抗がん剤治療完遂のために、今、重視されつつある副作用対策 患者目線に立ったチーム医療の確立が支持療法・副作用対策を成功させるカギ

総監修・文:谷川原祐介 慶應義塾大学医学部臨床薬剤学教授
【ケース1】監修:中村将人 社会医療法人財団慈泉会相澤病院相澤がん集学治療センター化学療法科統括医長
上川晴己 社会医療法人財団慈泉会相澤病院相澤がん集学治療センター看護科主任
【ケース2】監修:縄田修一 横浜市立大学付属市民総合医療センター薬剤部薬剤師
上川晴己 社会医療法人財団慈泉会相澤病院相澤がん集学治療センター看護科主任
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2011年4月
更新:2013年8月

ケース2 1枚のシートで治療情報を医療スタッフ全員が共有する

縄田修一さん 横浜市立大学付属
市民総合医療センター
薬剤部薬剤師の
縄田修一さん

複雑化・高度化した治療を間違いなく遂行するには?

横浜市立大学付属市民総合医療センター薬剤部の縄田修一さんは、2003年に薬剤師の立場から、医療スタッフ全員が治療情報を正確に把握できるシステム「がん化学療法実施計画書」を考案した。

[「がん化学療法実施計画書兼注射処方せん」(外来用)]
「がん化学療法実施計画書兼注射処方せん」(外来用)

患者さんの体重や身長を入力すると薬剤量が自動的に計算・表示される仕組みになっている

「これは、患者さんがどんな治療方針でどんな抗がん剤治療を受けており、今どのような副作用をかかえているかもひと目で分かるように作った治療計画のチェックシートです。

これができる前までは、医師が治療計画を立てても、その情報が我々医療スタッフには十分伝わらず、医師が出した指示の目的が正確には理解しきれていないことも多くありました。

そしてこれが、経験豊富な医療スタッフと若手のスタッフによる患者さんへの対応が変わる原因にもなっていたのです」

10年ほど前までならば、治療法も多くはなく、医師のみで、抗がん剤などの投与量をチェックしていても間に合った。しかし近年、抗がん剤の種類も増え、治療法もさまざまな薬剤を組み合わせて利用するなど急速に複雑化してきた。これを医師だけに背負わせるにはあまりに負担が大きくなりすぎたということで、治療にかかわる薬剤師や看護師が、1枚の計画書を見れば治療方針や投薬期間、患者さんの状態がす��にわかるシステムを構築したのだ。

「抗がん剤治療の進歩に伴って、複雑化高度化した治療を間違いなく遂行するための仕組みとして、患者さんごとの治療情報を把握することは、薬剤師や看護師にとって医師が出した指示の理由が理解でき、医師と同様の説明が患者さんに伝えられ、また患者さんの状態を正確に医師に伝えることで、医師から適切な指示も得るという考え方を実践するにはチーム医療という取組みがどうしても必要だったということでしょう」

消化器系副作用対策として成分栄養剤への期待は大

治療情報を共有するというこの考え方は、抗がん剤による治療のみに限らず、治療中に起こりえる副作用対策の支持療法にも反映されている。とくに外来では副作用の発現を把握することが難しいため、縄田さんたちは別途アンケート用紙を作成し、綿密に対応しているという。

「アンケートでは口内炎をはじめ、下痢、食欲不振など消化器系の副作用を訴える患者さんは非常に多いです。しかし、まだこれといった治療法がないだけに、症状の程度や食事の摂取状況、生活状態などを的確に医師に伝え、医師にその患者さんの状態を正確にイメージしてもらい、症状に対する治療の必要性を感じてもらえるように心がけています。とくに粘膜損傷による下痢、口内炎では、粘膜修復作用の考えられる成分栄養剤エレンタールのような薬剤の投与に期待しています。エレンタールの副作用軽減効果については、まだ科学的に証明された根拠といえるデータは少ないとはいえ、最近の使用例より消化器系の副作用に対する手ごたえは十分感じていますから。安全性の高いエレンタールが、今後の支持療法として認められる可能性は非常に高いと、私は考えているのです」

縄田さん自身、今後も積極的にエレンタールの可能性を追求していく予定だという。

「理論的には、消化器系副作用対策としての期待は大。大学という研究機関の一員として、今後も研究の手は緩めません」

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