副作用を最小限に抑えるために、抗がん剤と抗がん剤治療について理解する 抗がん剤治療の副作用はこうして乗り切ろう
心理的な要因が症状につながることも

がん診療連携拠点病院の相談支援センター
また、こうした悪心、嘔吐などの消化器症状で知っておきたいのが、心理的な要因が絡んでいるケースも決して少なくないことだ。
「以前、抗がん剤治療などでつらい思いをした患者さんのなかには、そのことが心理的なトラウマとして作用します。その結果、抗がん剤治療前に不安が募り不眠になったり、抗がん剤が入っていない輸液を見ただけで、悪心・嘔吐などの症状が現われるのです。私の経験では4人に1人くらいは、そうした予測性の症状を呈しています」
と、田村さんは語る。
この場合には、制吐剤はまったく効果がなく、安定剤、睡眠剤、さらにカウンセリングなどの心理療法が行われることになるという。こうした心理的要因が絡んだ症状を予防するには、病院の治療スタッフと積極的にコミュニケートして、不安や恐れを解消するよう努力する。
余談になるが、そうした心理面を考えると、看護師をはじめとするスタッフが、同じ病気を扱っている豊富な知識と技術を持っている専門クリニックでの治療にも一考の余地があるとも田村さんはいう。
話を戻すと、同じ消化器症状で、食欲不振が長く続くと水分・食事摂取量が少なくなり体内の水分不足につながりやすく、投与された抗がん剤が体内で高濃度に蓄積される危険性もある。
たとえばエンドキサンを大量に使用した場合には、高濃度の代謝産物を含む尿が膀胱に接触して、出血性の膀胱炎を引き起すことも考えられる。そこで田村さんは、食欲不振を訴える患者に対しては、1日2リットル以上の尿量を目安に、積極的な水分摂取を指導しているという。
「泣いても泣ききれない」口内炎の痛み
抗がん剤の副作用といっても悪心、嘔吐などの消化器症状の場合は、症状の程度はまちまちで、まったく現われないことも���る。悪心・嘔吐は気持ちが悪いもので大変ではあるが、一旦起こると過酷な症状が現われることが多いのが、口内炎をはじめとする粘膜障害だ。
この副作用は胃がん、大腸がん、乳がんなど多くのがん治療の中核薬剤として用いられる5-FUをはじめとする代謝阻害作用を持つ抗がん剤やアントラサイクリン系、さらにエンドキサンを投与した場合に発生することが少なくない。また、一旦発症すると重篤な粘膜障害を起こすのはメソトレキセート (一般名メトトレキサート)という薬剤だ。
「抗がん剤の多くは、細胞のDNA合成期に作用するため、がんと同じように分裂の活発な細胞に働きます。そのことを考えると骨髄、皮膚、粘膜に副作用が現われるのも当然のことといえるでしょう。そのなかで皮膚や粘膜は私たちの体を保護するバリアーとしての役割を担っています。そのバリアーが破壊されるのですから、人体には深刻な影響が生じます」
と、田村さんは話す。
そうした皮膚、粘膜に現われる副作用の中でも、もっとも痛烈なダメージがもたらされるのが口内炎だ。
口内炎になると「泣いても泣ききれないくらい痛い」(田村さん)症状そのものに加え、激烈な痛みから口を開けることもできず、食事や飲み物がほとんど取れなくなることもある。その結果、体力が低下して、十分な治療が行えないままに病状が悪化することもある。患者にとってはやっかいこのうえない副作用といえるだろう。そこで粘膜障害が起こった場合は、原則として、それまでの抗がん剤治療は中断されることになるという。
「粘膜障害が起こると、粘膜の回復を待つために数日から1週間程度、治療を中断します。もっとも口内炎の場合は、摂食障害につながる危険のある場合は、症状緩和のために鎮痛剤、状況によっては医療用麻薬を用いて、少しでも食べてもらうようにつとめます」(田村さん)
下痢が起こった場合は粘膜の回復を待つ
薬剤(商品名) |
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塩酸イリノテカン(カンプト、トポテシンなど) |
ドキソルビシン(アドリアシンなど) |
メトトレキサート(メソトレキセート) |
フルオロウラシル(5-FU) |
エトポシド(ラステット、ベプシド) |
シタラビン(キロサイド、サイトサールなど) |
ダクチノマイシン(コスメゲン) |
また抗がん剤の副作用として多くの患者が悩まされる下痢も、粘膜障害の結果として起こることが少なくない。
「下痢は腸管内の副交感神経が刺激されて起こる場合と、腸管内の粘膜が損傷を受けて生じる場合に分かれます。神経的な原因で起こっている下痢は短期間で回復することが多いものですが、粘膜障害が原因で起こっている場合は、粘膜が剥がれ落ち、バリアー機能が低下しているためにさまざまな刺激を受けやすい状態になっています。
また、そうした状況では白血球も減少傾向にあることが多く、そのことも相まって、敗血症を含めた重篤な感染症が起こる危険もある。そのために粘膜障害による下痢が起こった場合には、数日から1週間程度治療を中断し、粘膜の回復を待つことになります」(田村さん)
粘膜障害について、1つ付け加えると、肺がん、胃がんなどの治療に用いる塩酸イリノテカンが体内で高濃度に集積すると、遺伝子的に口内炎などの粘膜障害が起こりやすい人もいるという。アメリカでは、すでにそうした状況に備えるために、遺伝子を調べる検査キットが広く普及しており、日本でも近い将来には、臨床で用いられる可能性が高いという。
白血球減少もコントロールできる
さらにもう1つ、悪心、嘔吐などの消化器症状や皮膚・粘膜障害と並んで、どんながんにも起こりやすい副作用が、骨髄がダメージを受けることで起こる白血球減少だ。
一般に白血球減少というと、好中球、血小板の減少が想起されるが、田村さんはじっさいには、血小板の減少が深刻な問題になることはあまりないという。ただ、好中球の減少はひんぱんに見られ、時にはそれが原因で重篤な感染症が引き起こされる危険もある。
かつてはそうした危険に医師が過敏に反応していたこともあってか、そうした危険を回避するために、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子、商品名ノイトロイジンなど)という薬剤が多用されていたこともあった。しかし、現在ではがん種にもよるが、多くの場合は、その時々の患者のリスクに応じて用いられるようになっているという。
「たとえば乳がんの場合を見ると、重篤な感染症が生じるリスクはそれほど高いわけではありません。そこで最近の研究結果をもとに、経口の抗菌剤が用いられるようになっています。ほとんどの場合は、それで十分に感染症の発症をコントロールすることが可能です」(田村さん)
もっとも、その場合でも発熱とともに咳、腹痛などの症状がともなっており重篤な感染症に発展するリスクが高い場合や、白血球減少が顕著で発熱の可能性が20パーセントを上回っている場合には、G-CSFが用いられるという。
また白血球減少とは別に、抗がん剤の副作用として貧血が起こることもある。この場合にはエリスロポエチン製剤(商品名エポジン)が効果的で、現在、日本でも臨床試験中だ。しかしアメリカでは、この薬剤を用いることでがんが進行しやすくなっているとするデータもあるので要注意だ。
うがい | うがいにより口の中を清潔に保つ。うがい薬が処方されることも |
手洗い | 外出後、食事前後、排泄の後は必ず手を洗う |
マスク | 外出するときはマスクを装着。抗がん剤の治療中はできるだけ外出を控える |
食事の制限 | 疾患の種類や状態によって、刺身などの生ものが制限される場合がある |
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