治療を乗り越えるための患者5人による体験的極意 私はこうしてつらい抗がん剤治療を乗り切った

取材・文:常蔭純一+がんサポート編集部
発行:2009年11月
更新:2013年8月

ネットで知り合ったがん仲間が大きな支えに
田口隆さん(元横浜市総務局長) 食道がん

ネットとメールで育んだ人間関係が支えに

写真:田口隆さん

自宅書斎でパソコンを使ってインターネット中の田口さん

インターネットを介した人間関係というと、何だか冷たい印象があるかもしれません。しかし私が過酷な抗がん剤治療を乗り越えて食道がんを克服できたのは、インターネットで知り合った2人のがん仲間の友情のたまものといってよいでしょう。

私が食道がんを患っていることがわかったのは、2004年11月のことでした。同じ年の春頃から食べたものが、胸や喉につかえるようになってきました。

そこで自宅近くの病院で検査を受けると、やはり食道がんであることが判明したのです。

もっともその時点では、早期ならばがんは切れば治るのだと安易に考えていました。

しかしネットで調べてみると、食道がんの手術は、すい臓がんに次ぐ大変な難手術であることがわかりました。当時、私は69歳。この年齢で、そんな難手術に耐えられるかと考えざるを得ませんでした。

そうして他に治療法がないものかとネットで調べていると、同じ食道がんを放射線化学療法による治療法で治したОさんのホームページを見つけることができたのです。相談できればとメールを送ると、Оさんからはすぐに電話があり、「大丈夫、治る」と励まされ、元気づけられました。そして、私は放射線化学療法による治療を決意したのです。

同じ悩みをもつ人の闘病記が自分の治療マニュアルに

その後、私は同じホームページで、治療経過を細かく記してあるIさんの闘病記を発見し、私自身の治療マニュアルとして活用しました。そうして私は自分の身体の状態の治療による変化を予測しながら、治療に臨むことができたのです。

「副作用は効果の証し」との言葉で治癒への希望を持てた

写真:ハワイ・ワイキキで

2009年、新年を迎えたハワイ・ワイキキで

がん専門病院での治療は、過酷なものでした。とくにきつかったのが、1週間ずつ4回行う抗がん剤治療でした。第1回目の抗がん剤治療が始まると吐き気、便秘、口内炎、食道炎などさまざまな副作用に苦しめられました。なかでも吐き気は、点滴を始めると、すぐにあらわれ始め、その後、吐き気止めの処置を受けても一向に治まる気配がありません。

そこでOさんやIさんにメールで相談すると、すぐにメールで「抗がん剤治療では吐き気が出る前にあらかじめ吐き気止めの薬を飲めばいい」との答えが返ってきました。実際、2回目からの抗がん剤治療では、その方法で吐き気を抑えることができ、私は抗がん剤治療中にベッドで確定申告の書類作りができたほどでした。

また口内炎対策でも、医師にお願いして、早めにうがい薬を貰い、うがいをするように、とのアドバイスをもらいました。

食道炎ではひどい痛みと、食べ物が食べられなくなり、苦しみましたが、モルヒネ製剤が効くと教えられて処方してもらい、しのぎました。

そうした実際的な対策だけでなく、2人には精神的な支えにもなってもらっていました。

「大丈夫」「治る」「副作用は薬が効いている証しだ」。そんな言葉がメールのやりとりで返ってきて、治るという希望を持ち続けることができたのです。

つらい治療が終わってがんが消え、現在は4年経ち、再発・転移もなく元気に過ごしております。私がお世話になったOさんとIさんの2人へ、少しでも恩返しができればと願って、がん患者と家族・遺族の会「どんぐりの会」にも入会して定例会などで、自分の治療体験を他のがん患者さんに伝えています。

私の話を聞いて、「元気になった」と言われることもあります。

抗がん剤治療は長丁場。生活を楽しむことが大切
富田マチエさん(仮名)(主婦) すい臓がん

私がすい臓がんの切除手術を受けたのは、2007年2月のことでした。見つかったときにはすでに手遅れになっていることが多いすい臓がんですが、私の場合は幸い、すい頭部に8ミリほどのがんができていた時点で発見され、無事に手術を終えることができました。

とはいえ、それで治療が終わるわけではありません。私はもともと抗がん剤については否定的でしたが、再発の不安を思うと手をこまねいているわけにもいきません。

そこで標準治療になっているジェムザール(一般名塩酸ゲムシタビン)による抗がん剤治療を標準の量よりも少ない量で受けることにしたのです。

最初は副作用が心配でしたが、試しに治療を受けると、倦怠感、発熱はあるものの、耐えられないほどではありません。そこで当初予定していた回数を終えた後も2週に1回のペースで治療を続けています。もっともそれはあくまでも原則としてのペースです。

たとえば墓参りや最近始めた絵画制作のためのスケッチ旅行などの予定があるときは、治療を休ませてもらうようにしています。またお正月や夏の暑い時期にも、やはり休暇をいただくようにしています。

抗がん剤治療は長丁場になります。治療も大切ですが、体調を整え、生活を楽しむことも私にとっては、やはり重要です。

がんとの共存を果たしていくために、これからもこの「チャランポラン療法」を続けていくことになるようです。

ジャズの響きに身を委ね、副作用の嵐に耐える
吉田六朗さん(仮名)(無職) 大腸がん

毎年、受診している人間ドッグで大腸がんが見つかったのは07年10月のことでした。同じ年の12月に患部を中心にS字結腸を25センチ切除、その後、再発予防のために5-FU(一般名フルオロウラシル)によるウイークリー(毎週)投与の抗がん剤治療を6回にわたって受けました。その抗がん剤治療でつらかったのは全身を襲う激しい倦怠感でした。

抗がん剤の投与を受けるのは毎週木曜日。その翌日から日曜にかけての3日間は、ベッドから起き上がれないほどの疲労感に見舞われます。妻は気を遣って、食事をどうしようかと話しかけますが、ついつい「うるさい」と言葉も荒ぶるほどでした。

そんな私の慰めになってくれたのが、若い頃から親しみ続けていたジャズでした。

ルイ・アームストロング、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン……。耳慣れたトランペットやサックス、ベース音に身を委ねていると、気持ちが落ち着き、心なしか痛みも和らぐようでした。

そうして私はじっとベッドに横たわりながら、まるで嵐が過ぎ去るのを待つように、全身を襲う疲労感や疼痛に耐えていたのです。音楽という楽しみがあってよかった。

つらかった抗がん剤治療を振り返るたびに、そんな思いに浸っています。

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