血液がん、小児がん、患者さんに朗報! 切れ味のよい薬剤で危険な副作用「腫瘍崩壊症候群」を止める!
人間の進化の途中で失った酵素

ラスリテックは、尿酸を水溶性のアラントインという化合物に変える。アラントインは尿にどんどん溶けて、体外に出ていく。
「人間以外の哺乳類の多くは、尿酸をアラントインに分解する酵素を持っています。なぜか、人間だけが進化の過程で失ってしまいました。ラスリテックは、遺伝子組み換え技術によって、人間が失った酵素の性格をもったお薬です」(薄井さん)
通常、急性白血病などの治療で、腫瘍崩壊症候群が起こりやすい場合には、治療を開始する4~24時間前に、ラスリテックを使う。患者は30分ほど点滴を受けるだけ。数回で、尿酸値はゼロになる。検査室のスタッフが「ゼロになっている」と驚いて報告に来るほどよく効く。
治療で腫瘍細胞が壊れても、尿酸を尿に溶かして、どんどん処理するため、高尿酸血症にならず、腫瘍崩壊症候群を予防できる。
在外で腫瘍崩壊症候群対策に広くラスリテックを使用
「ラスリテックの使い方の基本は、治療前に使うこと。毎日、検査でチェックして、尿酸値が上がり始めたら使うことです。尿酸をゼロにして、その後も低い値を維持できます。尿酸をゼロにできる薬はほかにありません。私も使い始めたとき、その効き目のよさに驚きました。化学療法の内容に応じて1日から3日間の投与を行いますが、まだ尿酸値が高いなどリスクのある患者さんには投与期間の延長を考えます」と薄井さん。
ラスリテックの使用法について、日本ではガイドラインを作成中とのこと。
海外では、腫瘍崩壊症候群を起こしやすいがんの種類(血液がん、小児がん等)、腫瘍量の指標となる白血球数やLDH数、化学療法への反応性などでまとめた腫瘍崩壊症候群のリスク分類をもとにラスリテックの使用を考慮している。リスクの高いグループには治療���から積極的に使う。中間グループにも基本的には使う。リスクの低いグループには様子を見ながら用いる。また、治療前に尿酸値の高い患者、腎障害のある患者にはリスクにかかわらず積極的に使う。
副作用としては、過敏症があるが、頻度はそれほど多くはない。また、日本人には数少ないが、グルコース-6-リン酸脱水素酵素という酵素がない患者さんには使えない。赤血球が壊れやすく、貧血を起こしやすいからだ。これは家族歴などの問診でチェックする。
ラスリテックは、欧米を含む世界50カ国以上で承認を取得。世界的には「がん化学療法に伴う高尿酸血症」に対する標準的な薬として知られている。米国の著明ながん治療施設では、治療計画にラスリテックを組み込んでいる。


強い治療や急性転化の際に気をつける
腫瘍崩壊症候群は、入院中の治療で起こることがほとんどである。そこで、入院に際して、患者さんや家族は、腫瘍崩壊症候群について、知っておく必要がある。
「血液がんで入院する場合にはがんの治療に付随する出来事として、腫瘍崩壊症候群の説明があるはずです。担当医に聞いて、それがどうして起こるのかを知っておくことが大切です。とくに腫瘍崩壊症候群の発症頻度が高い血液がんのときや、治療の中に腫瘍崩壊症候群を発症しやすいと報告されている医薬品が含まれているときなどは、よく理解するように心がけてください」(薄井さん)
入院中は、水分をよくとることが大切。これは、血液がんではもちろんのこと、どんながんの種類でも化学療法を受けるときに共通する心がけである。
腫瘍崩壊症候群は、血液検査などでわかることがほとんどであり、特徴的な自覚症状はあまりない。急に発症するため、医療者側には迅速な処置が求められる。
退院して、外来通院に移ったときはあまり気にしなくてもよい。ただし、まったく起きないわけではない。たとえば、慢性骨髄性白血病の慢性期で外来通院中だったが、急性転化して腫瘍細胞が急激に増殖し、入院して強い治療を受けたりすれば、発症することもある。こうしたときも、ラスリテックを積極的に使って、標準的な化学療法をしっかりとやり遂げることが大切だという。
切れ味のよい守りのエース
ラスリテックが承認される前は、冒頭で述べたAさんのように、腫瘍崩壊症候群を発症して亡くなる患者もいた。薄井さんの医療グループでは、ラスリテックを使用するようにしてから、腫瘍崩壊症候群を発症して亡くなった患者はいないという。
つまり、腫瘍崩壊症候群の予防にはラスリテックは欠かせない薬剤なのである。
「ラスリテックの効き目、切れ味はシャープです。尿酸をゼロに抑え込みます。サッカーや野球でいえば、守りのエースです。ラスリテックによって、がんの化学療法の攻めのエースクラスの抗がん剤は、本来の役割と力を発揮して、力いっぱい活躍できるようになったのです」と薄井さん。
腫瘍崩壊症候群は、切れ味のシャープな守りのエースの登場で、ほぼ完ぺきにコントロールできるようになった。
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