患者さんができる対処法をわかりやすく解説! 前立腺がん抗がん剤の副作用を乗り越えて

監修:上村博司 横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学准教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2011年4月
更新:2013年4月

現れた症状を毎日チェックする

図:副作用チェックノート

患者さん自身がどのような症状が現れたかを記入する「副作用チェックノート」

治療中は、どのような症状が現れたかを毎日チェックしておくとよい。同病院では「副作用チェックノート」に患者さんに記入してもらっている。

「記入された内容を、主治医や外来化学療法室のスタッフが把握しておくことで、治療をより安全に行えます。患者さん自身も自分の状態の変化を把握すると、治療に前向きになります」

患者さんにできることを中心に、それぞれの症状に対する対処法を解説してもらった。

アレルギー

点滴中に現れる症状で、発疹が出たりする。多くは軽い症状だが、ごくまれに血圧低下などの重い症状が出ることもある。

「最も気をつけたいのは、初めて投与するときです。異常があったらすぐに医師や看護師に伝えることが大切です」

吐き気・おう吐・食欲低下

投与から2~3日で吐き気やおう吐が起こり、それに伴って食欲が低下することが多い。

「すごく吐くということはなく、少しむかむかする程度がほとんどです。食欲がなくても水分は十分取るようにし、プリンでもゼリーでも、食べられるものを食べましょう。きちんとした食事が取れなくても、数日のことなので、心配は要りません」

倦怠感

人によって多少の違いはあるが、投与後2~3日目から5日間ほど続くことが多い。

「がんの悪化による症状ではないので、安心してください。あまり出歩かず、ソファやベッドで横になるなど、家でおとなしくしていたほうがいいでしょう。仕事をしている人も、うまく休みを取るとか、自宅で行える軽作業にとどめてください」

骨髄抑制

白血球の数が減ったり、ヘモグロビンが減って貧血になったりする。自覚症状はないので、投与後1週間~10日ごろに血液検査を行い、骨髄抑制が起きていないかをチェックする。白血球は細菌やウイルスを撃退する役目を果たしている。白血球が2000未満になると、感染症の危険が高まるので、白血球を増やす作用があるG-CSFの注射���行われる。

「感染症を防ぐため、人ごみを避け、手洗いを励行します。インフルエンザや肺炎の予防接種を受けることも大切です。また、熱が出たり、咳が続いたりする場合には、感染症の可能性があるので、すぐに病院に連絡してください」

治療開始後かなりたって現れる浮腫や手足のしびれ

下痢・便秘

下痢には止し りざい痢剤、便秘には下剤など、対症療法が行われる。

「下痢が続くと脱水症状が起きやすいので、十分に水分を補給してください」

味覚異常

味覚が変化し、何を食べても味がわからない状態になる。

「治療法はないのですが、症状は長くは続きません。投与後1週間以内に現れ、そのあと1週間たてば、またおいしく食事ができる人がほとんどです。味覚異常が起きている期間も、甘い物は比較的おいしく感じられるようです」

口内炎

口内の粘膜がただれるなどの症状が現れる。

「症状をひどくしないためには、口の中を清潔に保つようにします。また、タキソテール治療を開始する前に、虫歯や歯周病を治療しておくことも大切です」

脱毛

投与から2週間ほどして現れる。頭髪が完全に抜けてしまうことは少ないが、人によっては、眉毛などを含め、すべての体毛が抜け落ちることもある。

「気になる場合には、帽子などで目立たないようにすればよいでしょう。薬を中断すれば、髪の毛は再び生えてきます」

浮腫(むくみ)

投与回数を重ねることで現れる。下半身に起こることが多く、靴が履けなくなったりする。歩行が困難になり、歩行器や車いすが必要になる場合もある。

「QOL(生活の質)を低下させることにつながるので要注意です。必要に応じて、排尿を促し、体の余分な水分を排出する作用を持つ利尿剤が使われます。家にいるときは、なるべく脚を高くしておきます」

手足のしびれ

これも回を重ねると現れやすくなる。とくに足のしびれが起きやすい。

「手よりも足に症状が出やすい傾向があります。ただし、歩行が障害されるほどではありません。熱いものや刃物の取り扱いには十分注意してください」

爪の変化

爪が変色し、横割れするような状態になる。

「気になりますが、痛みはありません。きちんと切っておき、必要に応じて手袋などで保護するといいでしょう」

間質性肺炎

ごくまれにしか起こらないが、起きたときには命にかかわる。

「空咳や痰が出る、発熱がある、などの症状があったら、早く医師に伝えることが大切です」 以上が患者さんにできる対処法である。できるだけ治療を継続できるように、適切な対処で副作用を乗り越えてほしい。

患者さんの体験談
タキソテール治療を続けながら旅行にも行くし、競馬も楽しむ

永島春男さん

永島春男さん(74 歳)

5年間続けたホルモン療法からタキソテール治療に変わったとき、つらいだろうなと覚悟しました。抗がん剤治療は大変らしいと聞いたことがあったので。

ところが、そうでもなかったのです。1回目の治療のときは入院したのですが、とくに副作用らしい症状も現れませんでした。主治医の上村先生からは、副作用についていろいろ聞かされていましたが、これはたいしたことないな、と思いました。

事故が起きたのは、タキソテールの治療から10日後、退院直後のことでした。私は1人で外出していて、駅のホームで倒れたのです。階段を駆け上った直後、急に体に力が入らなくなり、よろけるようにホームから転落。その後、救急車で病院に運ばれ、検査の結果、タキソテールの副作用による貧血が原因とわかりました。頭に軽い外傷を負っただけでしたが、怖い体験でした。

副作用を甘く見たのがいけなかったのでしょう。2回目の投与後も、やはり10日目くらいに自宅の庭で倒れました。

治療について心配し過ぎず、明るく生活していきましょう

タキソテール治療は10回行った後、10カ月間休み、再び10回の予定で始まったところです。

これまでに私が経験した主な副作用は、貧血で倒れたこと以外には、足の指のしびれ、脱毛、爪の異常、それに白血球の減少くらいです。下痢と便秘は1回ずつで、軽いものでした。

私の副作用は軽いほうなのかもしれません。食欲低下もないし、味覚異常や口内炎もないので、食事は以前と変わりません。太らないように、食べ過ぎに気をつけているくらいです。

ただ、投与後2週間くらいは、急に動いたりしたときにフラッとしそうなので、注意しながら過ごしています。外出も控えめにして、好きな競馬ももっぱら家のテレビですね。

その代わり、後半の2週間は病気のことは忘れ、活動的に過ごしています。仕事や旅行にも行くし、暖かくなったら競馬にも行こうと思っています。これからタキソテール治療を受ける人には、あまり心配し過ぎずに明るく生活していきましょう、と伝えたいですね。

[永島春男さんのPSAの推移]
永島春男さんのPSAの推移
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