適切なセルフケアと治療で副作用の症状が軽減でき、治療も長期間続けられる 大腸がん薬物療法の副作用対策はここまで進んだ
末梢神経障害がFOLFOX療法の壁
- 冷たい食べ物や飲み物はとらない
- 給湯器を使うときは、必ず水の温度を確認する
- 炊事・洗濯のときはゴム手袋をはめる
- 炊事で火気を使うときは鍋つかみなどを活用する
- 浴室や洗面所では滑り止めマットや液体石鹸を使う
- 屋内外の通路にはなるべく障害物を置かない
- 外出時には手袋や厚手の靴下を着用する
大腸がんの薬物療法の副作用の中で、大城さんがとくに問題視しているのが、FOLFOX療法やXELOX療法の末梢神経障害だ。
末梢神経障害はエルプラットによるもので、手足の激しいしびれやそれに伴う痛みなどが起こる。手足の指の自由が利かなくなったり、温感や触感を失ったりすることもある。治療開始から2~4週間後に出やすい。とくに、低温になると症状が悪化するので、冷たい水に触れたり、冷たい飲み物を飲んだりしないよう気をつけたほうがよい。外出時に手袋をはめたり、厚手の靴下をはいたりするといった予防策もある。
「FOLFOX療法には、がんの進行を長期に抑える優れた効果があると見ています。たとえば、当院では病期が4期や再発の大腸がんでは、基本的にFOLFOX+アバスチン療法を第1選択にしています。ところが、FOLFOX療法は、4カ月程度しか続けられないといわれてきました。実は、がんの進行を抑えられなくなったのではなく、大半は末梢神経障害が悪化して中断せざるを得なかったのです。これは患者さんにとっても、私たちにとってもきわめて残念なことです。末梢神経障害さえ抑えられれば、FOLFOX療法の治療期間をもっと延ばせるだろうと、私は考えていました」
末梢神経障害も同時に消えた
大城さんが末梢神経障害を抑える切り札と見ているのが、がん性疼痛用鎮痛剤として用いられているオキシコンチン(一般名オキシコドン)だ。
「実は、FOLFOX療法を受けていたある患者さんに、がん性疼痛を抑える目的でオキシコンチンを投与したところ、��作用として出ていた末梢神経障害もほぼ消えてしまったのです。ほかの患者さんにも試したところ、同じように末梢神経障害が改善するケースが続出しました。よく効く患者さんでは低用量のオキシコンチンを3日間内服するだけで手指の痛みが気にならないレベルになります。手ごたえを感じたので、ほかの医療機関と共同で臨床試験の準備をしているところです」

(2)オキシコドンの投与を中止しても腹痛の再燃は認められなかったが、オキシコドンの投与を中止する前から、オキサリプラチンが原因と考えられる末梢神経障害(手指の疼痛)が出現した
(3)末梢神経障害の改善目的でオキシコドンの投与を再開したところ、手指の疼痛は消失し、オキシコドンの投与は中止されたが、その後、症状の再発はなく、予定された化学療法を完遂した
※患者は他院でのFOLFOX+ベバシズマブ療法の臨床試験に登録されたため、オキシコドンの投与が中断された
薬物療法の有効期限も延びる見通し
オキシコンチンで末梢神経障害を抑えることによって、FOLFOX±アバスチン療法を長期間行える症例も増えたという。
「当院では現在、FOLFOX±アバスチン療法を行う期間が平均で1年前後になっています。患者さんの中には1年半以上、この治療法を続けている人もいます」
オキシコンチンは、多くの医療機関で導入され、がん治療に伴う痛み(がん治療関連疼痛)では保険で使用できる。薬剤費自体も安いため、患者さんにとって利用しやすいのも利点だろう。
また、遺伝子診断の研究で、細胞表面のμオピオイド受容体の発現によって、末梢神経障害にオキシコンチンが効く人と効かない人がいることもわかってきた。オキシコンチンが効かない患者さんもいるため、大城さんは、末梢神経障害の薬として、漢方薬の牛車腎気丸、緩和ケアにも使われる抗てんかん薬のガバペン(一般名ガバペンチン)、帯状疱疹後神経痛(*)治療薬であるリリカ(一般名プレガバリン)などにも注目している。
「大腸がんの薬物療法ではこれまで、副作用対策はいわば脇役でした。しかし、副作用対策が薬物療法の成績を高める重要なカギだということを、もっと広く知ってほしいですね」
大城さんは、明るい表情でこう説明してくれた。
*帯状疱疹後神経痛=帯状疱疹(ヘルペス)が治った後も、神経がウイルスに侵された影響で痛みが続く

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