適切な対策を知って副作用を和らげ生活の質を保とう 抗がん剤治療時のセルフケアと患者心得集

監修:飯野京子 国立看護大学校成人看護学教授
取材・文:池内加寿子
発行:2008年4月
更新:2013年6月

副作用の症状と発現時期

副作用についての予備知識をもっていると、闇雲に不安を増すことなく、医師の説明も理解しやすくなります。

副作用には症状が出るものと、血液検査で分かるものがあります。

自覚症状があり、患者さんがもっとも苦痛を感じやすい代表的な副作用が、吐き気、脱毛、口内炎です。一方、血液データで分かるものの代表が骨髄抑制(白血球、赤血球、血小板の減少)です。

起こりやすい副作用や発現時期は、抗がん剤の種類や組み合わせによっても異なります。たとえば、シスプラチン、パラプラチン(一般名カルボプラチン)アドリアシン(一般名塩酸ドキソルビシン)等では吐き気、イリノテカンでは吐き気や下痢、タキソール(一般名パクリタキセル)やエルプラット(一般名オキサリプラチン)ではしびれが起こりやすいといわれています。

骨髄抑制は多くの抗がん剤で起こります。

発現時期の一般的な目安としては、投与当日、翌日から5日目ごろまでは吐き気や下痢、4~6日目ごろから口内炎、10~14日目ごろから骨髄抑制、その後脱毛が起こりやすくなります。

最近では、多剤併用のレジメンが多く、投与スケジュールが複雑なので、副作用の時期がずれてきたり、複数の副作用が重なったりすることがままあります。また、新しい抗がん剤の登場により、従来の副作用とは異なる副作用が生じることもあるかもしれません。

一般論ではなく、ご自身が受ける治療のスケジュールと副作用の具体的な特長と注意点について、事前に医師に聞いておくことが大切です。

どんな副作用がいつごろ出始めていつまで続くか、初期の兆候、回復の目安、どんな場合に連絡したらよいか、また、副作用が起こった場合の対処法、食事などの生活上の注意なども聞いておきましょう。

[抗がん剤による主な副作用の発現時期の1例]
図:抗がん剤による主な副作用の発現時期の1例

吐き気や骨髄抑制は対策を立てやすい

吐き気は予防できる

抗がん剤の副作用の代名詞のように恐れられてきた吐き気については、前述の5-HT3受容体拮抗剤の登場によって、とくに投与当日の急性嘔吐をかなり防げるようになっています。

それ以前は、プリンペランなどの薬剤を1日に40本も使って��射薬を作り、シスプラチン等吐き気の強い抗がん剤投与時に使っていた時代がありました。

現在では、抗がん剤投与前に予防的に制吐剤を点滴で入れるのが普通です。吐き気が強いときは医療者に確認してみるとよいかもしれません。

抗がん剤によって口から肛門まで、消化管の粘膜は全体にダメージを受けるので、吐き気だけでなく、ムカムカや味覚異常が起こり、食欲が低下しがちで、下痢や便秘などの消化器症状も起こりやすくなります。

食事は、「食べたいものを食べたいときに」少しずつ食べるとよいでしょう。ご飯やおかゆなどのムッとしたにおいが吐き気を誘発することがあります。好みもあるでしょうが、温かいものより冷たいもののほうが食べやすいともいわれています。

感染予防のコツ

骨髄抑制によって白血球が減少すると免疫力が落ちて感染しやすくなります。感染予防のコツは外界と接する体の穴(鼻、口、肛門、尿道、腟)や手を常に清潔に保つことです。ふだんからうがい、手洗いを励行し、入浴やシャワーで体を清めて、感染予防の習慣をつけましょう。

白血球減少のピーク時(概ね2000/マイクロリットル以下)には、普段のうがいや手洗いに加えて、外出を控え、マスクをつけ、生ものを避けるなどの注意をするとさらに細菌やウイルスを防御しやすくなります。

血小板が減少しているときは出血しやすくなるので、ぶつけたり、傷つけたりしないように注意します。傷は感染の原因にもなりますから、調理中の切り傷、やけど、庭仕事、大工仕事にも気をつけましょう。

白血球数の減少時に概ね38度以上の発熱があったら感染が疑われます。自己判断で解熱剤を飲むと、治療に影響することがあるので、発熱した場合はどうしたらよいか、飲んでもよい薬はなにかなど、医師に確認しておきます。解熱剤等を使った場合は、医師に報告してください。

しびれと脱毛は対処が難しい

決定的な改善法がないのがしびれと脱毛です。病院によっては独自に薬剤等でしびれ対策を行っているところもありますが、抗がん剤の種類を変えたり、中止したりすることも少なくありません。 脱毛は致命傷にはならないものの、患者さんにとって深刻な副作用です。はらはらと抜けるのではなく、ある日突然、束になってバサッと抜け、容貌も変わるので、そのショックは計り知れません。実際に経験することは想像以上につらく、「髪が抜けて、大変な病気になったと感じた」という声もあります。

男性だからといって決して軽んじず、周囲の人も、男女を問わずつらい当事者の気持ちを察するようにしたいものです。

脱毛予防法として、抗がん剤の投与中に頭を冷却するとよいという説がありますが、確かなことは分かっていません。

脱毛が予想される場合は、医療用かつらや帽子、バンダナなどを用意しておくとよいでしょう。つけ毛つきの帽子などを製作しているところもあります。男性の場合、頭髪がある状態でかつらをつくるとサイズが合わないことがあるので、サイズ調節できるように工夫してもらいます。

シャンプーは一般のものでかまいませんが、皮膚も傷んでいるので、地肌を傷つけないようにやさしく洗いましょう。髪が抜けるのを心配して洗わないでいると不潔になるばかりでなく、次に洗ったときに抜けるので、いつもどおりの間隔で洗うのが賢明です。

[副作用の程度の基準]

グレード 1 2 3 4
嘔吐 24時間に1回の嘔吐 2~4回の嘔吐
<24時間の静脈内輸液を要する
≧24時間の静脈内輸液
またはTPNを要する
生命を脅かす
白血球 <LLN-3000/mm3 <3000-2000/mm3 <2000-1000/mm3 <1000/mm3
http://www.jcog.jp/index.htm:有害事象共通用語規準v3.0 日本語訳 JCOG/JSCO版・2004
LLN-lower limit of normal.: 正常値下限

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