手術や抗がん薬投与前からの漢方薬服用も有効
ホルモン療法に伴う冷えは附子末で克服

表2 合併症に対し最終的に使用した方剤一覧
症例別に見る。乳がんでは、温存療法に伴って抗がん薬やホルモン薬を使うケースが増えたことから、合併症、とくに更年期障害のような症状に悩まされる患者さんが増加した。林さんが漢方外来を受診した乳がん患者86例(平均49.8歳)を分析したところ、複数回答でホットフラッシュ・発汗を感じたのは87.2%、冷え性が39.5%、精神症状36.0%、全身倦怠感15.1%だった(表1)。
「熱いと訴えるのですが、実際は冷えているのです。免疫のためにも冷えはよくありません。汗が出てたまらないのですが、漢方薬で改善します。男性にもみられますが、訴えてくる方はとても少ないですね」
処方は、気の巡りをよくする補剤の牛車腎気丸などを中心に組み合わせる。
「附子末が効きます。体が温まり、水も吸い出してくれるのでむくみが取れます。血の淀みを取る薬を加えることで治る環境は整います」
表2のような漢方薬(方剤)を使用した結果(多くの場合、2~3剤併用)、無効例はなく、50%以上の改善度は75例(87.2%)だった。
次に、抗がん薬と放射線治療を併用した場合の皮膚のびらんや激痛への
患者さん5例が対象で、*5-FU+*シスプラチンが4例、*TS-1が1例、平均照射線量は65.2グレイ(Gy)だった。いずれもびらんと皮膚痛があったが、ステロイドでは鎮痛効果を示さなかった。紫雲膏を毎日の照射終了後に塗った。
結果は5例ともに80%以上の疼痛症状の改善度が認められ、速い例では2時間で効果が現れた。70歳代の女性では、48Gy終了時に皮膚症状の悪化で6日間放射線治療の中止を余儀なくされた。再開後に皮膚症状が再燃してしまった。ステロイドでは対処できなかったが、52Gy照射日から紫雲膏を開始したところ、鎮痛効果が現れ、70Gyの照射をやり遂げることができた上に、皮膚のびらんも良好に治癒した。
紫雲膏はさらに分子標的薬による手足症候群にも有効とみられ、林さんらが*アービタックス、*アバスチン、*イレッサなど6例で検証したところ、80%以上の改善が3例、50%以上が3例だった(図3)。紫雲膏が手足症候群にも有用と結論した。

*5-FU=一般名フルオロウラシル *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *アービタックス=一般名セツキシマブ *アバスチン=一般名ベバシズマブ *イレッサ=一般名ゲフィチニブ
気と血の巡りを良くするのが漢方薬の基本
漢方薬について、林さんにまとめてもらった。
「補剤としては、牛車腎気丸、
手術や抗がん薬投与の前からの服用が有効だという。
「治療前から漢方をやっていたほうがいいと思います。院内の各科にも告知しています。予防の評価は難しいのですが、合併症を抑えられているか、軽くなっているという印象があります。手術後の傷の治りがいいということもあります」
患者家族にも漢方による治療を勧めたい
林さんに漢方治療の課題を聞いた。
「他施設からの受診希望者の受け入れがあります。患者さんが希望しても、主治医が漢方を嫌いなことがあります。その場合は紹介状を書いてくれないので、漢方にかかることを〝了承〟するだけでもいいことにしています」
しかし、トラブルのリスクは残るという。漢方で症状が良くなって、一緒に喜んでくれる医師ならいいのだが、それが気に入らない医師もいるのだ。
「患者さんが本流で治療できなくなると困ります。治療を邪魔する気はまったくありません。誤解を解いていかなければ」
最後に漢方サポートセンターの将来について、林さんは「患者さんの家族のケアまで手を広げたいと思っています。患者さん本人が漢方嫌いでも、家族と一緒なら自然に来てもらえるかもしれません」と抱負を語った。
同じカテゴリーの最新記事
- 免疫チェックポイント阻害薬で治療中、命に関わることもある副作用の心筋炎に注意を!
- 心不全などの心血管の副作用に気をつけよう! 乳がんによく使われる抗がん薬
- 手術や術後化学療法を受ける前に知っておきたいこと 大腸がん術後の副作用を軽減する
- 免疫チェックポイント阻害薬は、発現しやすい副作用を知っておくことが大事
- 免疫チェックポイント阻害薬の副作用対策 早期発見・早期対応のために必要なチーム医療
- 外来がん化学療法副作用対策 薬剤師外来の活用で安心のできる化学療法を
- 本邦初となる『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』の内容をひも解く
- 制吐療法の新しい展開 薬剤師主導の臨床試験で第2世代制吐薬の優位性を証明
- 進行肝がんに対するネクサバールのマネジメント