抗がん剤治療を上手に乗り切るための患者サポート 意味のある人生を送るためにも、医療者と二人三脚で取り組むことが必要

監修:小迫冨美恵 横浜市立市民病院がん看護専門看護師
取材・文:松沢 実
発行:2006年11月
更新:2013年8月

不確かだからこそ医療者と二人三脚で取り組むがん化学療法

がん化学療法を受けている患者のうち、自分の受けている治療法について1度も迷わない患者はいないだろう。

「主治医から受けている現在の化学療法は、果たして正しいのだろうか」

「いま受けている治療は、いつまで続けるのだろうか、どこまでやればいいのだろうか」

こうした疑問を持ちながら、どうしても主治医に言い出せないがん患者は、自分の担当のナースや薬剤師に積極的に相談するとよいだろう。

「患者さんからうかがった化学療法についての疑問を、ナースがただ主治医へ転嫁するということはありません。患者さんがそのような疑問を持った経緯や事情などに耳を傾け、共に疑問を解消する立場に立ち、主治医と話し合う機会を設けようと努めてくれるはずです」(小迫さん)

実は、がんの化学療法はいまだ発展途上の段階にあり、いまのところ化学療法で治癒が得られるのは血液がん(白血病や悪性リンパ腫)などの一部のがんでしかない。乳がんや前立腺がん、大腸がんなどの固形がんを治癒させることはできず、症状の改善や延命効果を得るのが治療目的だ。

しかも患者によっては症状が大きく改善したり、長期の延命が得られたりする一方、まったく治療効果の認められない患者や、副作用に苦しむだけの患者もいる。

加えて、あらかじめ治療効果が得られるのはどの患者かわからないので、まず受けてみるしかない。受けてみて効果の有無を確認するしかないが、そうした限界を抱える化学療法に迷いが生じるのは当然といえば当然だ。

一方、主治医にしても、あらかじめ1人ひとりのがん患者について化学療法が効くかどうかはわからない。経過を見ながら慎重に判断し、他の抗がん剤に切り替えたり、化学療法の継続や中止を決断したりする。

「いまのところ抗がん剤の効果は不確かなのです。効くかどうかは医師にもわからないというのが正直なところで、だからこそ医療者と患者はよく相談し、二人三脚で化学療法を進めていかねばならないのです。患者さんは自分の受けている化学療法について疑問を持ったら、ナースや薬剤師に相談し、ご自分の本音を語っていただけたらと思います」(小迫さん)

[抗がん剤治療の効果判定基準]

図:抗がん剤治療の効果判定基準
完全寛解(complete responce; CR)
がんがすべて消失した状態で4週間以上継続したもの

部分寛解(partial responce; PR)
がんの縮小率が50%以上で新しいがんが出ない状態が4週間以上継続したもの

不変(no change; NC)
CR/PR/PDのいずれにも該当しない

進行(progressive disease; PD)
がんの25%以上の増大、または新しいがん

人生にかかわる本音を話し合える環境づくりも担うがん専門看護師

ときにはがん患者とその家族、主治医が三すくみの状況に陥り、化学療法によって患者の生活が損なわれているにもかかわらず、漫然と継続していることもある。

すなわち、がん患者は化学療法の効果を実感できず、「もうそろそろやめたい」と思っているものの、治療の継続を強く願う家族の手前、それを言い出せない。

家族のほうも内心は「もう抗がん剤は苦痛を与えるだけだ」と考えていても、患者の希望を奪ってしまうのではないかと恐れて化学療法の中止が言えない。主治医も効果の期待できる他の抗がん剤が見あたらないため、これまでと同じ化学療法を続けるしかないという状況だ。

「こんな三すくみの状況に気づきやすいのは、やはり現場のナースです。私たちがん専門看護師やがん化学療法看護認定看護師は担当のナースから相談を受け、がん患者さん本人や家族、そして主治医と個別に相談し、それぞれの考えを聞き出し、3者が本音で話し合える土壌や環境をつくっていくこともあります。
実はこれまでの経験からわかったことですが、治療法が尽きてしまった段階で、今後、どのように患者さんが生きていきたいのかは、みなさんが一番話し合いたい話題なのです。がん患者さんや家族の人生にとって意味ある時間にするために、そうした悩みを、私たちに投げかけていただきたいと思います」(小迫さん)

化学療法へ充実した援助のきっかけとなった外来化学療法室の開設

図:横浜市立市民病院の外来化学療法室

外来化学療法室が設けられたことで患者と医療者のコミュニケーションがよくなった

図:チェアベッド

横浜市立市民病院に今年開設された外来化学療法室

横浜市立市民病院では今年、新たに患者のプライバシーを尊重した良質なアメニティ環境の外来化学療法室(チェアベッド6台とベッド9台)を開設した。

毎月、延べ200人のがん患者が通院で抗がん剤治療を受けており、専用の外来化学療法室がつくられたことでがん患者と医療者とのコミュニケーションがスムーズにとれるようになった。

「事実、外来化学療法室の開設によって、患者さんと私たちナースがこれまでより早期にいろいろな問題について話し合えるようになりました。
『いまの治療が終わったら、この先はどうしたらいいのだろうか』『いつまで自宅で療養できるのかしら』『緩和ケアについて知りたい』などという相談が寄せられ、早い時期から治療と緩和ケアを並行して行う緩和ケアチームとの協働が可能になってきています」(小迫さん)

化学療法を受けるがん患者は、抗がん剤の副作用による苦痛をはじめ、治療への迷い、家族への遠慮、あるいはうつ症状の発症などさまざまな問題に直面することが少なくないが、すべて自分1人で抱えこむ必要はない。

最近は各地の地域がん診療連携拠点病院などにがん専門看護師や化学療法看護認定看護師など専門性の高い看護師も配置され、さまざまな援助の手がさしのべられるようになった。現在、全国でがん看護専門看護師は58人、がん化学療法看護認定看護師は148人を数えるが、今後はさらに増えていくのは間違いない。化学療法を受けているがん患者にとって、医療者に悩みや問題を相談し、支援を受けられる環境はより整備され充実してきたといえるだろう。

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