ASCO2012レポート 経口抗がん剤の効果など日本発の臨床試験データが注目を集めた「肺がん/大腸がん/胃がん」の化学療法に関する最新情報

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2012年8月
更新:2020年3月

UFTなど経口剤による大腸がんの術後化学療法

臨床試験データが発表されるたびプレゼンテーション会場内は熱気に包まれた

臨床試験データが発表されるたびプレゼンテーション会場内は熱気に包まれた

大腸がんの術後化学療法でも、経口剤の研究が報告されています。ステージ3の大腸がんを対象に、点滴で静脈に投与する標準治療の〈5-FU()+ロイコボリン()療法〉と、経口投与する〈UFT()+ロイコボリン療法〉の効果を比較する「JCOG0205」という臨床試験の結果が報告されていました。

5-FUとUFTは同系統の抗がん剤で、UFTは5-FUの効果を高めるために開発された経口剤です。つまり、この臨床試験は、同じ作用を持つ注射剤と経口剤の効果を比較する試験でもあります。

この「JCOG0205試験」が注目されたのは、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)が実施した研究であり、患者数1101人と、大腸がん術後補助化学療法では日本最大規模の臨床試験だったからです。

5-FU=一般名フルオロウラシル
ロイコボリン=一般名ホリナートカルシウム
UFT=一般名テガフール・ウラシル

標準治療に劣らない経口剤の効果を証明

それぞれの群の治療内容は、次のようになっていました。

まず〈UFT+ロイコボリン群=以下UFT群〉は、UFTとロイコボリンを、4週連日服用後1週休薬の5週を1コースとし、これを5コース行いました。

一方の〈5-FU+ロイコボリン群=以下5-FU群〉は、5-FUとロイコボリンを毎週1回点滴注射し、これを6週続け、2週休薬1コースとし、これを3コース行いました。

この試験では、無病生存率(再発しないで生存している割合)が主に比較されています。3年無病生存率は、経口剤の〈UFT群〉が77.8%、注射剤の〈5-FU群〉が79.3%。〈UFT群〉が標準治療の〈5-FU群〉に対して、統計学的に劣っていないことが証明されました。

5年全生存率で比較しても、〈UFT群〉が87.5%、〈5-FU群〉が88.4%で、両治療群で差はありません。

副作用を比較してみると、グレード3~4(比較的重症)の好中球減少では、〈UFT群〉が1.5%の発現率であるのに対し、〈5-FU群〉では8.4%と高くなっていました。逆に、肝障害の指標であるALTは、〈UFT群〉の8.7%に対し、〈5-FU群〉は0.7%でした。

また、食欲不振、下痢、吐き気などの症状は、両群とも同程度の発現率でした。5-FU系抗がん剤では下痢が問題になることが多いのですが、〈5-FU群〉が9.6%、〈UFT群〉が8.5%で、共に��率でした。

ここに紹介したような臨床試験データを踏まえ、この研究報告は、「UFT+ロイコボリンの経口療法は、ステージ3大腸がんの術後化学療法における治療オプションの1つとすべきである」と結論づけています。

経口剤でも効果に差がないのなら、注射剤より経口剤のほうがいいという患者さんは少なくないでしょう。

欧米の研究データに比べ5年生存率の高さが特徴

もう1つ、この研究で注目されたのは、5年生存率の高さでした。アメリカでも、大腸がんの術後補助化学療法における経口剤と静注剤を比較した「NSABP C-06」という臨床試験が行われています。

やはり経口剤による治療が劣っていないことが証明されたのですが、5年生存率は69.6%で、「JCOG0205」の87.5%と大きな開きがあったのです。これは、どうやら日本と欧米における手術手技の違いなどが原因と考えていいようです。

現在、欧米では大腸がんの術後補助化学療法として、FOLFOX療法()やXELOX療法()が標準治療となっています。日本でも、海外の臨床試験データをもとに、そうすべきとの意見もあります。しかし、手術手技の違いや経口抗がん剤で高い5年生存率が得られるのであれば、日本でもFOLFOX療法やXELOX療法が本当に必要なのか、改めて議論していく必要があるのかもしれません。

FOLFOX療法=5-FU、ロイコボリン、エルプラットの併用療法
XELOX療法=ゼローダ、エルプラットの併用療法

胃がんの2次治療で比較試験が行われた

6月1日~5日の開催期間中、世界各国から大勢の医療関係者が集まった

6月1日~5日の開催期間中、世界各国から大勢の医療関係者が集まった

進行胃がんに対する2次治療を検討したWJOG(西日本がん研究機構)の臨床試験「WJOG4007」の報告も注目を集めていました。フッ化ピリミジン系抗がん剤()とプラチナ製剤による初回薬物療法を行った後に再発した進行胃がんを対象とする、2次治療を検討した比較試験です。

胃がんの2次治療に関しては、これまで海外で2つの臨床試験が行われていて、イリノテカン()、タキソテールが、それぞれBSC()と比較して生存期間を延ばすことが確認されています。

今回の臨床試験では、日本でよく行われているタキソール()の毎週投与に対し、イリノテカンが優越性を示せるかどうかが検証されました。その結果、生存期間の中央値は、イリノテカン群が8.4カ月、タキソール群が9.5カ月で、イリノテカンの優越性は示されませんでした。

主な副作用を比べてみると、好中球減少(イリノテカン群39.1%対タキソール群28.7%)、貧血(30.0% 対21.3%)、食欲不振(17.3 % 対7.4%)、疲労(12.7%対6.5%)でした。

このような結果から、日本における進行胃がんの2次治療は、タキソールの毎週投与が暫定的な標準治療と考えてよいようです。

フッ化ピリミジン系抗がん剤=TS-1、5-FUなど
イリノテカン=商品名トポテシン/カンプト
BSC=ベスト・サポーティブ・ケア(通常、無治療)
タキソール=商品名パクリタキセル


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