カロリー補給のための栄養剤から、抗がん薬の支持療法・副作用対策として今注目の的 口内炎など消化器がんの副作用対策に成分栄養剤の利点を生かす

監修:田中善宏 岐阜大学医学部付属病院腫瘍外科助教
緒方 裕 久留米大学医学部付属医療センター外科教授
佐藤 弘 静岡県立静岡がんセンター食道外科医長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2010年11月
更新:2019年1月

成分栄養剤の口内炎に対する顕著な効果を臨床例で確認

緒方裕さん

久留米大学医学部付属
医療センター外科教授の
緒方裕さん

次に、大腸がん化学療法の副作用の1つ、口内炎に対する「エレンタール」の効果を調べた久留米大学医学部付属医療センター外科教授の緒方裕さんにお話を聞いた。

緒方さんによると、大腸がんの抗がん剤治療における副作用のうち、好中球減少にはG-CSF製剤(顆粒球コロニー刺激因子)、悪心・嘔吐にはセロトニン受容体遮断薬などの制吐剤というように、有効な対処法がある副作用もあるが、口内炎に関しては、まだ予防・治療法が確立されていないという。

「大腸がんの化学療法においては、5-FUが中心的な役割を果たしているので、その副作用である口内炎の発症は極めて大きな問題でした」

口内炎も悪化すると、痛みで食事が取れなくなり栄養障害を起こしたり、睡眠に支障をきたしたりすることもあり、ストレスが増大する。この一連の悪循環の中で最も問題になるのが、治療意欲の低下だという。

「患者さんがもう嫌だと治療をあきらめてしまうことが1番問題なんです。副作用に対する支持療法の最も重要な目的は抗がん剤治療の完遂。ですから大腸がんでは口内炎対策というのが支持療法として非常に重要になってくるのです」

粘膜保護と栄養補給の観点から「エレンタール」を選択

[口内炎の程度]

グレード0 口内炎なし
グレード1 粘膜の紅班
軽度の疼痛、摂食に影響なし
グレード2 斑状潰瘍または偽膜
疼痛はあるが、摂食・嚥下可能
グレード3 癒合した潰瘍または偽膜、出血
十分な栄養や水分の摂取不能
グレード4 組織の懐死、顕著な自然出血。
生命を脅かす
出典:緒方裕ら、第47回日本癌治療学会学術集会,
OS 108-2

そこで、2008年から2009年にかけて、口内炎を起こした患者さん12人に同じ抗がん剤治療を継続し、���エレンタール」を投与して口内炎予防効果を調べている。

「『エレンタール』を選んだ理由は、まずグルタミンに粘膜の保護修復の効果があり、『エレンタール』には80グラム中L-グルタミンが1932ミリグラム含有していること、もう1つは食欲の低下した患者さんに栄養補給する場合には、成分栄養剤が栄養素の吸収性が最も高いことから最適だろうと考えたからです。結果は想像をはるかに超えた顕著なものでした」

12例のうち、3例で5-FUの減量を行ったものの、1例を除きすべての患者さんで症状が軽減されていた。

なかでも注目すべきなのは、グレードの高い、症状が重い症例のほうが改善度が上がっていることだ。さらに改善度と「エレンタール」の投与量を比較してみると、著効・有効・無効の3段階で分類した場合、明らかに投与量の多いほうが効果をあげており、用量依存の傾向がはっきり見て取れると、緒方さんは力説している。

[症例の概要と「エレンタール」実投与量]

症例 レジメン 減量 性・年齢 口内炎
grade
「エレンタール」服用量
1コース目・2コース目
併用
薬剤
症例1 BV+FIREFOX 5-FU M-68 3 9日/720g・7日/560g  
症例2 BV+FOLFIRI 5-FU M-75 3 7日/560g・6日/480g  
症例3 BV+FIREFOX M-59 2 10日/800g・7日/560g  
症例4 BV+FOLFIRI F-67 2 9日/800g・7日/560g M-S
症例5 BV+FIREFOX 5-FU F-82 2 6日/480g・7日/560g M-S
症例6 BV+FIREFOX F-84 2 6日/480g・5日/400g  
症例7 BV+FIREFOX M-73 2 3日/240g・3日/240g  
症例8 BV+FIREFOX F-59 1 9日/720g・6日/480g M-S
症例9 FIREFOX M-66 1 7日/400g・8日/640g  
症例10 BV+FIREFOX F-62 1 6日/400g・7日/560g M-S
症例11 BV+FIREFOX M-44 1 4日/320g・4日/320g  
症例12 BV+FIREFOX M-61 1 3日/240g・3日/240g M-S
緒方裕ら、第47回日本癌治療学会学術集会,OS 108-2
表中「BV」:ベバシズマブ(アバスチン)、「M-S」:マーズレンS、「FIREFOX」とは「FOLFIRI」と「FOLFOX」を4コースごとに行う交替療法

[「エレンタール」の治療効果(副作用のグレードの変化)]

症例 口内炎
前コース
口内炎
1コース目
口内炎
2コース目
好中球減少
前→1コース→2コース
備考
症例1 3 1 0 2→1→0  
症例2 3 2 1 3→1→1 摂取障害改善
症例3 2 0 0 2→0→0  
症例4 2 1 0  
症例5 2 1 0 2→1→0  
症例6 2 1 1 3→2→1  
症例7 2 2 1 食欲低下
症例8 1 0 0 1→0→1  
症例9 1 0 0  
症例10 1 0 0 1→0→0  
症例11 1 1 0  
症例12 1 1 1 食欲低下
「1コース目」「2コース目」でエレンタールを投与。もともと軽症の症例12を除いてすべてのケースで改善が見られた
出典:緒方裕ら、第47回日本癌治療学会学術集会,OS 108-2

術後の体重減少には成分栄養剤での積極的な栄養管理を

佐藤弘さん

静岡県立静岡がんセンター
食道外科医長の
佐藤弘さん

最後に、静岡県立静岡がんセンター食道外科医長の佐藤弘さんから栄養管理の面で注目するポイントをうかがった。

「食道がんの術前・術後の栄養管理の面で私が1番注目しているのは体重減少。もっと具体的に言うと体脂肪の減少なんです」

食道がんでは、まず治療前に食道の狭窄などが起こっていると満足に食事が取れないため栄養状態の悪いケースも少なくなく、こうした場合は、当然体力に合わせて手術が縮小手術にならざるをえなかったり、放射線でも当てる範囲を狭めなければならなかったりと、施術自体に影響が出てしまう。

また術後は、内臓脂肪が半減してしまうケースがほとんどだという。こうなると、表面上の見た目は元気でも、たとえばちょっとしたことですぐ寝込むとか、食事を1日取らなかっただけで脱水症状を起こすといった、体の予備力に影響が出ることが多くなるのだ。

「したがって栄養管理は長期スパンで行っていくことが重要になるのですが、こうした栄養管理のプロセス全般で補助食として『エレンタール』を利用することは、腸の吸収性を考えても非常に有効と思われます」

そこで静岡がんセンターでは、「エレンタール」により、通常の食事に1日当たり300~450キロカロリー程度の付加が重要であると指導しているとのこと。もちろん、「エレンタール」を選択する理由には、栄養面だけでなく、化学療法や放射線療法によって起こった粘膜障害に対する高い修復効果も考慮してのことだという。

[静岡がんセンターにおける胸部食道がん術後の評価]
図:静岡がんセンターにおける胸部食道がん術後の評価

体重は1年後、術前の86%にまで減少(2010年外科代謝栄養学会発表)

[静岡がんセンターにおける胸部食道がん手術、術前術後の内臓脂肪比較]
図:静岡がんセンターにおける胸部食道がん手術、術前術後の内臓脂肪比較

術後6カ月を経過すると、内臓脂肪は激減する(2010年外科代謝栄養学会発表)

● ● ●

「エレンタール」の副作用改善効果に関する研究は、まだ始まったばかりといえる。今後、粘膜修復効果以外での画期的研究発表がなされる日も、そう遠くはないようである。

1 2

同じカテゴリーの最新記事