治療を完遂するためにも、1人で悩まずきちんと医療者に伝えて セルフケアが重要!末梢神経障害はこうして乗り切ろう
有効性の認められた薬はないのが現状
それでは、末梢神経障害の治療法にはどのようなものがあるのでしょう。
「治療は、痛み止めや神経障害を和らげる薬などを症状に応じて処方しています。しかし残念ながら、確実に有効性が証明されている薬はないのが現状です」
抗けいれん薬であるガバペン(*)や神経障害を和らげるリリカ(*)、麻薬性鎮痛剤のオピオイド、他にもカルシウム、マグネシウム、ビタミンE、B6、B12、漢方薬の牛車腎気丸などが、症状に応じて投与されています。
「副作用の発現においては、さまざまな研究が進んでいます。現時点では、副作用を完璧に抑える薬剤はありませんが、抗がん剤には副作用があるということを前提に治療に取り組むべきです。ただし、あまり神経質にならずに、薬の服用によって、少しでも症状が緩和した場合には、医師や看護師に伝えて、最善の治療法を検討してもらうべきだと思います」
*ガバペン=一般名ガバペンチン
*リリカ=一般名プレガバリン
大切なのは患者自身のセルフケア


そして、末梢神経障害と少しでも上手に付き合っていくためには、患者さん自身のセルフケアが何よりも大切だと矢ヶ崎さんは指摘します(図5)。
「抗がん剤の副作用として末梢神経障害が出るとわかったら、日常生活でできることと、できないことをきちんと知ることが大切です。そしてできないことは無理せずに、少しでもスムーズにできるように工夫をしてください。たとえば、足の感覚が鈍くなったら、歩くコースを確認できるようにフットライトをつけたり、段差を極力意識するなどして、1歩1歩の歩き方を工夫しましょう。つまずく原因となるラグマットなどは敷かないようにします。お風呂に滑り止めのマットを敷くと���ったことで転倒を回避することも大切です。お風呂の湯加減を調べるときには温度計を使ったり、鍋に触るときは鍋つかみを使用して、やけどを防止するなど、細かく対処してください」
他にも、今まで無意識に行っていた日常生活の様々な行動を、安全を確認しながら意識的に行うことの大切さを矢ヶ崎さんは強調します。
「日常生活の細かい作業を手助けしてくれるものとしては、ユニバーサルデザイン(*)の道具や介護用の道具などがありますので、自分にとって使いやすいものを探してください」
*ユニバーサルデザイン=国籍、年齢、能力を問わず利用できる設計
医療とのコミュニケーションも大切
日常的なセルフケアを行うと同時に、医師や看護師とのコミュニケーションを密にとっていくことも大切だと、矢ヶ崎さんはアドバイスします。
「不安なことや気にかかることは、何でも医師や看護師に相談してください。つらいのに自分1人で抱え込んで、症状を訴えない患者さんもけっこういらっしゃいます。副作用で関節が痛いのに、勝手に四十肩と思い込んでそのままにしていた方もいました。今、自分に出ている症状が抗がん剤治療と関係しているものなのかどうかを、きちんと見極めるためには、どんな症状なのか、それはいつごろから出た症状なのかなどを、具体的に細かく伝えてください。メモなどにしておくといいかもしれません。医師や看護師と自分の症状についての情報を共有していれば、対処も早く、的確にしてもらえると思います」
副作用を克服し、がん治療の完遂を
がん治療に携わる医師や看護師が考える最大の目的は、患者さんにがんの治療を完遂してもらうことだと、矢ヶ崎さんは強調します。
「せっかくの治療を副作用で断念してしまうことのないように、医師や看護師は、できる限りの努力を惜しまない気持ちです。些細なことであっても何でも相談して、QOLを保ちながら、よりよいがん治療を受けてください」
現在、末梢神経障害に対する確実な治療法は確立されていませんが、吐き気・嘔吐に対する制吐剤が進歩したように、近い将来、画期的な薬が登場するかもしれません。
がん治療に対する薬物療法は、日進月歩で、新薬や新しいレジメン(治療の組み合わせ)が次々に生まれています。画期的な治療薬が増えれば、それだけ、新たな副作用が出現し、その対処法を考慮しなくてはならないケースが増えてくるかもしれません。しかし、近い将来、副作用を軽減し、QOLを維持しながら、有効ながん治療を受けられる方法が必ず生み出されるはずです。そんな未来を期待しながら、前向きに、がん治療における副作用対策を心がけていきましょう。
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