医師との連携を絶やさず、早期発見・早期手当てを 腎がん分子標的薬の副作用「手足症候群」を上手に乗り切る
クリームを塗って保湿。ひどいときは休薬も
- 長時間の歩行や立ち続けることを避けて、足に力がなるべくかからないようにします
- 靴は柔らかい材質で足にあったものを履くようにします
- 厚めの靴下やジェル状の靴の中敷を使用して足を保護します
- きつい靴下を履かないようにします
- 手足に保湿クリームを塗り、爪の手入れをします
- 熱い風呂やシャワーを控えてください
- 直射日光にあたらないようにします
まず大切なのは手足症候群を予防することだ。薬を飲み始めると同時に保湿クリームを欠かさず塗る、靴下を履く、底の柔らかい靴を選ぶ、などの点を怠らないようにする。そして、皮膚症状が出てきたら、皮膚科と相談しながら、症状に合ったステロイド軟膏などを塗布する。
副作用対策でとても参考になるのが、ネクサバールやスーテントの適正使用ガイドだ。これらはウェブサイトからもダウンロードできる。
「注意点や患者さんにできることなどがよくまとめてあるので、読んでそのとおりにすると、ほぼ大丈夫だと思います。ですから、私は最初に患者さんと一緒にこれを見ながら説明します」
患者さんに「薬を飲むことでどんな症状が起きてくるか」を、治療前にしっかりわかっておいてもらうことも大切と久米さんは語る。それによって、患者さんが早めに副作用に気づき、医師に告げることができるからだ。
「薬を服用し始めた最初のころはとくに手足症候群が発症しやすいので、まず1週間分処方し、何か変だなと思うことがあったらすぐ連絡してもらいます。そして、症状がおさまっても、1週間後には必ず診察を受けていただく。慣れてきたら間隔をあけ、2週間に1度の通院にしていきます」
つらさが改善しない場合は、休薬や薬の減量を検討する。
「有害事象が出たときの基本は休薬と薬の減量です。ネクサバールもスーテントも錠剤なの���、1日に飲む数で調節できます。飲むのを完全にやめてしまうより、休薬や減量をうまくはさみながら、長く続けてもらうことが大切だと思います」
ただし、どんな症状に対しても自己判断せず、医師と相談しながら治療していくことが大切だ。これは、手足症候群に限らず、すべての副作用に関して気をつけるべき点でもある。
グレード | 症状 |
---|---|
1 | 日常生活に支障をきたしていない
|
2 | 痛みを伴い日常生活に制限をきたす
|
3 | 強い痛みがあり日常生活ができない
|
血圧を毎日測って記録し、検査を欠かさず受ける
では、そのほかの副作用についてはどうだろう。ネクサバールやスーテントでもう1つ出やすいのは高血圧である。
「血圧は日々変動しますし、また1日の中でも変動します。ですから、私は患者さんに毎日血圧を測って記録してもらいます。すると、次第に高くなっていく様子がわかるので、『そろそろ降圧剤を飲んでもらおう』『降圧剤を増やそう』など、適宜、降圧剤の投与を開始したり増減・追加したりできます。高血圧は患者さん自身が自覚して血圧を測り、適切に降圧剤で対応すれば、ほぼ問題ないと思います」
このほか、スーテントで起きやすい副作用は、前述したように血液症状(血小板減少、白血球減少)、甲状腺機能低下、心機能低下などだが、これらはいずれも自覚症状が出にくく、症状が出たときには重篤になっている場合が多い。そのため、何より大事なのは、必要な検査を欠かさず受け、異常を早めに発見することだ。
「たとえば、血小板が減ると、出血しやすく、出血が止まりにくくなります。しかし、このように出血が起きやすくなるのはかなり血小板が減少したときです。自覚症状が少ないから、患者さんに日常的にできることも少なく、転んだりぶつけたりしないよう、気をつけていただくことくらいです。
しかし、恐いのは気づかないまま、血小板が減少していること。ですから、自覚症状がなくてもきちんと検査を受け、脳出血、消化器官出血などの重大な合併症を予防する必要があります。そして、下血など、これまでにない出血症状に気づいたら、緊急に来院することです」
ほかの副作用も同様だ。体内に侵入する細菌などと闘う白血球が減ると、さまざまな感染症にかかりやすくなってしまう。最初はだるさ程度の自覚症状しかない甲状腺機能障害も、異常の発見が遅れる可能性がある。いずれも、きちんと検査を受けていれば、重大な合併症を防ぐことができる。
手足症候群に限らず、腎がんの分子標的薬と上手に付き合い、長く飲み続けるコツは、とにかく医師との連携を絶やさないこと、そして、早めに気づき、早めに手当てをすること。これに尽きるといえそうだ。
新たな分子標的薬を飲み継いで長生きめざす
久米さんは言う。
「手足症候群のように、患者さんにとってつらい副作用もありますが、患者さんには手当てと休薬で何とか乗り切っていただきたいと思います。腎がんの分子標的薬はほかにも次々出てきているからです。『いろいろな薬を飲み継ぐうち、気づけば10年たってしまいました』というような日も、決して遠くないのではないかと思うんです」
たとえば、2010年4月にはアフィニトール(一般名エベロリムス)が、10月にはトーリセル(一般名テムシロリムス)が承認され、すでに販売が開始されている。アフィニトールはネクサバール、スーテントが効かなくなった状態の患者さんに効果があることが、日本を含めた多数の国で行われた臨床試験で明らかにされている。
また、トーリセルは、予後(*)があまりよくないと考えられる腎がんの症例で効果があることが臨床試験で明らかにされている。さらに、アキシチニブという薬剤は臨床試験が終了し、パゾパニブという薬剤も臨床試験終了間近とのことだ。
一方、インターフェロンなどのサイトカイン療法は、今後も使われていく見通しだ。
「インターフェロンなどは日本で長く使われてきた薬で、医師にとっても効果や副作用を熟知した使い勝手のいい薬です。今後、分子標的薬とサイトカイン療法の併用療法は広く行われていくことになると思いますし、手足症候群がつらくてネクサバールを中止した患者さんが、サイトカイン療法に切り替えていくといった、今までとは逆向きの治療も可能性があると考えています。実際に私たちは今、その臨床試験を行っています」
進行した腎がんの治療法にも、さまざまな道が開けつつある。あきらめず、副作用に負けず、治療を続けていただきたい。
*予後=今後の病状の医学的な見通し
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