治療を乗り越えるための患者5人による体験的極意 私はこうしてつらい抗がん剤治療を乗り切った

取材・文:常蔭純一+がんサポート編集部
発行:2009年11月
更新:2013年8月

十全の備えで、余裕を持って抗がん剤治療に臨む
梨本すみ子さん(主婦) 乳がん

7年前の闘病体験に学ぶ

写真:梨本すみ子さん
梨本すみ子さん

「人事を尽くして、天命を待つ」

私のがん治療への取り組みは、この言葉に集約されています。

もちろん、同じことは抗がん剤治療にもあてはまります。やるべきことはきちんとやる。そして、後は運を天に委ねればいいと思っているのです。それは7年前に悪性リンパ腫で亡くなった長女とともに病気と闘って得た教訓でもあります。

私の右側の乳房にがんが見つかったのは、2009年4月のことでした。その1年前から、同じ部分にしこりを見つけていましたが、多忙さにかまけて検査を1日延ばしにしていました。でも1年たってそろそろ白黒をはっきりさせなければと、自宅近辺の市民病院の乳腺外科で精密検査を受けました。

その結果、乳房のしこりはステージ(病期)3の乳がんであることがわかりました。

そして、その後、セカンドオピニオン()で訪ねた聖路加国際病院の医師からの提案に応えて、手術前に濱岡ブレストクリニックで2段階の抗がん剤治療を受けることにしたのです。

そのとき、すぐに脳裡に浮かんだのが、娘との闘病体験でした。

写真:濱岡ブレストクリニック

梨本さんが、外来化学療法で通院中の世田谷区桜新町にある濱岡ブレストクリニック

不運にして、娘は病に屈しています。でも、同じ病気で回復している人も私はたくさん見ています。私が、どうなるかはわからない。ただ後で悔いが残ることのないよう、十全の準備を整えて、治療に取り組みたいと考えたのです。

実際不思議なことに、自分のこととなると客観的に治療を捉える余裕がありました。手始めに着手したのは副作用についての予習でした。病院で手渡された小冊子を熟読して、抗がん剤治療に伴う副作用について十分に理解し、心の準備を含めて自分なりの対策を講じました。

最初に診察を受けた病院の担当医や濱岡医師(濱岡ブレストクリニック院長)からは、重篤な副作用があらわれた場合など、緊急の場合の連絡先も教えてもらっています。こうして私は治療に先駆けて、不安の種を取り除いていたのです。

セカンドオピニオン=「第2の意見」として病状や治療法について、担当医以外の医師の意見を聞いて参考にすること

治療前からウィッグを誂えた

実際に治療が始まると、そうした事前の備えの効果が現われました。治療の第1段階としてア���スラサイクリン系薬剤による治療を受けると、吐き気や倦怠感などの副作用が現われます。何も知らなければ、そのことに不安を感じることでしょう。でも私は事前の勉強で、抗がん剤の副作用は一定期間を過ぎると消えてしまうことがわかっているので、悠々と症状に相対することができました。

「あら、ほんとに記載されている通りの症状が現われるのね」と逆に面白がっていたくらいです。

実際、脱毛が始まったときには、すでにオーダーメードのウィッグ(カツラ)が手元に用意してありました。

ただ1つ困ったのは、口内炎の症状が予想よりひどかったことでした。口の中で舌があたる部分には、ことごとく炎症ができている。そのために食べ物を口に入れると、しびれるような痛みが広がっていくのです。

でも、だからといって食べないでいると、病気と闘う体力を保てません。どうしようかと思っていると、一緒に暮らしている長男が、最初にしみるものを食べてみればとアドバイスしてくれました。

実際にそうしてみると、不思議と口の中がしみている間はそれほど痛みを感じることがないのです。そこで口内炎が続いている数日間は、この方法で甘い辛いもわからないまま、食べ物を口の中に放り込んでいたのです。そうして体力を保っていることも、私の抗がん剤治療の順調さの要因の1つといえるかもしれません。

無理せず、ストレスをためない

こうした副作用への対処とともに、私は生活の仕方にも配慮しています。それは、無理をしない、ストレスをためない、ということです。

初めて抗がん剤治療を受けたとき、私はすぐに軽い吐き気を覚え、そのことを看護師さんに伝えました。すると「変ですね。今、投与しているのは生理食塩水で抗がん剤ではないのですが……」という返事。何のことはない。私は投与されてもいない抗がん剤に不安を感じ、体の違和感を覚えていたのです。

このように心の不安やストレスは体の変調にもつながっていくのではないでしょうか。だから私は無理をせず、ストレスを極力、排除するようにしています。

食事の後、食器を洗っていても、疲れを感じたら、「5分間、休憩」といってソファに横になりますし、当番に当たっていた町内会の班長役も、抗がん剤治療があるからと、辞退させてもらっています。

面白いのは瓢箪から駒といえばいいのでしょうか。そうして正直に他の人たちと向き合うと人間関係が深まり、その輪が広がっていくことです。自分ががんであると伝えると、「私の夫もそうなのよ」「私の友人も今、困っているの」と、似たような境遇の家族、知人について語る人が決して少なくないのです。

そうしたやりとりを通して、私は病気と闘っているのは自分1人ではないと実感し、それがある意味で心の支えにもなっています。

これから待ち受けている本格的な治療に向けて、これからは治療への備えとともに、より多くの人とつながりあっていきたいとも思っています。

同じカテゴリーの最新記事