無理をせず、できる範囲のセルフケアを心がけて、治療を続けていこう つらい血液がん化学療法の副作用は治療とセルフケアで上手に付き合う
患者さん自身が主体となり副作用と付き合う
ほかにも化学療法による副作用は数々ありますが、これまで述べてきた副作用ともども、上手に付き合っていくためには、日常生活のなかでセルフケアを習慣化させることが大切です。
たとえば、朝起きてから寝るまでの1日の生活のなかでやるべきケアを組み込んで、一覧表にして自室に貼っておくなどの方法はお勧めかもしれません。
「副作用対策は、具体的な行動を実行して効果が上がると、患者さんは、がんばる気持ちがわいてきます。口腔ケアや体をきれいにする、手を洗う、うがいをするといった身近な感染管理を日常に組み込んで、ご家族も一緒にやることが大切です。飲食やお通じ・お小水の管理、皮膚の保湿ケアなども自分でうまくできるように、入院中にアドバイスしています」(清弘さん)
たとえば、口腔内の感染対策としては、1日に8回(起床時、3食の前後、就寝前)うがいをしてもらっているそうです。水もしくは口の症状に合わせた、炎症止めの入ったうがい薬(アズノール(*)など)でのうがいです。さらに、治療中は市販の保湿のマウスリンスやジェルを口のなかに塗ってもらいます。病室でアイソレーター(空気清浄装置)に入っていると口が渇きやすいため、口のなかを乾かさないことが大切です。口が渇くと口内炎が発生しやすくなるのです。
化学療法の合間の回復時期であれば、運動も大切です。普通に歩く程度のわずかな運動を、自分の体調と相談しながら行い、白血球の数値が上がってきたら外へ散歩に出ることもできます。
「じっと寝てばかりいると筋肉が落ちますので、なるべく座る時間を増やして背筋を落とさないようにすることも大切です。食事の下膳をしたり、病室の外の洗面所まで行って歯磨きをするといった、自分でできる範囲内の行動で筋力を落とさない工夫をしていくとよいでしょう」(清弘さん)
ただし、血液がんの���者さんはまじめに遂行する傾向の人が多いそうで、あまり強迫観念にとらわれないで気楽にやることが大切だといいます。
「体温やお通じの回数などをノートに毎日書いたり、白血球の数値などを記録している人もいらして、私たちが、患者さん自身の記録を参考にさせていただくようなこともあります。しかし、体調の許す範囲内で無理せず続けていくようにとアドバイスしています」(清弘さん)
吐き気・おう吐 | |
症 状 | 胃がむかむかする/食べようとすると吐き気がする/料理のにおいで吐き気がする/おう吐したことを思い出して気分が悪くなる |
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治 療 | 制吐剤・精神安定剤の投与、精神科カウンセラーによる診察 |
セルフケア | 食事量を少なめにする、においの強いもの(花・香水・揚げ物料理など)は避ける、室内換気をよくする、音楽・TVでリラックス、ゆったりとした服装、腹式呼吸、冷水でのうがい、氷・飴を口に含む、おう吐のあとは衣類を緩め、右下横向きに寝て体を内側に曲げ、安静を心がける |
感染症 | |
症 状 | 白血球・好中球減少による感染 |
治 療 | 血液検査、抗生物質(抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス剤)・G-CSFの投与 |
セルフケア | 検温、手洗い・うがい・歯磨き・入浴・肛門洗浄・皮膚乾燥を避ける・爪は短くするなど清潔に努める、電気カミソリでのひげそり・外出・人ごみは避ける、インフルエンザなどの予防接種は事前相談 |
貧血症 | |
症 状 | 赤血球減少による動悸・息切れ・めまい・疲れやすさ |
治 療 | 血液検査、輸血 |
セルフケア | 十分な休息・睡眠、ゆったりとした行動・動作、バランスの良い食事 |
倦怠感 | |
症 状 | 白血球減少による虚脱など |
セルフケア | 十分な水分摂取、入浴・マッサージでリンパ液・血行を促す、適度な運動、日記をつける(他人に理解されにくい症状・程度・変化などを書きとめることで、客観的に把握でき、症状を悪化させる原因がわかる可能性もある)、できることは自分でやる(無理をしない)、家族などの身近な人の理解 |
食欲不振 | |
症 状 | 全身がだるく、食欲が出ない/何を食べてもおいしくない |
治 療 | 点滴で栄養を摂取 |
セルフケア | うがい(レモン水・レモン味の炭酸水など)、歯磨き、舌苔のブラッシング、味に変化をつける、食事をとる環境・雰囲気を変えてみる、食べたいときに食べたいものを食べる |
口内炎 | |
症 状 | 血小板減少による出血/口の中が乾く |
治 療 | 鎮痛剤、マウスリンス、ジェル |
セルフケア | 堅いものや香辛料・酸味の強いものなど刺激の強い食事は控える、うがい、歯磨き、口内・口唇の保湿、禁煙 |
*アズノール=一般名ジメチルイソプロピルアズレン
自分が寄り添いやすい人につらさや悩みを相談する
精神的なケアも副作用が現れたときには大切だといいます。
まずは、つらいことがあったら、自分が1番寄り添いやすい人に相談してみることが大切です。それは家族や友人であるとは限らず、入院中に親しくなった身近な看護師さんや医師・研修医の場合もあるでしょう。
「自分の病状について私たちに質問できるようになると、積極的に病気と向き合えるようになります。大部屋にいれば、ほかの患者さんとの情報交換もあるでしょうし、コミュニケーションを取って、自分の気持ちがきちんと言えると楽になると思います」
がんの相談コーナーなどで話を聞いてもらうのもいいかもしれません。
「当院は神経科の医師や臨床心理士に相談すれば、すぐに来てくれますし、緩和ケアチームとも連携が取れています」(小林さん)
同院では、家族のサポートも神経科の医師が外来診療で対応しています。
清弘さんは、次のように患者さんにエールを送ります。
「血液がんの治療は、初回治療時には心身ともにダメージが大きいですが、2回目になると自分自身に起きていることがみえてきて、気持ちを切り換えて立ち直る方が多いです。何回か治療を経験するうちに治療を受け入れていきますし、ご家族もどうサポートすればいいのか、だんだんわかってきます。そうするとお互いに支え合い感も出てきて、気持ちがちょっと変わってきます。抗がん剤の効き目がはっきり出てくると希望が持てますし、副作用に対する許容範囲も上がると思います」
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