2次障害を予防して生活の質を保とう 抗がん剤による末梢神経障害の特徴とその対策

監修:田墨惠子 大阪大学病院化学療法部看護師長
取材・文:増山育子
発行:2008年4月
更新:2019年7月

蓄積毒性で慢性的なしびれに

プラチナ製剤と呼ばれるブリプラチンまたはランダ、プラトシンやエルプラットは、蓄積毒性をもち、シスプラチンは体表面積あたり600ミリグラムを超えると、ほぼすべての患者さんに何らかの末梢神経の症状(ニューロパチー)が出てくるとされる。

なお、エルプラットは蓄積量に関係なく出現するタイプのしびれももっている(後述)。

「このようなしびれはプラチナ製剤の蓄積によって起こる末梢神経障害と考えられています。シスプラチンのように薬の量がたまってくると副作用が出る可能性が高くなる薬剤の場合には、回数に応じて、出現するかもしれないという心構えをされるのも対処方法の1つかと思います」

オキサリプラチンの急性反応は要注意

プラチナ製剤のエルプラットは、投与直後に現れる急性の末梢神経障害と、回数を重ねることで現れる慢性の末梢神経障害とがあることが知られている。とくに急性の反応は寒冷刺激で誘発されるという特徴をもっているため、冷たいものを飲む、冷たいものを触るというような行為を避けることが必須で、とくに冬は、肌が外気にさらされないよう、外出時には手袋を装着するなどの対策が必要だと田墨さんは注意を促す。

「冷たいものを飲んだり食べたりすると喉が締め付けられるように感じるなどの症状が出ます。初めて体験されて驚かれる方もいます。たとえば治療後に、何気なく病院の自動販売機で冷たい飲み物を取り出そうとしたら手に強いしびれを感じたとおっしゃった患者さんがいます。この急性反応は出現頻度が高く、多くの方に出ることを知っていただき、予防に努めてください」

自分にあった楽になる方法を見つける

末梢神経障害には決め手になる対策が見つかっておらず、現在は、薬剤の減量か休薬、中止しかないとされており、治療を継続している間は、しびれそのものをなくすことは難しい。そこで体感としてこらえやすくする方法を試してみて、自覚症状の軽減をはかることが勧められる。

冷えるとしびれがひどくなるように感じられるので、「末梢を冷やさないこと」がポイントだ。

「普通は入浴後しばらくすると足が冷えるのを感じますが、しびれているとそれを感じにくいので、お風呂からあがったら靴下をはいて、温かくしておいてください。またエルプラットを使っている方は、朝、顔を洗うときは一番にお水を触らないで、家族の人に洗面所を使ってもらい、その後からにしましょう」

湯たんぽやカイロは低温やけどが起こることもあるので、使うときには十分な注意が必要だ。局所だけを温めるのではなく眠るときには布団全体を温めるようにする。また、マッサージは苦痛だと感じる人もいるが、気持ちがよいと感じたら続けてみるとよい。

ビタミンや漢方薬で改善される人も

[手足のしびれ対症療法]

  • ビタミンB6・B12
  • 牛車腎気丸
  • NSAIDs

対症療法としてビタミンB6やビタミンB12、漢方薬の牛車腎気丸など、神経痛、下肢痛、末梢神経炎などの治療に使う薬が処方されることもある。

「そのほか、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が処方されることもあります。ビタミンや漢方薬、痛み止めの薬などを使うと、多少ましになるという患者さんもいます」

2次障害の予防さらに苦痛を生み出さないことが重要

末梢神経障害の出てきた人に心がけてほしいのは「これ以上つらい症状を増やさないようにする」ための2次障害の予防だと田墨さんは強調する。

たとえば、手の指先がしびれて調理がしにくいと感じている主婦であれば、そのうえに包丁で指を切って怪我をしたら、さらに作業がしにくいし、苦痛が増す。また足の場合もしびれが進行すると、足が地についている感覚がなくなり、歩きにくく、転倒する、という事故もある。

「刃物を使うときは慎重にしてほしいですし、何気なく持ったものが熱くて火傷をする、熱い飲み物が入ったカップをつかみそこなって落としてしまい、火傷をするといったことに注意していただきたいです。
日頃、ちょっとした注意をすることで、しびれによって2次的に起こる困る事態を回避することが大切です」

足の指先は盲点 爪切りは丁寧に

イラスト

手の指先ほど気にならないのか、見逃しがちになる足の指先は注意が必要だ。足の指は靴のなかで無意識に圧迫を防ぐために動いているが、しびれているとそれができないため爪のあたりが圧迫され、痛んでくる。もともと抗がん剤は爪毒性という、爪が浮きやすくなる副作用があるので、常々観察するようにしたい。

足の指の爪を切るとき、深爪になったり、2次的に巻き爪になることも多いので、お風呂から上がって柔らかくなっているときに、丁寧に切ることを気に留めてほしい。

また、足の軽い水虫が、しびれのために念入りに洗っているつもりが洗えなくなったのと、靴を脱いで足を空気にさらすとことをしなくなったのが影響したのか、ひどく悪化したという例もある。気をつけたいケースだ。

日常生活に応じた工夫で乗り切る

外出の機会が多い人なら、とくに靴選びは慎重にする必要がある。

「履きやすそうだからといって靴を通信販売で購入したりせず、売り場に出向いて両足とも履き、少し歩いてみてから買ってください。底が薄いと刺激を強く感じることもあるので、底が厚いものがいい場合もあります。それは人それぞれなので、自分にあったものを選んでほしいのです」

一方、包丁を持つと手を切りそうな場合には、キッチンバサミ、ピューラー、フードプロセッサー等を利用する方法もある。

ただフードプロセッサーの後片付けは慎重に行う必要がある。

「しびれという症状自体はもち ろんつらいのですが、それによって本来できていたことができなくなる、それで患者さんは自分自身を追い詰めるように思います」と田墨さん。

「患者さんは今までできていたことでできなくなることを増やしたくない、努力してできるなら自分でやりたいという思いが強く見受けられます。私たちは患者さんの生活に目を向けて、その背景を考慮した上で、それに応じた支援をするように心がけています。
医療者は現時点では末梢神経障害は抑えられないと考えていますが、患者さんにとってはとてもつらい副作用です。それを患者さんがどんどん訴えてくださったら、対策が必要だということで、研究が進むのではと思います。
糖尿病による末梢神経障害も仕方のないことだといわれていたのが、メカニズムが解明され、内服薬で改善されるようになったように、今後、有効な対策が見つかっていくことも予想されます」

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