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密接な関係のがんと糖尿病はセットで考えて治療する
食欲低下による低血糖に要注意
「もう1つ注意すべきことは、抗がん薬治療をすると食欲が落ちることで、食事量の変化に合わせて血糖降下薬やインスリンの投与量を調節しないと、低血糖を引き起こす危険性が高くなります。ただ、だからといって血糖降下薬の服用やインスリン注射を完全に止めてしまうと逆に高血糖になって、さらに具合が悪くなることもあります」
また、食欲不振の対策としてよく高カロリー輸液が行われるが、糖尿病患者さんでは血糖の変化に注意しながら行わないと高血糖性昏睡の原因になることがあるという。
一方、抗がん薬の副作用による白血球減少で発熱をきたすと、全身のストレスを高めるので血糖値が高くなりやすい。
「抗がん薬の中に特定の分子だけに的を絞った分子標的薬がありますが、その一部にはがんの増殖を抑制すると同時にインスリンが働くための信号も遮断してしまうものもあり、インスリンが効きにくくなり、既に糖尿病がある患者さんでは血糖コントロールが悪くなったり、今まで糖尿病でなかった患者さんが糖尿病になる可能性もあります。そのほか、影響は弱いが乳がんや前立腺がんで使われるホルモン製剤も血糖コントロールを悪化させることがあります」
がん治療中には食べられるものを
「糖尿病だけの場合と、糖尿病とがんの両方と付き合っていく場合では考え方を変える必要があります。糖尿病の経験が長い患者さんの場合、これまで一生懸命に食事療法や運動療法に取り組んで来た人が多いので、抗がん薬の副作用で食事が十分に食べられなくなった場合、甘い物ならなんとか食べられるとしても、今までなるべく食べないようにしてきた食べ物を口にすることに罪悪感を覚える患者さんは少なくありません。
しかし、がん治療では、できるだけ食べて体力を付ける必要があるので、ご家族も『それ食べても大丈夫なの?』と不用意に患者さんを心配させないようにしてください」と大橋さんはアドバイスする。
むしろ、食欲が落ちてほとんどものが食べられないような状況では、何であれ食べられるものをしっかり食べることが基本。血糖が上昇してもがん治療(とくにステロイド薬)のために上がっていることも多いので、糖尿病の治療薬をしっかり使って乗り切ることが大切であるという。また、がん治療中はほとんどの患者さんが痩せており、食べてもどんどん太ることは少ないので、しっかり食べるほうがよいということ。
ただ、頭ではわかっていても、食事療法の習慣が身に付いているた���に、なかなか考え方を切り替えられない患者さんがほとんどであるという。
血糖値をしっかり管理して食べる
末期がんを抱えた糖尿病患者さん本人や家族の中には、糖尿病のことなど気にせず、好きなものを食べたらよいと考える人もいるが、例えばその患者さんの血糖が400㎎/dLになっているということは、摂取した糖分を体が利用できなくなっているという証拠であり、がんが末期だからといって、血糖が400㎎/dLのままだと、患者さんがいくら頑張って食べても太れないと指摘している。
「体重増加したい、太りたいときは、血糖をしっかり管理しながら食べることが大切ですが、それが患者さんやご家族に理解されていません」
もちろん、患者さんの負担が小さい範囲内でという制限はあるものの、血糖コントロールをあまりおろそかにすると、体力的な面でがんの治療を続けることができなかったり、体調が悪化したりすることが知られている。「少しでも自分のためになるのなら、しっかり血糖値もコントロールします。がんは自分ではどうしようもないですが、血糖はがんばれば下がりますから」そう言って最後まで糖尿病をあきらめないがん患者さんも多いと大橋さんは言う。
貧血時はグリコアルブミンを指標に
がん治療中の患者さんでは糖尿病コントロール指標のHbA1cの値が低めに出ることが知られている。HbA1cは赤血球に含まれるヘモグロビンという酸素を運ぶタンパク質にブドウ糖が結合する割合をパーセントで示した値で、過去1~2カ月の血糖コントロールの平均的な状況を表す指標だ。HbA1cが正しく血糖コントロールを反映するには、赤血球の寿命が正常であることが前提になる。
しかし、抗がん薬治療を続けると、骨髄の機能が抑制されて貧血が起こることが多く、赤血球の寿命が不安定になってHbA1cは実際の血糖コントロールよりも低めの測定値となる。また、貧血の治療で鉄剤が投与されたり、輸血を受けたりすると、HbA1cは見かけ上改善する。したがって、がん治療中の糖尿病患者さんでHbA1cだけを診ていると、糖尿病の悪化を見落とす可能性があるのだ。
「貧血など赤血球の寿命が安定しない患者さんに対しては、通常、HbA1cの代わりにアルブミンとブドウ糖が結合したグリコアルブミンを測定します。これは糖尿病分野では常識となっていますが、糖尿病専門医がいないがん専門医療機関ではあまり知られていないことが多いのです」