効(pCR)率がゾルベツキシマブ群6.2% vs. プラセボ群4.3%と、ゾルベツキシマブ群の有効性が、すでに報告済みである主解析同様に明白に示されました(図3)。

ゾルベツキシマブはすでに承認申請中で、今年中には承認される見込みです。つまり、胃がんにおいては、MSI-H、HER2、CPSに加えて、今後はClaudin18.2も1次治療開始前に検査してから、これらバイオマーカーに基づいた治療法を選択できることになります。

「Claudin18.2陽性は切除不能胃がんの38%に見られるので、ゾルベツキシマブの承認は胃がん薬物療法が変わると言えるほど大きなことです」と室さんは述べます。ただ、胃がんのバイオマーカー診断はすべて免疫染色による検査のため、病理診断の同一性、手間、時間、検体の量などが課題になります。

「ゾルベツキシマブが使えるのはClaudin18.2陽性・HER2陰性の場合です。HER2陽性の場合、ゾルベツキシマブは使えず、ハーセプチンになります。かといって、HER2検査で陰性を確認してからClaudin18.2やCPS検査を行っていたら1カ月近くかかってしまい、機会損失になりかねない。そこで手順を決めて短期間で検査する方法を構築する必要があります。現在、何らかの手順の指針やガイダンス等の作成を胃癌学会内で議論しているところです」(室さん)

今後の胃がんの薬物療法は、1次治療からICIの併用療法がメインになっていく流れもありつつ、新たな分子標的薬も登場間近です。そのために、やはり1次治療前での遺伝子検査、バイオマーカー検査が必須。室さんは次のように強調して、話を締めました。

「胃がんと診断されたら、これはまだ実地臨床では根付いてはおりませんが、ステージによらずまずMSI検査を行うことが重要と考えます。そして、薬物治療(1次治療)を行う前には、コンパニオン診断であるHER2検査、Claudin18.2検査を必ず行うこと、そして、可能な限りCPS検査を行い、どの薬剤に効果が期待できるのか、胃がんのタイプをしっかり把握してから薬物治療を始めるべきだと思います。このことは、医療者はもちろんですが、患者さんもぜひ知っておいて欲しいと思います」

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